第94話 第五話 その15 ここに居るはずなんだっ!
「くっ!」
「ええ…」
最後の1体を…全ての死骸をどけた俺達はとてつもない疲労にに襲われた。何百という死骸を取り除いてもなにも無い…その徒労…
「バカな…」
「居ね~!」
完全に当てが外れた、死骸の山は死骸の山でしかなかった。
二人で注意深く最大限警戒して取り除いていったのだ…変な個体が居れば流石に気付くはずだが、見事なくらい何も現れなかったのだ…
「ふぁふぁーん!(←泣いている音)もうだめだぁ~おわったおwww」
ちゅん助が情けない声を上げた。俺としても突っ込む気力が無かった。
「おもしろきぃ~こともなき世をおもしろく~!」
https://twitter.com/chunsukenovel/status/1379275525458440194/photo/1
「アホ!」
「辞世の句を詠み始めるんじゃないよ!」
「あゝかなし~想いは朽つる身も捨つる~異世界の月にかかる雲おおすぎぃ~!」
「だから詠むなって!」
「きみがため~尽くす心は~水のあわわ~」
「お前、知識自慢してるだけだろ!」
「ひさかたの~ひかりのどけき~」
「あほ!」
「それはお前が唯一知ってる百人一首じゃないかッ!」
「は!?」
「わし程になると全首知っとるわ!」
「忍ぶれど色に出でにけりわが恋は!?」
「しづこころなくはなのちるらん!」
「春過ぎて夏来にけらし白妙の!?」
「しづこころなくはなのちるらんっ!」
「花の色は うつりにけりないたづらに!?」
「しづこころなくはなのちるらんッ!」
「…………」
「久方の光のどけき春の日に…」
「しづこころなく~♪はなのちるらん~♪」
スパーン!
「アホ!やっぱそれしか知らねーじゃん!」
「イズ心無くここに散るらん!」
「改変するな!縁起でもない!」
とはいうもののこの結果には俺も呆然だった。この死骸の山という場所は誰もが見落とす様な盲点だったのは間違いないはずなのだ…
ここがこれ以上ない隠れ場所である事は間違いないはずだ!それともやはり本当にデカい個体が居てそいつが遠方の安全なところで指示を出しているのだろうか?
まてよ?
操ってるのが同じ蟲とは限らない…
そう仮定するとアイツの所に戻って締め上げるか?しかし違うと言われたら…それ以上何もできない、疑惑はあっても確証は全く無いのだ…それは最後の手段だ…
ちゅん助が探索してくれた範囲で状況としては、ここ時計塔広場が一番の激戦区となっているのと、出入り口である門周辺に勢力を多く割いてあるのは理解できる、しかし他の場所は自由気ままに蹂躙させているのに、ここだけは波状攻撃を繰り返しているというのは明らかなる違いなのだ。
「ガレッタ隊長!ここは貴方が到着した時からこんなにグソクの攻撃が激しかったでしょうか?」
「勇者様、死骸の山はもうよろしいのですか?」
「聞いてるのはこっちです!最初から激しかったですかッ!?」
「い、いえ!我々は教会側へ向かうグソクの群れを食い止めるつもりでここに留まりました!」
「ですが勇者様と合流した時から、食い止めるどころか逆にこちらが身動きできないくらい足止めされてる状態です!」
「やはりか!」
「なにがやはりだお!」
「他の場所とここの違いは俺達が居るって事だよ!」
「はああ!?」
「おまえなにゆうとる!自意識過剰だおw!」
ちゅん助はこう言ってるが、俺の勘はやはりここが怪しいと言っている、仕組まれた、いいや!俺が誘導した通りじゃないか!
なにか、何か見落としてはいないか!?大切な何かを!
「ちゅん助!さっきのヒラメやらの話!なんて言ってた!?」
「ヒラメ!?」
「わしが2009年から釣り上げる事を追い求めて100マソくらい使った話かお?」
「さっきそんな話してない!だいたい!お前それでも1匹も釣ってないだろ!」
「擬態の話だよ!擬態!」
「失礼な!30cmに満たないシーバスとフグとコチくらいは釣ったお!」
「擬態ならわざわざ他人に見てもらって上手い事背景に紛れてるか確認してもらわんでも」
「奴らは魚眼レンズや複眼なんだから、自分で自分の体も見られるんだから!自分で見比べて調節すればいいって話だお!」
「見比べて…擬態する…見比べて…」
(!)
(グソクは死ぬと全ての脚を閉じた状態になる!)
(もし死骸の山に隠れるほどの知能がある奴なら、それ位の真似ならやってのけてるはずだ!)
「そう言う事か!」
グサ!
グサ!
グサ!
「イズサン!」
「今度はいきなり死骸を突き刺してどうするんだお!」
「オーバーキルだお!死体蹴りイクナイ!」
「もう女の人助けてからおまえの行動は意味不明で無茶苦茶だお!」
「乱心だお!乱心!」
「いや!いいんだ!あらゆる可能性の芽を摘み取っていく!」
「勇者様!どうされました!死骸の山を調べると言ったり!今度は死骸を突き刺したり!」
「隊長!おまえからもなんか言ってくれお!イズサンが暴走して止められんお!」
「いや、このまま暴走させれば元の世界に戻れる線もあるかもお?」
「隊長!今説明してる暇はない!」
「居るんだ!」
「ここに居るはずなんだっ!」
「ですが!」
「勇者様!貴方の仰っていた青が現れましたぞ!」
「なんだって!?」
「青だお!」
ガレッタが注意を促した方向を見ると、確かに青のグソクの集団が兵達を襲っていた!
動きが速く、戦闘力の高い青に人間側は守勢に回っていた。
「勇者様!青を叩きますか!」
経験則で言えば青と戦って、もし退けることが出来たらなら、あの時みたいに退却してゆくだろう。その先を追って行けば黄色、赤色の個体が待ち構え、あの謎の巨大な影に遭遇する事は可能かもしれない!
だが!
引っ掛かる!
何かが俺の中で引っ掛かる。このタイミングで青…
「イズサン!これは怪しいお!」
「なにが!?」
「このタイミングで青!偶然にしては出来過ぎだお!」
「やっぱり!お前もそう思うか!」
「思うお!青と戦うのもありだが、混乱してる時こそ目の前の課題から!」
「出来る事から片付けるべきだお!可能性の芽をつぶしていくお!」
「珍しく意見が合ったな!」
「俺を信用してくれるって事だな!」
「友よ!」
「いいえ、青を追っかけて行ってまた恐ろしい目に遭いたくないだけです!」
「……」
「感動して損しちゃった…」
ええい!
形はどうあれちゅん助の同意は得られた!やけくそだ!
「隊長!しばらく青の相手はそっちに任せた!なんとか持ちこたえてくれ!」
「わ、分かりました!しかし…」
「持ちこたえてくれッ!!!以上だッ!!!」
「は、はい!」
問答してる暇など無い。無理やりガレッタを押し切って死骸を突きまくる!
グザグサグサ!
「死体蹴りみたいで気分は良くないが…」
「気にするなお!死人に口無しだお!」
「それ…なんか違くない?」
グサグサ!
どうあれ!
こちらももはや破れかぶれなのだ!
死体蹴りだろうがオーバーキルだろうが全頭!
全頭突く!
突き刺して確認する!
全頭ブッ刺して完全死亡を確認して、もし何も起こらなかったら…
何も見つけられなかったら?
ええいその時こそはアイツの元へ走っていくか!
今は出来る事を!出来る事をするのみ!
「ええい!ままよ!」
残り半分!
3分の1!
4分の1!
10分の1!
グサグサグサグサグサ!
(何も起こらない…見つけられない…やはりここではないのか…)
俺は迷いを振り払う様に槍を突き刺していった、だが、遂に残りは十数体…
やはり違ったのか…クソッ!
その時だった!
ガッキイイイイン!
「!」
「!」
第五話
その15 ここに居るはずなんだっ!
終わり
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