第36話 第三話 その6 完売!
鬼気迫る姿で、悲壮感に溢れ、暴れ叫び狂っていたため、その人物であるとは気付かなかったが、よく見るとその老婆は昼間ちゅん助の売り場でケチをつけていたルノワであった。
あれほどちゅん助の火災除けの御守りを馬鹿にしていたのは、天罰とは思わないが何と皮肉な事か…
御守りがあれば火災は起こらなかった…などとは言わないが、水の精霊の怒りでも買ってしまったとしか思えない。
(こんなことが…)
泣き叫ぶルノワの姿を見てそう思わざるを得なかった。
火災は勢いを失う事なく燃え続け、ようやくの鎮火を見るのに明け方までかかった。
無残にも燃え落ちた我が家を見てがっくりと膝を落とし髪を振り乱したまま、肩を震わせるルノワの姿に声を掛けられる住人はおらず、先程までの狂乱の姿との落差がこの街に火災の恐ろしさと惨めさを恐怖と共に知らしめた形となったのだ。
「まだあるお!まだいっぱいあるお!慌てないでほしいお!」
明朝、ちゅん助が売り場を開くのを待たずしてちゅん助の周りには黒山の人だかりと押すな押すなの大行列が出来た。
むろん民衆のお目当ては火災除けの御守りだった。
私は2個、俺は3個と3日分の稼ぎという決して安くない御守りが飛ぶように売れていく。
2個目からは倍の値段!そう設定しても売り上げが衰えない。
終いには10倍の値段で強引に買い取っていく者まで現れる始末だった。
その日から御守りは増産に次ぐ増産!
当初、ちゅん助の話に耳を貸さず、見習いの職人くらいしか相手にさせなかった鍛冶屋や職人も、熟練職人まで人手を回して、ここが勝負!と24時間体制のフル生産対応で次々と御守りが増産されていく!
が!
それでも売り上げが衰えない。
効果があるのかどうか分からないはずの御守りなど無意味!インチキではないか?と言い出す者も居ないではなかったが、とある噂が伝わると売り上げが下がるどころか、火災除けの御守りなのにさらに、火に油を注ぐ様な猛烈な売れ行きとなった!
噂
それは…
実はあの晩起こった火災はルノアの一軒だけでなかったというのだ。
時同じくして起こったもう一軒の火災は、壁を燃やすほどの火事であったが不思議な事にそれ以上延焼することなく、消防隊が駆けつけた頃には不思議と火の勢いが弱まっており、バケツリレーでなんとか大事になる事は抑えられたという。
その幸運な家は、他ならぬマノアの家だったのである。
いや、しかし話を信じるのなら、それは幸運ではなかった。
その家には他ならぬ、ちゅん助が優しいマノアにあげた、あのアクリムリウムの御守りが壁に掛けられており、火の手はその御守りを中心に防ぎ止められていた!という隊員の証言があったのだ。
この事実が広まった後、100年もの間、火事を知らず、初めて火災の恐ろしさと凄惨さを目の当たりにした街の住民は、我先にとさらにちゅん助の御守りに殺到し群がったのだった!
増産!
完売!
増産!!
完売!!
増産!!!
完売!!!
さらに増産!
そして即完売!!!
なのは!完売!!!
連日連夜の売り切れとなった。
御守りの値段を吊り上げるという事もしなかったが値下げは一切する事もなく、ちゅん助ブランドの御守りは信じられないくらい売れ続けるのだった。
しかしブレイク18日目、ようやく御守り騒ぎも収束し始め売り上げが横ばいになり始めた。
そして20日を過ぎる頃、流れが変わった…
「ふぁふぁーん!(←泣いている音)」
「本職の水の教会さんが御守り事業に参入したら」
「わしの商売あがったりだお~」
なんと!
御守り人気に目を付けたアクリムの教会が、同様のアクリムリウム製の御守りを、突如として販売しだし、ちゅん助の客を根こそぎ奪っていったのであった。
もともとの信用の圧倒的差、水の精霊を祭る本職の教会が商敵となれば、それだけで勝負は火を見るより明らか。
尚且つ10分の1という価格設定となれば、ちゅん助の御守りを買う理由など一つもなく、決着は呆気ないほどに付いた。
在庫処分もそこそこに、ちゅん助は手仕舞いを強いられたのだった。
ちゅん助の店には閑古鳥が鳴き、今度は人だかりすらできなくなる有様であった。
しかしそれまでに十分すぎる膨大な稼ぎを得たのだ。丁度いい潮時だったとも言える。
こうしてちゅん助ブランドの御守りは静かに、そして完全に表舞台から姿を消したのだった。
翌日、店仕舞いを終えて俺達はいよいよガリンへ旅立つ事となった。
第三話
その6 完売!
終わり
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