第2話
「申し訳ございません。旦那様が大変な無礼を申しまして」
「いいえ。わたしがリーザじゃないのは事実ですから」
わたしは肩を落とすと、そっと目を伏せる。
「まさか、こんなに早く正体が知られてしまうとは思っていませんでした。
皆さんを騙してしまって、申し訳なく思っています……」
「リーザ様、いえ、貴女は……」
「わたしの名前は、ルイーザ・センティフォリアと言います。リーザの双子の妹です」
「そうでしたか……。それでは、ルイーザ様。お部屋にご案内します。まずは身体を休めて下さい。詳しい話は後ほど伺います」
わたしは老執事が呼んでくれた若いメイドに連れられて、部屋に案内されたのだった。
熱い湯が張られた猫足バスタブで疲れを癒し、わたし付きというメイドに手伝ってもらって、スカイブルーの様な水色のドレスに着替え終わる頃には、外は土砂降りになっていた。
案内された客間の窓から外を眺めていると、扉がノックされた。
「はい」
「失礼します」
扉が開くと、先ほどの老執事が入ってきたのだった。
「ルイーザ様、お茶をお持ちしました」
「ありがとうございます。丁度、喉が渇いていたので嬉しいです」
老執事の後ろからは、ここまで馬車で案内してくれた若い執事が、お茶を乗せたカートを押して入ってきたのだった。
若い執事は白いテーブルクロスが敷かれたテーブルの上に、琥珀色の紅茶と数枚のビスケットを乗せた皿を並べると、カートを押して退室したのだった。
「どうぞ。我が領地で採れた茶葉を使用した紅茶です。ビスケットはこの近くで採れた小麦を使用して、当家の厨房で焼いた物です」
カップに口をつけると、ほのかに甘い香りが漂った。
この辺りは良質な香りの茶葉が取れると有名だった。特に七年前に起こった大きな戦争の後は、荒廃した大地を耕して茶葉の種類を増やしたと聞いていた。
良質な土壌と、地下から湧き出てくる湧水を利用して栽培された茶葉は、この地の名産品でもあった。
「美味しいです」
「嬉しいお言葉をありがとうございます」
「あの……」
カップをティーソーラーに戻すと、テーブルの上に置く。
「怒っていないんですか。リーザじゃなくて、わたしが来て……」
「いいえ。私共は全く気付きませんでした。事前にいただいていた姿絵と非常にそっくりでしたので」
すると、老執事は「ああ」と思い出した様に、胸に手を当てて一礼する。
「申し遅れました。私の名前は、コナー・ホセと申します。
このオステオン侯爵家に代々仕えているホセ家の者です。どうぞ、ホセとお呼び下さい」
「代々、侯爵家に……。という事は、侯爵様についても?」
「はい。旦那様の噂も存じております」
先ほど、わたしの正体を見破った眼帯の男性ーーヴィオン・オステオン侯爵は、このサンフクス王国で有名な変人侯爵であった。
今から七年前、サンフクス王国と隣国のバードッグ帝国の間で、大きな戦争が起こった。
戦争はサンフクス王国の勝利で終戦したが、両国共に多くの死傷者が出てしまった。
その戦争で、オステオン侯爵家は本来の跡取りであったヴィオンの実兄を失った。
また、侯爵となったヴィオンも、戦争で自らの左目を失った事で、人が変わってしまったと言われている。
それが原因かは分からないが、戦争から帰還した侯爵様は、ある物を収集するようになった。
そのある物こそ、先ほどわたしの正体を見破り、安産型と言われるきっかけにもなったーー骨であった。
古今東西、脊椎動物の骨を集めては、白亜の城に引きこもって骨を組み立てては、部屋の一室に飾り、骨だけを愛でる。
周囲に促されて、公務を行っても、それが終わるなり、また寝食を忘れて骨を組み立てる。
そんな侯爵様を知った国中の人たちは、いつしか「変人侯爵」と呼ぶようになったのだった。
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