振り向く

写した写真がだんだん振り向いてくる・・・

そんな話はよく耳にしますが、

私にも経験があるので綴ります。


小学生の時だった、

心霊写真がやたらと流行る時期ってありますよね、

私のクラスも例外ではなかった。

『うちにあったよ心霊写真!』と言っては、

毎日のようにキャーキャー騒いでいた。

しかしその殆どが点が3つで顔に見える様な、

人間がそもそも持っている顔認識機能の誤作動によるもの。


そんなある日、クラスで目立たない男子A君が、

騒いでいる輪の中にのそっと入ってきて

『こ・・これ・・・』

と絞り出したような声で1枚の写真を机の上に置いた。


それはA君が祖母に抱かれている何気ない1枚だったのだが、

写真の奥に体育座りに似た座り方で、子供が写り込んでいた。

向うを向いているので後ろ頭だけなのだが・・・。

あまりにもはっきり写っている子供なので、これではないなと、

誰もが思っていたのだが、答えが出ない状況にA君はしびれを切らし、

『これ・・・』と指差したのがその子供だった。


現場は騒然とした。


それはそれで終わったのだけれど、

誰かの家に集まって怖い話をすると言う事になるたびに、

A君が呼ばれ、あの子供の写真を持って行っていた。


中には『貸して』と言う友達まで現れ、

その写真は色々な場所を巡り巡っていたのだった。


ある日、隣のクラスの子がA君に言ってきた。

『A君の心霊写真見たよ、ほっぺたがぷくっとしてて可愛い幽霊だよね』


A君は不思議に思った・・・ほっぺた?


その夜写真を貸しているB君からA君に

電話があったそうで、

『ねぇA君・・・あの心霊写真なんだけどさ・・・借りた時って顔見えてなかったよね・・・』


『うん・・・』


『あ・・いや・・・いいんだ、明日返すね』


『う、うん』


そんな会話をしたと言う。


翌日写真を返してもらったA君は写真を見て声をあげた。


『わぁ!!!!!』


クラスのみんなが集まってなんだなんだと大騒ぎ。

私は見ませんでしたが、聞こえた言葉はこんな内容でした。


『横顔じゃん!え?』


『なんで?振り向いて来てるんじゃね?』


そうなんです、時間と共にあの子供の顔が、顔だけが

少しづつ振り向こうとしているそうなのです。

正面向いたらどうなるのかと言う恐怖にかられ、

A君の周りから一斉に人が去った。


静かに静かにランドセルに写真を仕舞い込んだA君。

なんか可愛そうなので私は

『親に説明してお祓いするとかしてもらわないと危ないかもよ』

と声をかけた。


A君は『うん、そうする』と静かに言った。


その翌日からA君は学校に来なかった。

聞くところによると、両親が急に入院することになり、

祖母のお世話になるから引っ越すことになったとか。


凄く気になった私は、

A君に電話をしたが誰も出る事はなく、

もういないかもしれないとも思ったが、

自転車を飛ばしてA君の家に行ってみた。


A君の家が見えた、なんという奇跡か、

丁度引っ越すところだったらしく、

トラックに搬入しているところに間に合ったのでした。

きょろきょろとA君を探すと、

別人のようにげっそりしたA君が居た。


『A君!なんか・・凄く心配で・・・』


『あ、ありがとう、急に引っ越すことになっちゃって』


『そうなんだ、身体大丈夫?辛そうだけど』


『うん、ずっと・・・眠れなくてさ・・・』


力なく、それでも一生懸命笑って見せた

A君の顔が印象的だった。


『あの・・・さ・・・・あの心霊写真だけど・・・』


『うん・・・これね』

そう言うと、なんとシャツの胸ポケットから

その写真を出した。


『もうね、殆ど振り向いてるんだ・・・』


『お祓いしなって言ったじゃない』


『いや。。。話したけど両親に信じてもらえなくて・・・仕方が無くて、捨てられもしないし・・・持ってるんだ・・・』


『ダメだよ、良くないよ絶対』


『うん、おばぁちゃんなら信じてくれるから行ったら頼んでみる、でも間に合うかな・・・正面見ちゃいそうだよ・・・』


『見ちゃだめだよ!絶対行ったら直ぐお祓いだよ!わかった?』


『うん・・・ありがとう・・・じゃ』


『うん・・・じゃ、元気でね、お祓い必ずね』


トラックを見送る時間もないので、

私が自転車でその場から去った。


それから数年の月日が流れた。

私はクラス会でA君が亡くなっていたことを知った。

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