フラグを守る肉壁となれ

アル:今日は皆さんにちょっと殺し合いをしてもらいます

 

カーボン:今時の子はそのネタ分かんないぞ


アル:なんと!?


 俺たちが立っているのはPvPフィールドの入り口、アルテア唯一のPvPが行える場所だ。


 そうPvP、ようするに対人戦だ、ギルドごとに分かれて拠点の旗を取るか、相手を全滅させた方の勝ちだ。


ぽんぽこ:リーダー氏、本当に勝てるんでしょうな?


おにぎりマン:ばっかお前、レベル差見てみろよ! 瞬殺だろうが


ムーニン:お二人が相手をボッコボコにするショウが見られそうですね!


 俺たちのチームは五人、実力者揃いのチームが相手なのに対し、こちらは新参を呼び込んだ(俺たち以外)レベルの高くないチームだ。


 なおこのゲームプリミティブオンラインにおいてレベル差の調整などと言うご親切な物は存在せず、レベルが力を表すという至極シンプルなシステムだ。


アル:任せてください! 私たちがあなた方に完全な勝利をお届けしましょう!


 うおーーー!! と今回のパーティメンバーが気勢よく鬨の声を上げる。俺はどうだって? コミュ障らしくチャットをせずモーションで反応を返してるけど?


ムーニン:戦略とかってあるんですか?


アル:私がランページ使って敵陣に突っ込んでフラグを取ってきます、あなた方はカーボンのヒールで回復しながら自陣のフラグを守る肉壁になりなさい!


 酷い作戦だった、俺たちが防衛の仕方が人海戦術というのはどうだろうか……


カーボン:さすがにその作戦は雑すぎやしないか?


 俺が思わず声をかけるとアルはtellを返してきた。


アル:いいですか? このパーティには私たち以外戦力はないんですよ? だったら戦うのは私かお兄ちゃんになるでしょう?


 それはそうなのだが……お世辞にも三人のレベルは高いとは言いがたい、PvP初参戦するという人もいた。


 俺もtellで話しかける。


カーボン:しかし、それじゃあPvPの楽しさが伝わらないんじゃないか?


 すぐにシンプルな回答が返ってきた。


アル:勝つのが楽しいんですから当然でしょう?


 戦闘民族にもはや説得は無理と言うことでそれぞれ装備を調えていた。


 俺はパーティチャットに解説を流して戦闘の準備をする。


ムーニン:相手が人間だと属性装備とか要らないですよね?


おにぎりマン:植物特攻の武器とか意味無いですよね?


ぽんぽこ:マンイーターは効果あるんですか? 一応人型の敵への特攻持ってますけど


アル:全員その通りなので火力のある装備にしておいてくださいね! 負けられませんからね


 全員が沸き立つモーションをして準備は整った。ちなみに俺はいつもの装備のままだ、火力で押せるレベルなのでそれに気を使う必要はない。


アル:よっっし! いきますよー!!!


 カンカンカンとなる鐘の音ともに対人戦が始まることになった。


 ランページ!


 アルがスキルを使って敵に突撃していく、対人戦なので挑発が意味をなさないので火力に頼るしかない。人間相手にヘイトのパラメータは無いのだ。


カーボン:じゃあこのフラッグを死ぬ気で守るぞ!


一同:はい!


 こうして俺たちの初めての対人戦が始まった。始まったのだが……敵はなかなか来なかった、どうやらスキルを使ったアルに随分と苦戦しているようで、俺たちの方へリスポーンしてこないことからどうやら負けていないことが分かる。


 そうして退屈な待ち時間をしばらく経た後で一体の敵がこちらへ向かってきた。戦士のようだ。


カーボン:じゃあアイツを叩くぞ! いくぞ!


 俺たちが相手に向かっていくと、ナイトと同じく体力のあるモンクのようだ。


 フン! ザコが!


 三人はあっという間に死んでしまった、リスポーン地点がこの辺なので問題は無いだろう。


 それ


 ポコッ


 気の抜ける音とともにワンドで殴ったところ敵のHPは一撃でゼロになった。ザッコ!


 三人がリスポーンして口々に俺へ質問を投げかける、どうやらヒーラーが一人で戦闘職に狩ったのが信じられないらしい。


カーボン:じゃあ次は三人がちゃんと倒してくれるようにな


ぽんぽこ:無理ですって! 普通に死にますよ!?


カーボン:ただでとは言わないよ


 プロテクション

 マジックバリア

 アンチショック


カーボン:このくらい積んでおけば数発は耐えられるはずだ、その間にスキルを全力で回して決めるんだ


 三人とも半信半疑と言った風だが、丁度いいタイミングで敵の侍が一人こちらへ抜けてきた。


カーボン:来るぞ!


マジックショック

居合い切り

ハイパーパンチ


 三者三様の攻撃で侍のHPが8割ほど削れたが、こちらの三人のバリアも割られてしまった。


 俺は次のバリアの詠唱をしながらフラッグの前に立って妨害をする。


 侍が斬りかかってくる物の俺にダメージは通らず、バリアが復旧した三人が攻撃をしてようやく侍は光となって敵陣へリスポーンしていった。


 第三波が来るかと身構えていたが『アルが敵フラグを確保しました』とのアナウンスが流れて俺たちの勝利が決まった。


 全員がその場から出来たポータルでPvPフィールドの出口にいく。


アル:余裕でしたね! さっすがわたし!


ぽんぽこ:余裕じゃないですよ? カーボンさん以外一回死んでるんですからね!?


おにぎりマン:っていうかカーボンさんが敵の戦士をワンドで殴って倒してたんですけど何者なんですか?


カーボン:俺はただのヒーラーだよ、ちょっとレベルが高いだけの……ね


 ぽんぽこがカーボンを観察した

 おにぎりマンがカーボンを観察した

 ムーニンがカーボンを観察した


 三人からのステータスチェックが入った。そりゃあ気になるだろうけど、このメッセージはじろじろ見られているようでいい気はしないんだが……


ムーニン:レベル100!


おにぎりマン:いやいや、なんでこんな初期地点で油売ってるんですか!? エンドコンテンツ回してるレベルですよ!?


ぽんぽこ:っていうかアルさんも大概レベル高いし、あなた方は何者なんですか?


カーボン:ま、事情があってね


アル:二人ギルドだといろいろ面倒なんですよ


 そうですかとすっかりドン引きした三人を後に俺たちは新しいアチーブメントの『PvP初勝利』を獲得した。


アル:よっし! アチーブ一個解放ですね!


カーボン:まだまだあるがとりあえずはじめの一歩って感じだな


 そうして俺たちは無事ギルドの功績ポイントも手に入っていい感じの結果を得たのだった。


 なお、当面の間PvPにいくと俺たちの名前が出た時点でログアウトする人が大量に出てマッチングに苦戦するのだった。

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