第21話 姦しい夜に

 JK三人が作ってくれた料理を囲んで夕食が始まる。

 メニューはタラのムニエル、豚肉の天ぷら、里芋とイカの煮物、きんぴらごぼうというなんとも纏まりのないものだった。


「あ、美味しい」

「本当ですか? その煮物は私が担当したんです!」


 霞ちゃんが嬉しそうに手を上げる。

 彼女らしい真面目さを感じる逸品だ。


「まぁ、あたしが教えたんだけどね」


 自分の手柄にしたいのか玲愛がしゃしゃり出る。


「このムニエルもハーブやにんにくが効いていて美味しいよ」

「マジで? それは私が作ったー! 誉めて!」


 今度は麟子ちゃんが自慢げに胸を張る。


「まぁそれもあたしが教えたんだけどね」

「玲愛。いちいちマウント取らないの」

「わーい、茅野さんに叱られた! ザマァ!」


 麟子ちゃんは笑いながら玲愛を茶化す。




 食事のあと、三人は片付けを始めた。

 しつけの出来たいい子だが、今から洗い物をすると遅くなってしまう。


「片付けは俺がするからいいよ」

「大丈夫です。茅野さんは座っててください」

「ありがたいけど片付けしてたら遅くなるよ。霞ちゃんたちはもう帰りなさい」

「ははは! なに言ってんの。今日は泊まりだし」


 麟子ちゃんはおかしそうに笑った。


「へ?」

「あー、言ってなかったっけ? 今日は二人とも泊まっていくんだよ」

「はぁ!? 玲愛、なんでそんな大切なことを言い忘れてるんだよ」


 JK一人でも犯罪臭がすごいのに、三人となったら懲役何年なんだろう?


「洗い物終わったら三人でお風呂入るから」

「三人で? 狭くないか?」

「いつも二人で入っても窮屈だもんね」

「急に変な嘘つくな!」


 霞ちゃんは更に興味津々になったのか、チラチラこちらを見てくる。

 そういうお年頃なのだろう。




 風呂場からは三人娘のはしゃぐ声が聞こえる。

 女三人と書いて『かしましい』とはよく言ったもんだ。


 俺は自室としている和室でぼんやりとスマホを弄っていた。


「上がったよ」


 パジャマ姿の玲愛が襖を開けて入ってくる。

 もちろんその後ろには親友の二人もついてきていた。


「なんで俺の部屋に入ってくるんだよ?」

「トランプしよう」

「は? 修学旅行じゃないんだから」

「私、大富豪がいい!」

「私はババ抜きがいいな」


 俺の意見など無視して玲愛がカードをシャッフルし始める。

 濡れ髪寝衣のJK三人がなんで俺の部屋にたむろするんだよ。

 青春期女子ならではの甘くて爽やかな香りを部屋に充満させるな!


 結局拒否権はなく、トランプに付き合わされる。

 頭を使うものは霞ちゃん、運要素が強いものは麟子ちゃんが強かった。


「なにやっても玲愛は弱いな」

「うっさいなぁ。茅野さんだって勝ってないじゃん」

「でも二位とか三位が多いし」


 確かに俺も敗けが多い。

 勝てそうな手札の時もあるけれど、妙に柔らかそうに揺れる三人の胸元に邪念が湧いてしまい集中出来なかった。


 てか普段寝るときノーブラだったとしても、こんなときはブラつけようよ?


「しっかし、いいよなぁ、玲愛は」

「なんで?」

「彼氏と同棲とか憧れるし」

「だから彼氏じゃないんだよ、麟子ちゃん。これは同棲じゃなくてルームシェアだから」

「キスとかするのに、ですか?」

「霞ちゃんまで! してないから」

「……したし」


 ぶんむくれ状態の玲愛がボソッと呟く。


「いや、あれは」

「小学生のとき! したじゃん!」

「ええー!? そっち!?」

「そっちということは二度三度、いやもう数えきれないくらいですか?」


 霞ちゃんは妖しく目を光らせてぐいぐい来る。

 あまりの勢いにさすがの玲愛や麟子ちゃんも引いている。

 真面目な子だと思っていたけど、意外と一番ヤバいかも。


「ひとつ屋根の下で暮らしてるんだから、そういうことになってしまうのも自然の流れですよね」

「そんなわけないだろ」

「なんでよ? そこまで否定されるとあたしも凹むんですけど」


 玲愛はブスッとした顔で俺を睨む。


「そうだそうだ! 玲愛みたいな可愛い子と暮らしてたら普通ヤっちゃうでしょ!」


 麟子ちゃんまで調子に乗って煽ってくる。

 結託した女子ほどたちの悪いものはない。

 手を出してないことがまるで『悪』かのような空気が流れ始める。

 これは無視を貫いても、適当な言い訳をしても逃してはくれなさそうだ。

 言いたくはないが本心を言うしかなさそうだ。


「ぶっちゃけ俺は今の玲愛との暮らしを大切に思っている。もし変なことをしたら間違いなく今の空気は壊れてしまうだろう。だから俺は現状を大切にしているんだ」

「大切に……」


 玲愛は顔を真っ赤にして俯いてしまう。

 他の二人も玲愛ほどではないにせよ、ふぁーっと顔を上気させていた。


「さすが大人の男だね!」

「紳士的で、優しくて、それでいてどことなくえっちで素敵です!」

「そ、そうか?」


 妙に好感を得られたみたいでちょっと照れくさい。

 なんか霞ちゃんの言葉に一つ気になる単語も含まれていたけど。


「やっぱ年上の彼氏だよねー! 同級生とかヤることばっか考えてそうでキモいし!」

「そうですね。優しくリードしてくださる男性ならはじめても痛くなさそうですし」

「いいなー、玲愛! 素敵な彼氏で!」

「まぁねー」

「だから俺は玲愛の彼氏じゃないから!」


 こんな騒ぎが夜更けまで続いていた。

 アラサーのおっさんを交えてするような話じゃないだろ。

 玲愛の部屋で自分達だけでやってくれ。

 というかさっきから霞ちゃんは常にさりげなく気になるワードを織り混ぜているな。




 ────────────────────



 すっかり盛り上がるJKたちとたじたじなおっさん。

 でもどことなく楽しそうですね!


 霞ちゃん&麟子ちゃんメモ


 霞ちゃんは推薦で進学が、麟子ちゃんは近くの会社に内定をもらってます。


 三人娘は進路も決まり、のんびりとした最後の高校生活を満喫中です!






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