第96話 第五話 その17 魔王

「くっ!こいつ!」


「他の奴と違ってヤバそうな雰囲気マックスですわ!これは王者の風格ですお!」


「こんな禍々しいオーラ、王者じゃなくて魔王だろ!」


「甲虫王者ムシ魔王だお!」

「おとーさん!おとーさん!魔王がいるよ♪」


「息子よ!落ち着け!あれは風が枯れ葉で音を立てているんだよ♪」


「なわけねーおw!」


「アホウ!お前がシューベルだしたんだろ!」


「おとーさん!おとーさん!さっさとやっつけるお♪」


「分かってるよ!くそが!」

「オラアッ!!!!」


 俺は槍を振りかぶり大上段から魔王に向かって思い切り叩きつけた!

 戦国時代の槍の攻撃では最大の攻撃力を持つのは突きでなく、上段からの叩きつけだと聞く!柄のしなりを効かせた打斬撃は剣とは比べ物にならないほどの衝撃力があるはずだ!


 ガッ!!!ギーーーン!!!


「クッ!」


 ギンッ!ギンッ!


「完全に弾かれたお!」


 上段からの渾身の打撃!


 そして2連突き!


 魔王に掠る事もなく魔力の壁に防がれた!

 ダメージが通る気配がまるで無い!!!!


「ギッ!ギッ!ギッ!ギッ!」


 魔王は攻撃を受けたというのに、微動だにせず不気味な笑い声を上げ続けている!


 どうした?お前の腕はその程度か?


 そう言っているように聞こえる。


「攻撃が通らない!」


 見た目は他の灰色と全く同じ、当たりさえすれば倒せるはずだが、立ちはだかる魔力障壁がいかんせん強力すぎる!


 弾かれた槍の感触はまるで硬い金属に当たったようで手に痺れが残った。


「くうッ!雑兵と同じ格好の癖しやがって厄介なッ!ん!?」


「ギッ!ギッ!ギッ!ギッ!」


「………」

「!」


「ギッ!ギッ!ギッ!ギッ!」

「どうした?お前の腕はその程度か?」


「!」


「ギッ!ギッ!ギッ!ギッ!」

「噂の勇者とやらも大したことが無いようだな」


「……」


「ギッ!ギッ!ギッ!ギッ!」

「敵わぬと知って、なお我に立ち向かうか?」


「……ちゅん助」


「ギッ!ギッ!ギッ!ギッ!」

「良かろう、死にゆく者こそ美しい!さあ 我が腕の中で息絶えるが良い!」


「ちゅん助君…」


「なにかお?」


「でたらめな訳…付けなくていいから…」


「こ、こういうのはふいんきが大事なんだからね!ふいんきが!」


「どう見たって!喋れるタイプの魔物じゃねーだろ!アレはッ!」

「そういうのいいから……」

「ん!?」


 槍での攻撃を完全に防がれ俺は攻めあぐねていた。だが行くしかない!槍を強く握り直し俺は再度攻撃を仕掛けようと腰を落としたその時、魔王が不気味な音色を発した!


「ギィ~!ギィ~!」


「こいつは!?」


 灰色の甲殻が妖しく輝き、その色が抜け落ちていくように見えた!


「なんだお!?こいつ!?」


 パアアアアーーーーー!


「眩しい!」


 魔王の輝きがその強さを増し辺り一帯が白く強い輝きに包まれた!


「目くらましかお!?」


「いや!あの強力な魔力障壁みたいなのがある以上、あいつに目くらましなんか必要ないはずだ!」



 眩し過ぎる輝きに圧されながらも、俺達は恐る恐る目を開けて奴を見た。


「こ、こいつは…!」


「白!?」

「白いお!れんぽーの白いアクマだお!」


 目を開け光が収まったその場所には白色の、いや白と言うにはあまりに透き通った白銀の様でもあり水晶の様でもある、美しい輝きを纏ったグソクが異様なオーラを放ってこちらを睨んでいた!


「ギギー!」


「やはり擬態してやがったのか!」


「灰色に化けた上に死んだふりして、尚且つ死骸の中に隠れてるとはとんでもない奴だお!」

「恐ろしいまでの知能を感じるお!」


「ああ!」

「しかもそんなことする必要のない位、強力な魔力障壁持ちの癖に!狡猾な!」

「こいつはヤバイ、とんでもなくヤバい奴の予感がする!」

「ん!?」


(我が二重三重の秘匿を引き剥がし…)


「こ、コイツ!」


(よくぞ、よくぞ我に辿り着いた!)


「直接脳内に!」


(褒めてやる勇者よ!)


「………」


(だが!これは単なる絶望の始まりにすぎん!)


「ちゅん助クン…」


(我に辿り着くことなく死んだ方が良かったと…)


 スパーン!


「ちゅん助!いかにも脳内に直接語りかけてくるようなテイで!」

「コソコソ喋るんじゃないよ!」


(こういうのはふいんきが…)


 スパーン!

「もうええ!ちゅーんじゃ!」


「いたいお…」

「でもイズサン!」

「あかんお!」

「他の奴らとは全く異質だお!」

「物が違う!」

「格が違う!」

「次元が違うお!」

「青黄赤とも比べ物にならんくらいのプレッシャーだお!」

「おとーさん♪おとーさん♪ホントに魔王がいるよ♪」


「その通りだ!」


「ひええええええー!風のイタズラだと言ってくれお!」


「そうだったらどんなにいいか!」


「イズサン!はよう!はよう世界の半分で我慢するから和平交渉をもちかけようおw!」


「アホか!出来るかそんなもん!」

「だいたい!それ!選んだ瞬間にゲームオーバーの奴だろうが!」


 異様な白色のグソクに俺は気圧されてしまい攻撃に踏み切れずにいた。そんな俺達の動揺を見透かしたように白い魔王が異変を起こす。


「ギィイイイイイイイイイイーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!」


 超重低音!はらわたに重くのしかかる様な響きを撒き散らしながら白色が鳴いた!


 いや!


 鳴くというよりこれはもはや咆哮と呼ぶべきものだ!


「うわ~!こいつ!怒ったかお!」


「耳が!」


 街中に響き渡るかのような白き魔王の聲!


「イズサン!灰色たちの様子が!?」


「うう!」


 響き渡った重低音は集合の合図であったのだろうか?周りのグソクが俺達を目指してどんどんと集合し始めた!


「こ、ここに来てあの時みたいに完全に囲まれるのか!」


「ヤバいお!ヤバいお!」


 ガレッタ達も音とグソク達の異変に気付き迎撃をしてはいるが、広場に集まり出した圧倒的な数の前では焼け石に水であった。あっという間に俺達の元に大量のグソクが押し寄せて来る!


「クソ!迎え撃つしかない!」


 俺は槍を握り直し体勢を整えた、が!


「なに!?」


 槍の射程に迫りくるグソク達を捉えるか!?そんな時だった。

 意外にもグソク達は俺の事など目に入らぬとばかりに全ての個体が俺の横を一目散に駆け抜けていく。

 一体どういうことだ?


「イズサン!」

「グソクたちが………!?」


「なんだ!?こいつら!」


 最初は魔王の号令で一斉に俺への攻撃を開始した!

 そう思っていたが、灰色達の集合地点は魔王の元だった。灰色達は魔王を頂点に持ち上げるような形でどんどんと大きな山を形成し、なおも集結を続けていく!


「ああ!」


 魔王を持ち上げていく山が不意に土煙に覆われていく!


 そして不気味な山の高さが数mに達したか!と思われた時、突然山の姿に変化が起こった!


 煙の中で個々の集合体でしかなかったはずのグソク達が溶け合う様に次々と合体していく!


「まさか!」


 第五話

 その17 魔王

 終わり

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