有罪! (花金企画 お題罪に寄せて)

有罪ギルティ!」

 

 居間のソファに腰かけている大学三年生の悠太ゆうたが、隣に座っている同じく大学一年生の弟、康太こうたに向かって言った言葉。

 康太は不服そうな顔をして反論する。


「俺じゃ無いよ」

「いや、俺は見た」

「見てても、あれは俺のだから」

「だってこれ見ろよ」


 悠太はゴミ箱から証拠の品をつまみあげると、康太に見せた。


「ここに俺の名前が書いてある。だからこれは俺のだった」

「名前なんて書いてあったの知らないよ」

「知っていても知らなくても有罪だ」

「それは違うぜ、おにい。お兄の方が先に学んでいるはずなのに知らないのか?」


 康太の言葉に、悠太はちょっとムッとした表情になる。

「お兄が言っている有罪って言うのは、刑法二百三十五条の『窃盗罪』についてだよね」

「そうだよ。一年坊主のくせによく知っているな」

「お兄よりちゃんと勉強しているからね。それでさ、『窃盗罪』の知ってる?」

「ふっ、バカにするな弟よ。そんなことは知っているに決まっているだろう」


 そう言って笑うと、悠太は得意気に言い出した。

「一、窃盗したものが他人の占有物であること。

 二、窃盗した者が不法に得たことに気づいていること。

 三、取ったと言う事実」


「じゃあさ、お兄、この場合、三の『取ったと言う事実』は、俺が食べているところを見たってことだよな」

「ああ」

「一の『他人の占有物』って言う条件は、名前が書いてあったからって主張しているんだよな」

「ああ」

「じゃあ、二の『窃盗した者が不法に得たことに気づいている』って言うところは、どうだろうか? 俺は名前が書いてあることも、お兄のだってことも知らなかったんだよ。だからことに気づいてはいなかったよね」

「う……それはお前が気づいていたかどうかについては証明しづらいな」

「だろう!」


 今度は弟の康太がフッと笑った。


「証明できないんだったら、俺の『窃盗罪』は成立しないよ」

「むむむ」

「だいたいさ、三連のなんだから、どれ食っても一緒じゃん。わざわざ名前書いておく必要ある?」

「書いておかなかったら、お前全部食っちまうだろが」

「書いてあっても食っちゃったけどね」


「お前、それ自白じゃねえの」

「……」


 日曜の午後のしょうもない兄弟の会話。

 


「お兄、もう一つ教えてあげる」

「なんだ?」

「『窃盗罪』は刑法二百四十四条において、家族の間では免除されるってなっているんだよ」

「……」


 おしまい! ごめんなさい! こんなのしか思いつきませんでした<m(__)m>



注)『刑法二百四十四条において、家族の間では免除される』と表記したのですが、私の中途半端な法律知識で誤解が生まれると申し訳ないので、少しだけ説明させていただきます。

 これ免除されるとは言っても、罪に問えないわけでは無いのです。

 法律の中には、被害者が申し出ないと警察とか裁判所が動けない事柄と、申し出なくても事実があれば警察とか裁判所が動ける事柄とあります。

 殺人とかは、被害者亡くなっていて届け出できないですよね。それでも警察はちゃんと動けますよね。

 で、窃盗罪も基本的には事実があれば警察が動けるのですが、親族の場合は、いわゆる『届け出』が無ければ動けないと言うことです。

 この兄弟の場合で言えば、プリン一つだとしてもお兄さんが裁判所に『告訴』すれば弟の罪を問えることになります。

 とはいっても、これはやはり専門家である弁護士などに相談してくださいね!

 (責任逃れ(^^;)

 今回は、法律を習いたての兄弟が、粋がってお互いに知識をひけらかしながら喧嘩しているんだなぁ~と生ぬくーい目でお目こぼしいただけるとありがたいです。



☆他の『花金』参加作者様の作品はこちらからお楽しみください

 ↓

https://kakuyomu.jp/works/16816452219018347348/episodes/16816452220876139664


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