第16話 第一話 その6 わし

「ええっと君は…」


 思い切って問いかけてみた。


「は?なに言っとるお!わしだお!わしっ!」


(鷲?鳥?)


 顔はパンの癖に鷲とか言っている。よくよく見るとキッチンラーメンのぴょこちゃんの亜流に似ていなくもない。


 ピコピコと動く姿はぬいぐるみのようにも見えた。


「ええとぴょこちゃん?」


「は?わしは鳥じゃないお!あんなキッチンラーメンの具材と一緒にするなお!」


(鷲は鳥のはずだが…)


「ええと鷲?」


「は?わしは鳥じゃないお!あんなF-15戦闘機と一緒にするなお!」


(なんだよ戦闘機って…)


 ぴょこちゃんもどきがプンプンといった感じで答えた。


「分からんのかお!わしが分からんのかお!」


 分からんのか!と言われても…はて?ぬいぐるみに知り合いはいないはずだが…ぬいぐるみ…ぬいぐるみ!?


「ぬいぐるみが喋った!」


「はあ!?わしはぬいぐるみじゃないお!あんな美少女の胸に抱かれる羨ましい存在と一緒にするなお!いや!してくださいお!」


「どっちだよ!」


 思わず突っ込んでしまった…


「まったく!わしだお!ちゅん助だお!」


「ちゅん助!?お前ちゅん助かっ!」


「おお!我が唯一の友!イズサンよ!こんな姿になってもよくわしと見抜いた!」


「お前自分で言ってんじゃん…てかその姿…どうしたん?」


「あほっ!」


 ポカ!


「あいた!何するんだ!」


 ちゅん助が素早く俺の身体を頭上まで駆け上がると頭を叩いた。


「こっちのセリフだお!」

「おそらくはおまえが無茶な運転したせいで、こんな姿に~!」

「そして当のおまえはそのような姿に~」

「思い起こせば!いっつもいつも自分ばっかSSR引きおってからに~!」

「思い起こせばスマゲーの11月の白雪イレブンだって」

「わしの方が半年も早く始めたのに」

「紹介されて遅れてやったイズサンばっかSSR引き当ててずるいお!」

「わしなんか嫁のあまぐもちゃん一枚も引けなかったのに!」

「おまえときたら無課金で何枚も引きおってからに~!」


 姿?なんの話だ?にして白雪イレブンとは変な話を持ち出してくるものだ…


「姿ってなんだよ、スマゲだってあんなの運だろ?」


「……おまえ…自分がスーパーSSR引き当てとること気付いとらんのか?」


「言ってる意味が分からないな…それよりお前こそその姿ほんとにちゅん助なんだろうな?好きな自動車メーカーは?」


「アルザスにあらずんば車にあらず」


「好きなグラドル言ってみろよ」


「夜岸りさの前に夜岸りさなし、夜岸りさの後に夜岸りさなし!」

「ふぁふぁーん!(←泣いている音)多和田は氏ねお!」


 間違いない!やはりこいつはちゅん助に間違いない!そういえば彼が学生時代何回か落書きのように描いていた頭が異常にでかいパクりぴょこちゃんみたいなイメージキャラクターだと言っていたあの絵、こいつにそっくりじゃないか!


 落書きは二次元のペラペラの絵で鉛筆によるモノクロラフ画ばかりだったので気付かなかったが、イメージキャラクターを立体的にした姿、それがこいつ=ちゅん助で間違いないのだ!そうかキャラクターはこんな色…黄色だったのか!


 やっぱりひよこじゃん…


 過去の記憶の中で完全なる結びつきを思い出し、その事実が孤独の不安感を払拭し胸の中に一気に安堵感が広がった。にしても、このちゅん助の声、おっさんの姿の時の声とは程遠い…しかし、何やら聞き覚えが?


 グラドル!グラドルで思い出したが!この少し鼻にかかったような愛嬌のある声は、ちゅん助に無理やり鑑賞させられたあのグラドル!夜岸りさ!彼女がこんな声してなかったか!?いや!今それはどうでもいい!


 ガシ!


 思わずちゅん助を拾い抱きしめる!


「よかった!ちゅん助!無事だったんだな!」


「おわ!?こら!抱き付くなだお!気持ち悪い!」

「わしを抱きしめて良いのは美少女だけやぞ!」


 腕の中でバタバタとちゅん助が暴れた。鳥もどきの癖に羽毛というよりはしっとりとして毛の細かい高級毛布のような柔らか且つふんわりした触り心地、コミカルな見た目とは裏腹に無駄に目茶苦茶撫で心地が良かった。


「こら!わしの体毛は猫の喉毛の3倍柔らかで心地が良いんだお!」

「ただで撫でるなだお!」


 手の中からぴょんとちゅん助が飛び降りた。


「さておきイズサン状況はまずいお」


 この話が唐突に飛ぶ態度はまさしくちゅん助のものだ!胸の内に安堵感がさらに広がるのを感じた、良かった一人じゃないのだ!


「わしらの他にだれも居らん!見当たらんのだお!」


 やはりそうなのか。目覚めてから感覚的に2時間は経過していそうだが人はおろか人工物すら見当たらないのだ。ちゅん助にしてもそれは同じだったのだろう。


「誰も居らんのだお 」


 再びぬいぐるみ、じゃなかったちゅん助が言った。


「誰も?」


「誰もだお」




「家とか建物とか…」


「ない」




「電線とか…」


「ない」




「道路くらい…」


「…ない、こともない…」



「え?あるのか?」


「アスファルトの奴じゃないお。辛うじて草が生えてない、そんなかんじの道らしきものがこの小川とは反対方向に」


「アスファルトすらないのか。通行人は?」


「2時間ほど見張ってた限りでは全く…でイズサンの所に戻ろうとして、その前に行き来があったかどうか調べるための仕掛けを施してからおまえさんの所に戻ったらいなくなってたので焦ったお!」


 なるほど、ちゅん助がそうやってる間に俺が目覚めて反対方向のこの小川まで歩いてきてしまったわけか。


「というわけでその道まで戻るお」


 言うとチョコチョコとちゅん助は俺の頭まで一気に駆け上がった。


「頭に乗るのかよ」


「だまるお!この小さい体では距離を歩くのはとってもしんどいんだお!さあこっちに歩いてクレメンス」


 頭の上でちゅん助がポコポコとその道らしき道の方向を叩いた。ちゅん助が頭上に乗るが彼はちょっとした猫くらいの大きさがあるにも関わらず不思議なほど重さを感じない。軽い羽根が辛うじて乗ってるような感じしかしない。奇妙であった。


 ちゅん助が指す方向に20分ほど歩いただろうか。森が開けて平地に出た。平原といったその景色の中にたしかに草が生えていない一筋の道があった。


「ここだお」


「確かに道っぽい」


 森から抜けてその道に出る、左右の道の先に何かあるか目を凝らすがどちらの方向も延々と道が続いているだけで見渡す限り森、山、平原…確かに何の手掛かりもない。


「あーやっぱ変わりなしかお…」


 頭から降りたちゅん助が十数m進んだ先で地面を見つめて何やら落胆の声を上げた。


「どうゆうこと?」


 第一話 

 その6 わし

 終わり

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