第18話 帝国軍
「今回の王国の侵攻は楽勝ですねマクレガー大佐」
「あぁ? 戦争なんて言うのは相手を少なからず殺すもんだ。楽勝なんて言ってたら開き直った農民に手痛い逆襲を喰らうぞ? 気を引き締めろ」
「はい、解りました」
なんて部下には言ったが、まぁどう考えても楽勝だな。
こちらが落とすのは1万人の先鋒部隊を伴って、僅か人口200人の農村だけだ。
負ける要素を探すのに無理がある。
何でこんな作戦を実行に移す事になったのかと言うとだ……
半年ほど前に、北方の通商連合国が古代遺跡の発掘に成功した。
そこから現れたのは、ロストテクノロジーと呼ばれる、現代では失われた魔導具の数々だった。
どれだけの価値があるのか想像もつかぬほどの成果だった。
特にめぼしい技術は、魔導通話機と呼ばれる遠隔地との通話を容易にする機械だ。
他にも人口頭脳の組み込まれたゴーレムも沢山発見され、これは生物でもないのに組織だった行動で、古代遺跡の冒険者を襲って来たそうだ。
この技術を再現できれば戦争で味方の被害など出さずに、他国の征服が可能になるだろう。
まだ明らかにされてない魔導具も、あるらしい。
帝国が、古代遺跡を獲得すれば、一気にこの世界を制服だって出来る筈だ。
そこでだ。
我が帝国では残念ながら古代遺跡は発見されておらず、帝国領土から一番近い古代遺跡が、今回侵攻している王国のカール村から西側に10㎞地点へとあると言う情報を得た。
王国側としては、発見当初に国軍とギルドの冒険者を雇い、探索を試みたらしいが、誰も帰って来る事無く、総勢1000名程の犠牲を出した所で、探索は諦めたと言う事だ。
扉から入ってすぐの場所は真っ暗の空間で高速移動を行うゴーレムが襲ってくるらしい、という情報までは入っている。
王国側からしてみれば、この古代遺跡とカール村を結ぶ地域は王国西部の山脈を超えた先にある部分であり、守るのには適していない。
こちらが山脈を超えない限りは、本気で反撃などしてこないだろう。
ただし念には念を入れて、バックアップ部隊として、戦争の気分を味わせる意味合いも込め、成人済みの貴族家の跡取り全員に、諸侯軍を率いさせて控えさせている。
なんとも無駄な出兵だが、9万を超える兵が帝国内の1万を数える貴族家の指揮の元参戦している。
まぁ次世代の貴族家の顔合わせパーティみたいな側面があるのも、否定できないがな。
貴族家にとって大事な事は、戦争で相手を殺す事ではない。
戦争に参加して顔を売る事だ。
見栄えの良い装備を整え、強そうに見える雰囲気を醸し出し、上位貴族家に顔を覚えて貰う。
この行動が帝国の100州一万領地を支えるのだ。
俺達が前線のカール村に侵攻すると、この村には自警団があるだけで、1万の兵を見て、歯向かう事はしなかった。
問題無く制圧だ。
と思ったが、問題が起こった。
従軍牧師の野郎が、帝国とは違う宗教を崇拝する王国の司教を殺害しろと言い出して、熱心な信者の兵どもがその言葉通りに司教を殺害したのだ。
よぼよぼの爺さんなんだから、二、三日飯でも抜けば勝手に死んだだろうに、面倒を起こしやがる。
俺は宗教なんか絶対に信じねぇぞ。
所がこの司教は、村人に対して絶対的な信頼を得ていた。
私財をなげうち、孤児を育て成人させる活動を、この村で50年以上も続け、村人たち全員からグランパパと呼ばれる存在だったのだ。
男達が農具を手に立ち上がって、従軍牧師と司教を殺害した兵に襲い掛かった。
まぁ多勢に無勢だ。
曲がりなりにもちゃんと訓練を受けた兵士が、農具で立ちはだかる農民に負ける事は無い。
だが半数近い村人を成人男性ばかり殺害する事になってしまった。
おいおい、予定ではこの村の村人には農作業を続けさせて、食料の補給を担う予定だったんだぞ。
友好的に搾取する計画は頓挫した。
こうなれば、もう支配して短期的にある物を巻き上げる方針に変更だ。
落ち着けば、帝国側から農民を送り込んで補給基地の役を果たさせるようにするしかない。
司教が死に男手も減ると、このカール村で心の拠り所になる存在は誰だ?
何人かの村人に問いかけると、シスター『アリア』だと村人が口をそろえる。
まぁ従軍牧師の奴を刺激しない様に農民と同じ服装に着替えさせ、取り敢えずこれ以上の乱暴はしない事と引き換えに、農産物の提供を指揮させる事にした。
取り敢えず村に居た100頭程の牛を処分して、兵に食わせた。
牛小屋が空いたので、ここに100人弱の村人を押し込めて、毎日決まった作業を行わせる事にした。
一人でも逃亡したら連帯責任で殺すと伝え、その替りある程度村の中では自由に行動させた、
朝晩の点呼の時に頭数が揃っていれば、それでいい。
◇◆◇◆
(一体何が起こった)
カール村の駐屯地がいきなり水浸しになった。
村人たちを閉じ込めている牛小屋辺りから水が溢れ出しているようだ。
駐屯している兵のテントや食料が、どんどん水没して行く。
羊たちが柵を壊し大脱走を始めている。
取り敢えず武器だけを持たせて、水害が無い方へと兵を纏めて整列させた。
1万人の部隊を駐留させるための、食料がほぼ失われている。
こいつは…… 責任問題だな。
気が重いぞ。
カール村は殆ど水浸しで、使い物にならなくなった。
農民たちはどこだ?
牛小屋から水が流れ始めたから、全員溺れ死んだのか?
いや、それなら少しくらいは死体が見つかるはずだ。
集団脱走か……
舐めやがって、捕まえたら全員殺してやる。
取り敢えず、ここに居てもしょうがない帝国領側に場所を移して、本体から糧食を支援させるしかない。
使者は、下っ端では駄目だな。
俺自らが行くしか無いか。
重い足取りで、馬を駆り本隊へと向かった。
◇◆◇◆
「これは一体……」
本隊の駐屯地広大な平原に、近づいて来た。
様子がおかしい。
本営のテントがある辺りに巨大なヒュドラが居た。
3つの首から、炎、雷、冷気を吐き出しながら、黄金の身体で暴れまわっている。
辺りは、死体の山だ。
どれだけの兵士が死んでいるのか見当もつかない。
本営に近い場所だから、貴族家の跡取り息子たちは殆ど巻き込まれているのではないだろうか。
ここに近づくなどただの馬鹿だ。
俺は、カール村方面の駐屯地へ向けて、馬を戻した。
今は生き残って、この惨状を帝都に伝える事が最優先事項だ。
「全軍、よく聞け! 部隊は帝都へ帰還する、急げ」
先鋒軍1万を引き連れ、俺は帝都への道を急いだ。
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