013 街と視線

 門番に別れを告げた後、マグとアテラは並んで巨大な門をくぐった。

 そうして街に入った二人の目に飛び込んできたのは――。


「これは、何と言うか……いわゆるJRPGみたいな光景ですね」


 城壁や門番の雰囲気を引き継いだような西洋の建築物の数々。

 古めかしさや厳格さはなく、どことなく現代的なポップさが見え隠れしている。

 日本人が一般にファンタジーと聞いて思い浮かべるような景色が広がっていた。


「ゲームの世界に入ったみたいで凄いけど……これ。どう考えても自然とこの形に落ち着いた訳じゃないよな」


 一から順に文明を築いていったのならいざ知らず。

 ここは崩壊から復興した更に後の世界なのだから。


「ええ。間違いなく、人為的なものでしょう」


 誰が音頭を取ったのかは分からないが、JRPG的なライトファンタジー世界をモチーフにしたのだろう。もの好きなリーダーがいたらしい。

 そんな感想を抱きながら、マグはアテラの誘導に従って目的地へと歩いていった。

 彼女はあの腕輪型の端末を吸収(?)したことで、空中ディスプレイを一々表示させることなく頭の中で地図アプリを起動できるようになったそうだ。

 何とも便利な機能が追加されたものだ。


「あの、旦那様」

「…………ああ、視線を感じるな」


 アテラの小声の呼びかけに、マグは目線だけで周囲を窺いながら応じる。


「私を見ているみたいですね」


 通行人の表情や目の動きからして、どうやらアテラの外見が珍しいようだ。

 門番が彼女を指して「随分と旧式」などと言っていたが、如何にもロボット然としたガイノイドはこの時代には余り存在していないのかもしれない。


「けど、入ってすぐは誰も見てなかったよな。あれだけ派手に門が開いたのに」


 稀人が発生する場所を街が管理しているということなら、入ってきた門と普段使いされている街の出入り口は全くの別ものと考えるのが妥当だろう。

 時空間転移装置は暴走しているとも言っていたし、立ち入り禁止の危険区域となっていて然るべきだ。簡易適性試験も行われる訳だから。

 あの門が開けば、稀人が現れたと大々的に知らせるようなものだが……。


「恐らく、光学迷彩などを駆使して住民の認識を阻害していたのでしょう」

「……わざわざそんなことをするなら、小さな扉にして職業斡旋所に続く隠し通路でも作っておいてくれればいいのにな」

「それでは味気ない、ということではないでしょうか」

「…………それは、まあ、確かにな」


 突然見知らぬ場所に放り出され、不安が先立つような状況だ。

 ひたすら合理的なだけでは気が滅入ることもある。

 実際、あの大きな扉が重々しく開いて目にした街の光景にはマグも多少なり興奮していたし、心の清涼剤として機能していると言えなくもない。

 あの門番も最後にRPGのモブキャラの台詞染みた言葉を仰々しく口にしていたことを考えても、そうした心理的な効果を狙った演出と見て間違いなさそうだ。

 その上で、余り稀人が目立たないように配慮もしていたのだろう。

 少なくとも、遥か未来の技術の無駄遣いではなかったらしい。

 もっとも、アテラ自身の姿が特異なせいで隠蔽効果は無に帰したようだが。


「ともかく、気にせず職業斡旋所に向かいましょう」

「そうだな」


 別に疚しいことなど何一つとしてないのだ。

 マグ達は周りの視線を気にせず、堂々と歩くことにした。

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