第48話 第四話 その9 没収!

「ご主人サマ、あいつのは取り上げないっぽ?」


「なんですって?」


 どこからともなく現れた小さな揺らめく炎が少女の耳元で何か囁いた気がした。


「ピヨピヨがなんか隠し持ってるっぴゅ!」


「ふざけた真似を!」


 今度は小さな旋風つむじかぜが少女に囁いた。


 俺達から去りかけた少女は急に方向を変えて、俺達の方へ強い足取りで戻ってきた。


「舐めた真似を!してくれるじゃない!」


「え?」


「え?っじゃないわよ!下衆に渡したでしょ!もう一つ通信石あるのね!」


「え!?」

「え!?」


 俺もちゅん助も驚きの声を上げた。


 ジィイイイイ!


 鋭い目つきで少女がちゅん助を睨み付ける。


「な、なにかお…?ピ~w♪♪♪ピ~w♪♪♪♪」


 白々しくちゅん助は目を逸らし下手くそな口笛を吹いたが、少女に通用するわけがなかった。


「ご主人サマ、コイツ後ろ手に持ってるっぽw!」

「やっぱり隠してたっぴゅ!」


 いつの間にか小さな炎と旋風つむじかぜがちゅん助の周りをふわふわと舞っていた。


「わ?わっ?なんだお!?こいつら!あっちいけお!」


「全部出せっ!て、言ったわよね?」


「な、なんのことかなお?」

「~♪~♪~♪」


 へったくそな口笛が響く…


「ふ~ん?エロピヨは痛い目に…遭いたいんだ?」


「は?は?エロい目に遭いたいけど!痛いのは嫌だお!」


「じゃあその後ろ手に隠し持ってるの、出してもらおうかしら!」


「い、いやだお!これは!わしのだお!」


 ぴゅーーーーん!


 言うが速いか、その場からあっという間にちゅん助が逃走した!

 ちゅん助の逃げ足はとてつもなく速い!


 が、少女の追い足はまさかの!それを上回っていた!


「逃がさないっちゅーの!」

「どおりゃあああ!」


 少女は高く飛び上がり空中で一回転して、ちゅん助めがけて飛び蹴りを食らわした。


 ドガッ!

「ぐえあああああああああああああッ!」


 ちゅん助は断末魔の悲鳴を上げると少女の足の下敷きとなり、その手?羽?からポロリと通信石がこぼれた。


「さっさと!大人しく出さないから、痛い目見るのよ?」


「うぐぐぐ…苦しいィ…あいきゃんとぶれ~すぅ~…」


 少女に踏みつけにされたちゅん助はじたばたと暴れるが、どうにもできない様子だ。


「どーせ大した額入ってないんでしょ?あんたの命はそんなに安いのかしら?」


「ふぁふぁーん!(←泣いている音)」

「返せお~!わしのだお~!それにはわしの未来があ~!」


「あーん?ちびすけぇ?未来ですってぇ?私は今!欲しいのよ!お生憎さま!」


「どろぼーごうとう!ひとごろし~!」


「はあ?人聞きが悪いわね!助けてあげた当然の報酬、頂くまでよ!」


「ふぁふぁーん!(←泣いている音)わしは助けてもらってないんだお~!」


「あんた、それまだ言うの!?恩知らずにも程があるわよ!」


 バカッ!

「ひええええ~!」


 再びサッカーボールキックを喰らったちゅん助は、茂みの中へと吹っ飛ばされていった。


「ったく!アンタほんとにアレにどういう教育してるのよ!」


「………誠に…誠に申し訳ありませんでした…」


 もはや何を言っても無駄だろう。俺は彼女に深く頭を下げた。


「ふん!」


 彼女の方もまた、俺達と話しても無駄とばかりに俺を一瞥すると再びガリンへと歩き出した。


「!」

「え!?」

「きゃあああああああああ!」


「まてお~この泥棒女ー!にしてもなんちゅう素晴らしいケツだお!」

「スリットからムニュムニュがみえとるお!思わずむしゃぶりつくおwむほほほほw」


「ちゅん助!お前か!?」


 ガリンへと歩を進めたはずの少女の後姿を力なく見つめていた、その時、少女が急に自分の尻を押さえて飛び上がるような仕草を見せた。


 マントの下半身部分が不自然に膨らんでいた。


「いったい!どっから!」


 少女が慌ててマントの中で手を後ろに回し不気味な物体を引き抜くと、見慣れた黄色いぬいぐるみの様な頭の大きい不格好な生き物がその手にあった。


 間違いなくちゅん助であった。


「お嬢ちゃん、乳もケツも素晴らしいおwムニュムニュの癖に力が入ったらギュっと締ったおw」


「アンタ!…あんたねぇ…!」


 少女の顔と目には、もはや抑えようのない怒りが溢れだしていた。


「人の物を強盗するから悪いんだお!思い知ったかお!w」


「一度ならず二度までも乙女の胸に抱き着いて、胸だけじゃ飽き足らずお…お尻まで…!」

「それも大枚はたいて救ってあげた命の恩人に対して!」


「わしは救ってもらってないお!でも乳と尻の感触で寿命が数年延びたおwww」


「この!ドスケベ!変態!エロピヨがあ!しねええええ!」


 ポイ!


「ああ!やめてクレメンス!暴力反対!」


 バチドコーーーーーーーーーーーーン!

「みゃーーーーーーーーーーーーーーーー!」


 少女はちゅん助を高く放り上げると、見事な跳躍でジャンピングアタックサーブを決めた!


 打撃力が回転に一切逃げることなく体重と衝撃が乗り切った打球は、無回転でナックルボールの様な不規則軌道を描き再び茂みの中に消えていった。


「も!もう許さないわ!」


 少女は怒り狂うと俺の方に駆け寄ってきた。


「あ、あの…」


 本当にあれは腐れ縁のただの友達であって俺が面倒見てるわけではない!


 そう言い訳したかったが目が吊り上がったこの少女には無駄なようだった…


「脱げ!」


「は?脱げ!と…言われますと?」


「決まってるでしょ!服脱げつってんのよ!」

「持ち物洗いざらい全部出せ!」


「そ、それは何ゆえに…?」


「二束三文でも売るに決まってんでしょ!」


「えーと…」


「早くしろ!」

「あの変態使い魔の無礼は飼い主であるあんたが責任取るのが道理でしょ!」

「命の恩人たる、このいたいけな少女の胸やお尻を触るなんて信じられない!」

「この償いを十分にしようと思ったら!」

「命で払ってもらう事になるけど!そうする!?」


 もはや問答は無用だった。ここで下手な言い訳をしようとすれば少女の怒りの炎に油を注ぎかねない…


「ひえーおたすけー(棒)」


 言われた通りに服を脱いで持ち物をまとめると、少女に差し出した。


「ふん!くっさいズボンだけは勘弁してやるわよ!」


 少女は汚いものを見る目でグソク危機で豪快に汚してしまったズボンを見ると、荷物をぶんどる様な形で俺から奪って去って行った。


 上半身裸になった俺が残される形となった。


 ヨロヨロ


「うぐぐ、くっそーあの女め~!ゆるせん!ゆるせんお~!」


 茂みの中から木の枝を杖替わりについて、ちゅん助がフラフラと出て来た。


「いや、どちらかと言うと許せんのはお前の方だ…」


「イズサン!あの女どこ行ったお!」


「とっくに街の方に歩いて行ったさ」


「なんやと!?イズサン!あの上玉を逃がしたんか!?おまえ何やっとるんだお!?」


「お前ね…俺のかっこ見てなんか言う事ないんか?」


「なんやイズサン急に脱ぎ始めよってからに…」


「あほ!お前のせいで彼女が猛烈に怒ってありもしない飼い主責任で身ぐるみ剥がされたんだぞ!」


「ふーむ?おまえは命を救ってもらったんだからそのぐらい当然ではないかお?」


 スパーン!


「もう黙って!ちゅん助君黙って!」


「痛いお…」


 謎の少女によってグソク危機を何とか乗り越えて生き延びた俺達は、その助けてくれたらしい少女の手によって身ぐるみ剥がされ、再び一文無しとなってしまったのであった。


 第四話 

 その9 没収!

 終わり

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