第8話 プロローグ その8 彗星

「最後の伝言だっピュ!」


 三度あの声が響いた。助けを告げる天の声のはずであったが、限界を超えた俺は既にどんな言葉も信じる事は出来ず、否定的な想いが巡るだけだった。


(どうせお前もグソクの仲間かなんかで俺をじっくりこんがり焼いて奴等に美味しく食べさせる)

(そんな算段なんだろう?信じた俺が馬鹿だった…もう好きにしてくれ)


 地に膝が付いた状態から身体が前に倒れさらに両手が地面に着いた。


 ドサ!


 そして首が垂れ完全にひれ伏す形となった。

 そんな俺の状態を知ってか知らずか天の声が囁く。


「この間抜け!鈍間にしてはよく頑張ったわ!褒めてあげる!最後の一発だから伏せてなさい!巻き添えになっても恨まないでね!だそうだっピュー!」


(伏せろって?もう伏せてるよ、ほっとけよ…)


 ヒュィーーーーーーーーーン


 高空でジェット機が飛んでいる音に似た風切り音が響いて来た。


「イズサン!上空になんか飛んでくるお!」

「光ってる!さっきの二つの奴よりでかい!」

「流星!?いや彗星みたいだお!」


 耳元でちゅん助が興奮して叫んだ。


(彗星だって?不吉の象徴じゃないか、まあ…最期には相応しいか…)


 何とかごろりと仰向けになって燃え盛る炎の隙間から上空を仰いだ。


「綺麗だな…」


 不吉の象徴にしては鮮やかな発色だった、最期に目に焼き付ける光景としては悪くない…


 彗星は上空で放物線を描き落下状態に入っていた。まだまだかなり高度を保っていたが、輝く大きな光点とほうき状の尾を持ち、はっきりと目視することが出来た。


 勢いを保ったままグングンとこちらへ向かってくるようだった。


「落下地点、ひょっとしてここかお!!!???」


 ちゅん助がバタバタと慌てたがもはやどうする事も出来ない。彗星はなおも迫り高度を下げ確実に俺達の真上辺りに到達すると、明らかに真下へと方向を変え落下してきた。


 300m!


 火ッ!!!


 あと一瞬で着弾!そんな高度に達した彗星はカッ!ともキンッ!ともとれる高音を発してもの凄い閃光と共に爆発し、無数の尾を引いた火球が地面へと降り注いだ。


「うおッ!」

「ひえぇーーー!!!」


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 ドン!ドン!ドォオオオン!ドドドドドドーーーー!


「キー!」

「ギギー!」


 無数の尾を引いた火球達は夏の花火大会のラストを盛大に飾る黄金のしだれ柳を形成していく!


 y=-1/2x²の断面図を持つ上凸放物線状のドームを形成し文字通り雨あられの火球をこれでもか!というほど撒き散らし地上のグソクを焼き払い爆風で吹き飛ばしていった。


(大丈夫か!ちゅん助!)

(イズサンこそ!)


 俺は彗星が爆発し火球が降り注いだタイミングで自分でもまだ力が残っていたのかと驚くほどの力を振り絞ってちゅん助を再び服に仕舞うと亀のポーズでなんとかちゅん助を庇った。


 ドドドドドドドドドドドーーーーーーーーー!


 降り注ぐ火雨は俺達の周囲になおも降り注ぐ。いつ俺達に直撃弾が襲っても全く不思議でない状態で、逆にまだ生きているのが不思議なくらいだ。


(これで当たらなければ、おめでとう!ってところだなっお…)


「……」


 こんな状況下でも元ネタが分かってしまう自分が憎かったが突っ込む余裕は無かった。


 ドドドドドドドーーーーーーーーーーーン!


 実際に火球が降り注いだのは20秒もなかったはずだが俺にはもっとずっと長い時間に感じられた、が、やまない雨は無い。最後の一発がことさら大きい音を立てて着弾した。


「……」

「……」


 伏せた顔を上げて良いものか!?俺達は言葉なくうずくまったままであった。


 プロローグ 

 その8 彗星

 終わり

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