武士と先輩

釣り好きの先輩が経験したと言うお話です。


『この前は40cmのホッケ上げてさ!』


昼休みが一緒になると、大概釣りの話になる先輩。

小学生の頃から釣りが趣味で、川、湖、海と、

針を垂らせる場所ならどこでも釣るぜって人でした。


そんなある日、幽霊が出るで有名な湖にヌシが居ると言う

釣り魂に火をつける情報をキャッチした先輩。


アウトドア大好きな先輩は釣りの為に

キャンプ用品も揃えていた。

なので、テントを張るまでもない釣りでも、

便利な道具が盛りだくさんあったのだった。

『これだけあれば一晩過ごせるぜ』

と車内を見せてくれた。

キャンプは興味ないけど

道具が好きな私はわくわくした。


とは言え一緒に行くわけでもなく、

『じゃ!明日大物の話聞かせてくださいね』

と私は会社を後にした。


休みを挟んで月曜日、先輩とお昼が一緒になったので、

『どうでした?どうでした?』と聞く。


『それがさぁ・・・』

と低めに始まった話はこうだった。


時刻は夜22時頃、幽霊が出ると噂の湖、

椅子を用意し、虫よけ兼用の

バチバチするランタンを灯す。

餌を付けて湖の中心めがけて遠投。

釣れない時間も釣り、この時間を含めて楽しむ先輩。


24時を回ったころ、湖の中心に赤い光の球が

『ポッ』と現れた。

虫かと思ったが、炎のようにメラメラ燃え上がると

『バッ』と消え、

水上に光で出来た人影が現れた。

『なんだ・・・・あれ・・・』


ギュウウウウウウウウウウウウウウウン!!!!


『ええ!?今ぁ??????』


大きくしなり、ギリギリと唸る竿。

ゆっくりと迫って来る光の人影。

それは近づくと良く見えた・・・


武士だった。


なにやらブツブツ言いながら

水面をスーッと滑る様に移動してくる。

しかし釣り好きの先輩はこの大きさは

噂に聞くヌシと確信していた。

『ぬおーーーーー!!!!!!!』

武士の幽霊が迫る!

その前に釣りあげて撤収を考える先輩との

息詰まる攻防だった!

引いては竿先を魚に向けてリールを巻く!

武士の声が聞こえるまで迫った!

本当にもう3メートル程だった。

ここでもう無理と判断した先輩は

竿を離して逃げ出し、車に飛び乗って逃げた。


翌日、現場に戻ると全てそこにあったが、

ヌシと思しき相手はかかっていなかったそうです。


『で?武士は何て言ってたんですか?』


『俺が今一番言いたいことだよ・・・・』


『ん?』


『おのれ、おのれ、おのれ・・・だとさ。』

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