第40話 ドラゴンブレス⑥

(ギース)


 俺達は俺のパーティとミルキーのパーティーの10人で、カール村を目指している。


 勿論子爵としての凱旋だから、全員騎馬で威風堂々とした隊列を整えての移動だ。


 既に王都からは駐留軍として1000人の兵が旧帝国領側の惨劇の平原に派遣され守備に就いている。


 これから先、この地は俺の所領となる事はほぼ決まっているので、グリード王国でも最も豊かな穀倉地帯として、王国を支える事となるだろう。


 現在の疲弊した帝国の戦力では、再び我が王国側に攻め入る判断は帝国皇帝の代替わりでもない限りは、行われないと予想されている。


 まぁ、俺は大人数を相手にするような戦争は実際やったことも無いし、やりたくもないからその方が良いけどな。


 元帝国の農民たちは、政治的な反乱を起こすような勢力が存在しない事も確認されている。


 ただし、この地に住む農民たちも現在の家長とその後継ぎは、この地での農耕生活で問題無いが、次男以降の男子や女子は必ずしも、農家での生活を望むものばかりではない。


 そうなると既に王国国民となっている以上は、王国内の他の街に出て行って、生活を送る事になるだろう。


 ただし、敗戦国に所属していた人間を積極的に受け入れたいと思う、領地がある筈も無いのが現実だ。


 そこで俺は考えてやった。

 俺にこんな閃きがあるとは、実は領地経営にも才能があったんだな。

 持ってる奴と言うのは、きっと俺の様な男の事だ。


「ねぇ、ギース何を一人でぶつぶつ言ってるのよ?」

「ミルキー。今度の新しい領地の農家を継ぐ選択をしている者と、農家への嫁入りを希望している住民以外は、全員『ドラゴンブレス』の下部組織として、冒険者になって貰おうと思う」


「それって、クランで雇って給料を払うとか言う訳じゃ無いよね?」

「勿論給料制ではない。自分たちで稼いで貰うさ」


「それならいいけど。役に立つの?」

「取り敢えず今回の古代遺跡探索で、使える奴とそうで無い奴の見分け程度は出来ると思う。全部で200名程は連れて行って、俺達の指示通りに動けるかどうかだな」


「大丈夫なの? 古代遺跡は昔の探索で1000人もの被害が出たんでしょ?」

「ミルキー。俺達は誰だ? 世界初のSランクダンジョン踏破クラン『ドラゴンブレス』の最精鋭パーティだぞ? 他の奴らが間抜けだったってだけだ。俺達なら、いや、俺なら問題無くこの古代遺跡を攻略して、さらなる躍進を遂げるさ」


「流石だね。ギースがそう言うなら、本当にそうなる様な気がしてきたよ。この遺跡の攻略に成功したら、私も陞爵の話が来るように頼むね」

「ああ。任せておけ。自分の陞爵は申請出来ないが、自分より二階級以上、下の者に対しては推薦出来るからな。古代遺跡の攻略が実現すれば問題無いだろう。今の俺なら侯爵家以上の貴族から推薦を貰わねばならないから、王都でのロビー活動も頑張らねばな」


「なんだか、すっかり貴族様だね。私はまだ貴族らしい考え方なんて出来そうも無いよ」

「ミルキーは結構向いてるんじゃないか? まぁ今は古代遺跡の事を考えよう」



 ◇◆◇◆ 



 カール村に到着した俺達一行は、まず俺の出身の孤児院を訪れる事にした。


 しかし、俺が12年ぶりに訪れたカール村には昔の面影が全くなかった。


「どういう事だ?」

「どうしたのよ。ギース」


「村が、新しく生まれ変わってるんだ。俺の居た時と全然違う。活気があるしあちこちで、工事も行われて人も増えている」

「この間の戦争で、一度壊されてしまったから、ギースのお陰で戦争も勝利に終わって、資金も余裕があるんじゃ無いの?」


「あ、ああ。そうだな」

「孤児院って何処なの?」


「聞いてみよう」


 俺は村で工事をしていた男に、この村の孤児院がどうなったのかを聞いた。


「孤児院ですか? 放牧がしやすいように牧草地帯の方に、引っ越しましたよ。最初に工事に取り掛かったから、もう出来上がってます。牛舎や鶏舎も全て新しく規模を拡大してますよ。礼拝堂も孤児院に隣接して作られました」

「そうか。ありがとう」


 俺達は10人揃って、騎馬で颯爽と孤児院を訪れた。


「シスター。無事で何よりです。『ギース・フォン・ドラゴンブレス』子爵がこの領地の領主代行として赴任して参りました。お困りの事があれば何でもご相談下さい」

「ギース君なの? 立派になったんだねぇ。亡くなった司教様も天国で喜んでらっしゃるでしょうね」


「いやぁ、それ程の事はありますけどね! 冒険者として身を立て世界初のSランクダンジョンの攻略を持って、貴族に序されました。それに加えて先日の帝国との戦争の後始末で功績を認められ、この度の領主代行を命じられたのです」

「あら? 戦争の時も来てたの?」


「勿論です。帝国を追い払って敗戦を認めさせる大切な職務を行いました」

「いやだ、そんな冗談は駄目よ? ギース君」


「いや…… 冗談でなく」

「だって、私はこの目でしっかりと、この村を占領した1万の軍を、カイン君が追い出して私や孤児院の子たちを助け出してくれた所を見てたから」


「え? カインは死んだのでは?」

「何言ってるのよ。カイン君はこの村で生き残ってた人を全員救い出して、またここに戻って来れるようになるまで、生活の面倒も見てくれた上に、この村の復興の為に今行われてる工事の殆どのお金を寄付してくれたんだよ。うちの子供達の英雄だよ」


「なんだって? まさか帝国軍の本体を虐殺したのもカインなんですか?」

「それは知らないわ。カイン君はここの一万人も追い払っただけで誰も殺しては無いから、それは違うんじゃないかしら?」


「そ、そうですか。それならいいけど。てっきり死んだと思ってたからびっくりしました」

「そう言えば、大体なんでギース君は、カイン君をクビにしちゃったの?」


「それは、奴が俺らのレベルとは離れすぎて一緒に行動しても危険だから、本人も納得して辞めて貰ったんです」

「じゃぁギース君はあんなに凄いカイン君よりももっと強いって事なの?」


「当然です。まったく次元が違います。王国も正しくその実力を評価して、俺は子爵カインは平民のままです。それが全てです」

「そうなんだ。それでもうちの孤児院の子たちの中では、カイン君が英雄である事は間違いないから別にいいけどね」


「俺としても、カインが死んだのは後味が悪いと思ってましたから、生きている事が解って安心しました」

「ギース君は領主代行っていう事は、この村で次の領主様が決まるまで過ごすって事なの」


「そうですね。この村の西にある古代遺跡の探索を王国から頼まれていますので、ここを拠点にさせて貰おうと思います。あ、そうそう。大事な事を忘れていました。王都から孤児院の後輩たちとシスターにお土産も持って来てますので」

「あら、それはみんな喜ぶわ。どうぞ中に入ってあなたの後輩たちと会っていってね」


 死んだと思ってた、カインが生き残っていたのは意外だったが、俺としては別にカインが憎いわけでも無かったし、まぁ別に生きてたんならそれで良かった。


 だが、この村に駐留してた一万人の軍をカインが追い出したって、一体どういう事だ? 詳しく聞きたいが、それだと俺にその方法が思いつかない様に思われるのも癪に障るし聞けないな。


「ねぇギース。なんか凄い嫌な予感がするんだけど、大丈夫なの? 遺跡探索」

「何でだ? 今までだって俺と一緒にダンジョンの探索をして困った事なんて無かっただろ? これからも同じだ。俺と一緒に行動する限りは、何の心配もいらないそれが全てだ」


「カインは何でこの村に残って無いのかな?」

「さぁな? 戦争が怖くて逃げだしたのかもな」

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