悪くないぜ (花金企画 お題気心に寄せて)

 高校時代、俺には『気心が知れた友人』と呼べる奴が一人いた。

 俺は体も細くて、勉強も中の下くらいだったから、学校の中ではおとなしく過ごしていた。そんな俺に話しかけてくれたあいつも、学力もスポーツも中くらいの平凡な奴だった。

 

 何かを特に競うことも無く、何かに夢中になることもなく、漫然としゃべってゲームして過ごしていた高校時代。でも一つだけ、俺たちにアオハルらしいことが起こった。

 あいつが恋をしたんだ。クラスの女の子に。

 

 名前は礼美れみと言って、やっぱりクラスで目立つことのないおとなしめの女の子。


 あいつは夢中になったらしく、デートに誘う方法をあれこれ俺に相談してくる。

 そんなことを言っても何の知識も経験も無い俺に、良い案が浮かぶわけもない。


 ただ不思議なことに、あいつが礼美のことをべた褒めするのを聞いているうちに、俺にも気持ちが移ったのか、礼美のことが好きになってしまった。

 でも、結局俺は何も言わなかったけれどな。


 念願かなって、あいつは礼美と付き合い始めた。

 まあ、当然だよな。先に好きになったのはあいつだし。

 俺は気持ちを漏らすことも無かったし。

 

 勇気のない男? 負け犬? だろうな。 


 俺は負け犬だ。



 でもさ、負け犬だからって、生きていかれないこともないんだぜ。



 ギリギリ引っかかった大学に行ってからは、あいつとも疎遠になった。

 そして風の便りに、あいつが礼美と別れたと聞いた。


 俺の心はもうすっかり冷めていたし、別に「そっか」と思っただけだった。


 でもさ、就職して同じ会社に礼美を見つけた時は、マジで驚いた。


 こんな偶然も起こるんだって。


 同じクラスだったという気安さで、彼女の失恋相談とかに乗っているうちに……


 できちゃった婚も、悪くないぜ。


      fin


 ギリギリでこんなお話になってしまいました。


【お題】 気心

【レギュレーション】 負け犬キャラを入れる

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る