第28話

 僕らは一時間ほど電車に揺られ、そこから三十分ほど歩き、ついに岸水の祖父の家がある駅までついた。


 駅から見える景色は、僕たちの住んでいる街とは様変わりして、草木や田んぼしか見受けられない。つまりド田舎だ。


 駅も無人駅で、作りも簡素で大きくない。それはそれで風情があって良いのだが、どこか寂しさが拭えない。


「じゃあここからは私が案内するのでついてきてください」


「分かった」


 と言うしかない。初めての土地なので勝手が分からないので当たり前だ。


 駅から降りてさらに歩くことに二十分。どこまで行っても田んぼの景色に変化は無いが、少し開けたところに着いた。


「あ、あそこが祖父の家です。久しぶりです」


 岸水の指さす方を見てみる。

 そこには―――


「すっご……」


 まるでドラマに出て来るかのような武家屋敷だった。岸水の親がお金持ちなので祖父の家も……とは思っていたが予想以上だ。


 余裕でさっき降りた無人駅よりも大きい。


「なんというか……おれの予想の真上を言った感じだよ」


 右に同じく。


 今から僕たちはこの屋敷に突っ込む。ただの命知らずか馬鹿のなせる技だ。もし僕一人だったのならここで怖気づいて帰っていたところだ。


 でも今は最終兵器、岸水(娘)がいる。岸水家の中では一番立場は下だろうが、血筋の人間がいるというのは何とも心強いものだ。


 岸水について行くと、おそらく玄関であろう巨大な木製の門が立ちふさがった。インターホンが付いているので、少なくとも門前払いということにはならないはずだ。


 岸水は慣れた手つきでボタンを押した。音は聞こえないが、カメラの小型ライトは光っているので壊れているということは無いだろう。


 しばらくすると、インターホンから声が聞こえてきた。


『葵ちゃん久しぶりねえ!後ろのお二人さんもどうぞ中に入ってくださいな』


 すると目の前の門が、重たい音を鳴らしながらゆっくりと開かれていった。


「行きましょう」


「え、うん」


 岸水は慣れているのかもしれないが、僕にとってはかなりの衝撃だった。いや、それは志波さんも一緒か。


 ここ本当に人の家か?映画村じゃないのか?


 僕たちは岸水に連れられて、屋敷の中に足を踏み入れた。中は襖や畳で構成された部屋でできていた。


 それも目が回るような数。一人でいれば確実に迷子になるような広さだ。


「本当に久しぶりねー!葵ちゃん!」


「はい、久しぶりです康子やすこさん」


 康子さんと呼ばれた人の声を聞けば、インターホンで会話していた人の声だと分かった。


「じゃあ皆さんこっちへ来てください。お爺様がお待ちです」


 今度は康子さんに連れられ、どこかの部屋へと向かった。向かう途中、岸水に小さな声で尋ねる。


「康子さんって……」


「私の親戚です。祖父の妹の子供ですよ」


「なるほど。ありがとう」


 すると康子さんはぴたりと足を止めた。どうやら目的地に着いたらしい。


 康子さんは襖をゆっくりと開けた。


 中を見ると、長方形の大きなテーブルに、たくさんのご馳走を乗せていた。その周りにはたくさんの人が囲うように座っている。


「おお!来たか葵ちゃん!」


「はい、お久しぶりです。お爺様」


 声のする方を見ると、威厳のある顔のおじいさんが座っていた。だが顔は笑顔で、人付き合いの好さそうな人だった。


「んで、そちらの連れのお二人はどういう関係だ?」


「こちらが更科君。高校の同級生。で、こちらは志波さん。警察官で、強い人を連れてきてくれとのことでしたので……」


「なるほどなあ」


 わははと大きな声で、岸水祖父が笑うと、


「じゃあ更科君が葵ちゃんのボーイフレンドってことか。彼氏っちゅう奴だな」


「え!?そ、そうです……」


「キスはしたのか?」


「ふ……!?」


 岸水は耳まで赤くして顔をそらした。

 止めてくれよ、そこまで照れられると僕まで恥ずかしくなるじゃないか。


「初めまして、更科夏樹と言います」


 僕は昨日のメールでの会話を思い出す。

 岸水はメールで三日間だけ恋人のふりをしてくれと頼んでいた。


 なんでも祖父は持病で長くないらしく、最後に安心させたいとのことだ。


 だけど……お爺さんめちゃくちゃ元気なんですけど。


「お孫さんの葵さんと付き合わさせてもらってます。まだまだ未熟なこの身ですが、見守ってくださると幸いです」


「ほー、礼儀正しい坊主じゃな。儂は岸水源六げんろくという。よろしくな」


 すると今度は志波さんが前に出た。


「初めまして。志波海斗かいとと言います。警察官をしていて、この二人とは知り合いです。それでわたしは一体どのようなご用件で」


「ああその件なんだけど」


 手前にいた男の人、見たところ四十歳くらいの人が、座布団から立ち上がる。


「志波さん、あなたには一つやってもらいたいことがあるのですが……」


「 ?なんでしょう」


 すると志波さんは男の人に連れられて、どこかへ行ってしまった。


「今のが私の父です。あんまり会えないですけど、一昨日会えたので久しぶりという感じはしないですね」


「そっか」


 家族に会えないというのは寂しいのだろう。家族のことを話す時の岸水の表情は、どこか陰っていた。


「じゃあみんな揃ったことだし、昼間から宴会を始めるか!」


 岸水の祖父が、威勢良く場を盛り上げた。


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ここからは物語とは一切関係ありません。ただの報告です。


お知らせ 


そろそろ物語も終盤に差し掛かってきました!自分の中にある物語の構成だと、大体三分の二くらい終わった感じです。


読者様からすればこの話終わるのか?って感じだと思いますが、一応ラストはもう決定してあります。ご安心を。


という訳で長々と話させてもらいましたが、結局言いたいのは、これからもよろしくお願いしますの一言だけです。


では!

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