第15話
「送ってくよ」
「そんな……悪いですよ」
「もう遅いし暗いし、女子を一人で帰らせれないよ」
「……じゃあお言葉に甘えます」
僕と岸水は椎名の家から帰っている途中だった。
橘の家は椎名の家に近いので、僕たちとはすぐに分かれて行ってしまった。
それにしてもかなりショッキングな内容だった。僕はまだ家族が普通で、最近は友達と呼べるような人物も増えてきているからまだ幸せな方だ。
でも七夕は友達はたくさんいる。しかし本当に自分を守ってくれる家族がいない。それは僕には想像もつかないことで、むやみに意見してはいけない。
だがそういうことならあの時の七夕の気持ちもわかる。
友達が欲しいのは、他に頼れる人がいないからだ。だから僕にも友達になってもらいたかったのだろう。
いや、それも勝手な想像か。仮にそうだとしても僕は彼女の温かさを知っているし、優しさも知っている。
それがたとえ自分を守るためのものでも構わない。彼女は考えつくしてその結果に至ったのだ。
「あれ?岸水さんの家ってここ曲がるの?」
岸水は、いつも椎名や七夕の家の方面で、僕とは別の方向だったはずだ。ここで曲がってしまっては、僕の家の方向に行ってしまう。
「はい、いつもは忍と帰るためにわざと遠回りして帰ってるんです」
「なるほど」
聞けば岸水は小学生のころから、七夕と友達だったという。その頃から七夕はあんな感じだったのだろうか。
「あのー、更科さん」
「うん?どうしたの」
「呼び捨てで構いませんよ?私の敬語の癖は元々なので気にせず。それに他の人には呼び捨てで、私だけさん付けはなんだか寂しいです」
「ああ、わかった岸水」
「へへ、はい」
岸水は嬉しそうに少し歩くスピードを上げた。
「岸水、七夕と椎名に昔何があったのか教えてくれないか」
「え」
すると岸水はさっきの様子とは打って変わって、きょろきょろと周りを見渡すようになり、挙動不審になってしまった。
「今は椎名も七夕もいないから大丈夫だよ」
「そ、そうでしょうか……。なぜか視線を感じます」
だいぶ重症だな……。本当に何があったんだろう。
「頼む。僕にはもう頼れる人が岸水しかいないんだ」
リアルである。椎名と七夕に聞けるわけもないし、橘は椎名と小学校の時は一緒だったらしいが中学校は違うらしい。
僕に他に頼れる人はいない。自分で思っていて悲しくなってきた。
「んにゃー、どうしましょう……」
「頼む!」
僕は必死にお願いをする。こんなに人に何かを願ったのはいつぶりだろう。
「……仕方ないですね。絶対に誰にも言わないでくださいよ」
「ありがとう!」
岸水はこほんと咳払いすると、彼らのことについて話し始めた。
「えっとですね、まず中学生の時、忍は椎名さんのことが好きだったんです」
「え、そうだったんだ」
「はい。それで私は忍に頼まれたんです。告白する手伝いをしてくれないか、って」
「へ、へー」
僕と椎名達は同じ中学校だった。こんなおいてけぼりみたいな感覚になるのだったら、もっと早くに声をかけておくべきだった。
もう少し周りを見ていればよかっな。後悔がまた一つ増えた。
「それで私は条件を付けたんです。私の恋も応援してくれないかって」
「へ、へえー!」
なんだかだんだんと話がそっち方面に持っていかれた。他人の色恋沙汰ほど興味のないものは無いが、知り合いなら話は別だ。
僕は自分でも意外なくらいその話に興味があった。
「まあ失敗しちゃったんですけどね。更科さんが櫻花さんと結ばれてしまったので。忍も、私も」
「え?でもそれで椎名と七夕が仲悪くなった、って訳じゃないんだろ?」
「その後、忍は意を決して告白しようとしたんですけど……。かなり椎名さんが落ち込んでいたので一旦止めたんです」
「一旦止めるってすごいな……」
「ある時忍が椎名さんに、遊んでる櫻花さんと更科さんを見て、『あんな関係になれたらいいね』って言ったんです」
「中学生ってすごいな……」
「そしたら椎名さんは『それは無理だ』って」
「あいつやばいな。もう少し言い方があるだろ」
まあ僕も人のことは言えないが。あの日病院の下で、僕は七夕に到底容認できるものではないことを言った。
だがそれと重ねてみれば、きっと彼にも何か考えていることがあったのだろう。椎名はむやみに人を傷つけたりするような人間では無い。
「そこからは想像通りです。その時から今に至るって感じですね」
「なるほどな、だからあんなに必死になって口止めしようとしてたのか……って、ん?」
僕は勘違い人間ほど惨めなものは無いと思っている。
相手も気持ちも考えずにずかずかと人のプライバシーを侵していくわけだからだ。だが今僕の確固たる考えが覆されようとされていた。
まず椎名が失恋したのは分かる。僕と櫻花が結ばれてしまったからだ。
だが岸水はどうだ?椎名が失恋したからと言って岸水の恋自体が終わったわけでは無い。
それでも彼女は失敗したといった。口にはしたくない、恥ずかしいからだ。だけどそれはつまり……
「これは忍にも言ってなかったんですけど……、実は私、中学生の時、あなたのことが好きだったんですよ」
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