第117話 第六話 その5 シーソーゲーム
そう、能力なんてない!
しかし!
俺にだって前の世界で46年間生きてきた社会経験と実務担当能力というものがある!ちゅん助みたいに色々転職しての経験はないが一社懸命!
社畜としてこき使われて決して楽じゃない仕事をこなしてきたぜ!
今!ここで!その経験に裏打ちされし実力を見せたるわ!
「天令の勇者!泉輝が命ずる!」
「皆!聞け!」
「奴の正面に絶対立つな!」
「腕に自信のない奴は今すぐ武器屋へ走って槍でも弓矢でも投石でも射程の長い武器を取って来い!」
「この期に及んでライジャー流だのなんだのどうでもいい!」
「攻撃は脚だ!」
「とにかく脚に集中させろ!」
「脚を止めない限りチャンスがない!」
「個体への攻撃しかできない奴は青だ!」
「青の合体だけは何としても防げ!」
オオ!
そんな感じで気勢が上がった!
いいぞ!勇者ブランドは効果てきめんの様だ!あれほどアホの様にお茶を濁してた奴らが戦意を取り戻していく!
なんだよ!こいつら!やればできるじゃねーか!
まったく!指示待ち人間どもめ!
でもなんだか…勇者ブランドを高々と掲げて命令するの…快感になってきたぞ!
ちゅん助じゃないが優待や特権は振りかざしてなんとやらだ!
正規部隊を含めた街の連中の動きが明らかに変わっていた。再び辺りはたちまち激しい乱戦となった。
覚悟を決めた人間達の攻撃は届く!躱しながらでも有効打を放つ者も現れた。
統制された集団は強い!
青大将を囲んだ俺達の一団は劣勢から均衡、そして優勢へと転じ始めた。
たとえわずかな攻撃であっても塵も積もれば、青大将の移動速度が徐々に落ちていく。
脚さえ止めれば、飛び武器や遠距離攻撃の類の無い奴だ、本丸に斬り込めるのだ!
青大将の装甲がバラバラと剥がれ落ち、魔王を守る魔法障壁の形状が歪だ!
奴もその姿を維持しきれていない。確実にダメージは通っている!
あと少し頑張ってくれ!
ガサガサガサ!
「!」
青大将に追われる俺は視界の隅で、時計塔広場に新たに流入してくるグソクの一団を捉えた。
「赤と黄!?」
クソ!ここに来てこいつらか!灰や青だけでも厄介なのに赤、黄まで!
こいつらの複合でやられたらようやく整った戦線が一気に崩壊しかねない…
いや!
考えようによってはこの戦力の投入状況、向こうも必死!余裕がないのだ!まず冷静に皆に赤と黄の危険性を伝えなくては!
「皆!聞け!」
ズバアッ!
「うわああッ!」
「しまった!」
周囲に警告を飛ばそうとした時だった、左脚に強烈な攻撃!
「こいつは!」
青ムカデ!
青大将に完全に気を取られていたその隙をついて別動隊である青の個体がムカデ状に合体し俺を襲ったのだ!
せっかく青大将の動きを鈍らせ始めたというのに逆にこちらの脚が止められるとはなんたる皮肉な!
ガシガシガシ!
「くそ!ここまで来て!」
またも俺は青大将に捕らえられ捕食の危機に陥った。
大混戦の広場は青赤黄に加えて数匹の青ムカデが猛威を振るい隊員達を蹴散らしていく。
たちまちの内に戦線は分断、優勢が一転、俺達はまたも大劣勢に追いやられたのだった。
第六話
その5 シーソーゲーム
終わり
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