第38話 初詣の願い

 除夜の鐘も鳴りはじめて久しい時間。

 テレビでは日本各地の有名な神社やお寺のライブ中継を流し始めていた。


「年越しの瞬間に写真撮ろう!」

「いいね!」


 JKたちはきゃいきゃいと騒ぎながらスマホをセットしてソファーに集まる。

 さすが現役高校生のテンションだ。


「ほら、茅野さんも早く!」

「年越えちゃいますよ」

「俺はいいよ。三人で撮って」

「えー? ダメだよ、そんなの!」


 玲愛は俺の手を引っ張って無理やりソファーに座らせる。


「ギューってしてあげるから!」

「お、おい、玲愛!?」


 友だちの前でもお構いなしに玲愛は俺に抱きついてくる。


「よし、じゃあ私も!」


 麟子ちゃんは玲愛を後ろから抱きつく。


「失礼します」

「えっ!? 霞ちゃんまでっ!?」


 霞ちゃんは玲愛とは逆の右側から俺にひしっと抱きついてきた。

 テレビではカウントダウンが始まる。


「ごー! よん! さん! にぃー! いち!」

「ハッピーニューイヤー!」

「いえーい!」


 三人娘たちはカメラに向かってピースをしていた。

 両側からしがみつかれた俺は笑顔だけで新年の喜びを表現するしかなかった。


「いい感じに撮れたね!」

「茅野さんの笑顔は固いですけどね」

「絶対この写真をSNSとかにあげないでね。新年早々逮捕とか嫌だから」


『JK三人抱きつかせ男』とかいう蔑称をつけられて世間を賑わす未来を想像してゾッとした。


「よし! じゃあ初詣に行こう!」

「え? いまからか!? 外は寒いし寝て起きてからでいいだろ?」

「だめ! 今から行くよ!」


 玲愛に無理やり立たせられ、霞ちゃんがコートを着させてくる。

 まあ止めても行くだろうし、玲愛たちだけだと物騒だし、仕方ないか。


 新しい年になったばかりの夜は、当たり前だけど去年までの寒さを引きずっている。

 肌がピリピリして空気中の水分が凍っているんじゃないかと思うほどだ。


「うー、寒っ……」


 ポケットに手をつっこみ、首を竦める。


「うわっ、寒っ!」

「ヤバい! 一瞬で凍りそう!」

「北極みたいだね! オーロラあるかな?」


 三人はその寒さまで楽しそうに笑っていた。

 JKとは生活を楽しむ天才なんじゃないだろうか?


「君たち、夜遅いから静かに」

「年明けだから少しくらいよくない?」

「駄目だよ、玲愛ちゃん。静かに年を越したい人もいるんだから」

「はぁい」


 どうも玲愛は霞ちゃんに叱られると素直になるようだ。



 俺たちは歩いて二十分弱のところにある神社へと向かった。

 家を出たときは歩いている人を見掛けなかったが、神社に近づくに連れどこからともなく人が集まってくる。

 言葉は交わさなくとも、夜中に出歩いている人が多いとなんだか親近感が湧くし、不思議と心強いものを感じた。


 普段はひっそりとした参道には夜中なのに煌々と明かりが灯されており、お祭りのような空気が漂っていた。


「あー、見て! たこ焼きとか鈴カステラが売ってるよ! 食べたい!」

「さっきまでお菓子食べてただろ。太るぞ、玲愛」

「大丈夫。贅肉はおっぱいにつけるから」

「そんな都合よくいくか!」


 麟子ちゃんは憎々しげにツッこんだ。

 慎ましいバストサイズの彼女は鋭い目付きで玲愛の胸元を睨んでいた。


 参道を人の流れに従って歩いていく。

 多少混んでいるが行列に並ぶほどの混雑ではない。


 社殿の前までたどり着き、賽銭を入れて鈴を鳴らす。

 JK三人娘も神妙な面持ちで手を合わせていた。


 なにを願おう?

 手を合わせて目を閉じてから特に願い事を考えていなかったことに気づく。

 仕事だろうか?

 それとも健康か?


 薄目を明けて横に立つ玲愛を見る。

 いつになくキリッとした表情の玲愛を見て、願い事はすぐに決まった。



「ねぇ、なにお願いしたの?」


 参拝のあと、玲愛が俺の顔を覗き込む。


「願い事は人に話すとよくないんだぞ?」

「いいじゃん。ここの神様はそんなケチケチしてないの!」

「ケチとかそういう問題じゃないだろ」

「あたしは無事に茅野さんと結婚できますようにってお願いしたよ」

「なんだよ、その二段飛ばしみたいなお願いは」


 まず付き合って、愛を育んで、それから結婚祈願だろ、普通。


「あたしは教えたんだから茅野さんも教えて」

「勝手に言ったんだろ?」

「いいでしょ。教えて!」


 玲愛は俺の腕を持って揺さぶる。

 麟子ちゃんと霞ちゃんはおみくじを引くために先に行ってしまっていた。


「また来年もこうして玲愛と初詣に来られますようにってお願いした」

「は? なにそれ? そんなの神様にお願いしなくてもフツーに来るでしょ?」

「そうかな? そうだといいな」

「もったいないってば! 今のなしって言って結婚に変えてもらいなよ」


 おかしくて吹き出してしまう。

 やっぱり玲愛と一緒だと飽きない。

 来年もこうして変わることなく玲愛と過ごせるといいな。

 そんなことを思いながら玲愛の頭を撫でていた。





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 新年明けましておめでとうございます!(6月8日現在)


『JK三人抱きつかせ男』の願いは神様に聞き入れてもらえるのでしょうか?


 ちなみにみんながやって来たこの神社はアスリートたちも訪れることで有名です。

 またそのファンたちもやって来るので絵馬は年中鈴なりでくくりつけられてます。


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