第16話 たかが10万

 俺は古代遺跡からの脱出に成功して、取り敢えずはカール村周辺の山の中腹へと戻った。


 明日の孤児院の弟たちに配るおやつを用意しなきゃな。

 今は牛も鶏も居なくなったって言ってたな。


 それなら、シスターが良く作ってくれてたあれがいいか。

 俺は牛乳と卵を取り出して、準備を始めた。


 プリンだ。


 シスターが作ってくれてたのは、砂糖が貴重品だったからミルクプリンって感じの、白っぽい物だったけど、今の俺には砂糖もたっぷり使う事も出来る。


 カラメルソースも卵もたっぷり使ったカスタードプティングを作った。

 出来上がったプリンはしっかりと冷やして、魔法の鞄に仕舞いこむ。

 弟たちの喜ぶ顔を想像するだけで、俺も嬉しくなるぜ。


 でも子供の頃から俺を可愛がってくれた、司教様や村長を殺した帝国の奴らに一泡吹かせてやりたいな。


 カール村の駐留部隊は1万人だが、恐らくはその10倍近い人数が、国境付近に駐留している筈だ。


 そいつらを片付けてしまえば、カール村の駐留軍も慌てて逃げ出すしか手は無い筈だ。

 いくら食えない物は殺さないってのが建前と言えども、俺の恩人を殺されて、しょうがないって諦めるほど人間は出来て無いぞ。


 取り敢えず夜のうちに救出作戦の準備だけはしておくか。

 200人の村人のうちどれだけだ残ってるのかは、明日シスターからの手紙が届けば解るしな。


 俺は、生活魔法の穴掘りを使って、村の中へと続く地下トンネルを掘り進んだ。

 朝方には、ほぼ村の中央部分へと到達していた。


 そして地下トンネルには仕掛けも施して置く。

 

 翌日、昨日と同じ時間に孤児院の子供達が羊の放牧にやって来た。

 俺は、監視が居ない事を確認すると姿を現す。


「カインお兄ちゃん。シスターがお返事書いてくれたよ。クッキーもみんな凄い喜んだよ」

「おおそうか。今日のおやつも約束通り準備したからな。今ここに居る子たちはここで一個ずつ食べな。ここに居ない子にはお土産で2個ずつだ。1個は持って帰ってから食べるんだ。いいな?」


「解ったよー」


 そして今日も6人の子供達が来ていたので、取り敢えず6個のプリンを出して食べさせた。


「どうだ? 美味いだろ」

「「「うん」」」


 今日もいい笑顔が見れたぜ。


「俺はちょっとシスターの返事を読んで、また手紙を書くから頼むな」

「はーい」


 シスターに昨日渡した手紙には、村の人達の生き残っている人数の確認と、村のどの部分に集められているかの確認が主だった。


 建物が焼かれている以上、村人は集められている筈だしな。

 シスターの返事には、村人はみんな纏めて牛小屋で生活してると書かれていた。


 とても不衛生な環境で、食事も餌の様な物を与えられているだけだと。

 生き残っている人数は、100名弱しかいないと言う事だった。


 許せねえええええええ。

 絶対に地獄を味合わせてやる。


「もう少しで、みんなを助け出してやるからな。頑張れよ兄弟ども」

「うん。頑張る」


 シスターへ救出の予定を伝える手紙を書くと、孤児院の弟たちと別れた。

 早速地下通路に入り、牛小屋の真下に繋がるギリギリの位置まで掘り進める。


 真夜中を迎えると、シスターに知らせたとおりに、牛小屋の中へ通路を開けた。


 シスターが全員に伝えてあったので、みんな静かに地下通路を伝って出て行った。

 俺は残った人間が居ない事を確認すると、次の作業に取り組む。


 シスター達が脱出した方向の穴を生活魔法を使って塞いでしまうと、村に並行して流れている川から牛小屋の地下へ水が流れ込むように繋げた。


 一気に川の水は牛小屋から溢れ出し、カール村駐屯地は水没して行く。

 その程度で死者はほとんど出ていないとは思うが1万人の兵士は大混乱で、とても捕虜が居なくなった事を気にする余裕も無かった。


 そして俺がとる行動は次の段階だ。


 シスターには大変だけど、山を越えてタベルナの街へと向かう様に伝えてあった。

 街の門の衛兵に見せれば伝わる様に『Sランク冒険者カイン』の名前で手紙をしたためてある。


 俺は夜陰を利用して帝国軍の本体の駐屯地へ向けてひた走った。

 10万の軍を相手にどうするのかって?


 昨日いいおもちゃ拾ったからな。

 

 駐屯地を見つけ出すと、凄い人数が居る様に見えるけど、たかが10万だ。


 隠密の魔導具を使用してほぼ駐屯地の真ん中に辿り着くと、昨日拾って帰った、ヒュドラ型ゴーレムを取り出した。


「好きなだけ暴れろ。でもここから動くなよ?」


 そう語りかけて、一気に遠ざかった。

 駐屯地は、地獄絵図となった。


 被害を受けないギリギリの位置でその様子を眺めていたが、2時間程でヒュドラ型ゴーレムは静かになった。


 魔石の魔力が切れたのか、倒す対象が居なくなったのか。

 どちらとも解らないが、ヒュドラを回収しに行ってタベルナの街へと向かった。


 明るくなった頃に、漸くタベルナの街に辿り着くと、カール村の人達も無事に辿り着いた事を門番に知らされた。


 俺は避難した人達が居る場所を訪ねて、シスターに挨拶しに行った。

 子供達は、疲れて寝ていたけど大人たちは起きていた。


「シスター無事で何よりです」

「カイン。久しぶり。大きくって言うか立派になったね。ありがとう」


「今から、村の復興などで大変だと思いますけど、俺も支援できる部分は支援したいと思いますから、弟たちをよろしくお願いします」

「本当にありがとう」


 シスターの目には涙が一杯だった。

 そんな表情されると俺も目から汗が流れるぜ。


 そして村人たちへ向って言った。


「取り敢えず、美味しい朝ご飯を腹いっぱい食べて貰います。ちょっと人数が多いから協力してくださいね」


 そう伝えると、『ひまわり食堂』へと向かい、おやっさんとおかみさんに事情を話す。

 俺がありったけの食材を出すと、おやっさんと俺とタクマの三人で全力で食事を作り始める。


 おかみさんとマリーとチュールそしてシスター達が村人へと食事を配り始めた。

 そうやって、無事を喜びあっていると、ギルドからも職員がやって来て、アマンダが「ギルドで大衆浴場を貸し切ったから、どんどん入浴して来て下さい。着替えも用意します。勿論ギルドの負担ですからご安心ください」と中々太っ腹な対応をしてくれた。


 まだまだ捨てたもんじゃないぜ、人情も!


「カインお帰り」

「ただいまチュール。お利口にしてたか?」


「子供じゃない!」

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