短編の花束

涼月

ピンクのカーテン (花金企画 お題ピンクに寄せて)

「私は花柄のピンクがいいの!」


 ダイニングテーブルに座って拗ねた顔をしているのは、この春結婚予定の娘の綾香あやかだ。母親の京香きょうかに話始めた。

 俺はリビングのソファで新聞を広げながら、耳だけそっと傾けた。

 

 確か今日は、新居に必要な物を色々買い出しに行っていたはず……


「でも、ヒロ君は、ピンク嫌だって言うのよ。普段カーテンなんてたいして興味無いくせに」


 どうやら、新居のカーテンの色で揉めたらしい。

 おいおい、こんな直前になって、喧嘩別れしないでくれよ。


 そう思った俺は、ふと同じ言葉を聞いたことがあったなと思い出した。


 京香と結婚する時の事、同じようにカーテンの色の事で揉めたっけ。

 やっぱり親子なんだな……


 新聞から顔を上げて、二人の様子を見た。


 

 あの時は、どうしたんだっけ……


「りょう君、私この花柄のピンクがいいな!」 

「花柄のピンクって、なんか落ち着かないな。男の俺にはちょっと……」

 本音がポロリと出てしまった。途端に、京香の顔が険しくなった。


「でも、今度は一緒に住むんだから私の好きな色にしたっていいでしょ」

「そりゃそうだけど、俺にだって好みってものが」

「りょう君は、私に選ばせてくれないんだ」

「いや、京香ちゃんが好きなのでいいんだけどさ、流石にピンクの花柄はなぁ~」


 情けない声を上げた俺の事を睨んだ京香は、ちょっぴり頬を膨らませながら先に行ってしまった。

 

 何をそんなに怒っているんだよ。たかが、カーテンの色くらいで。


 俺もちょっと意固地になって、沈黙したまま歩いて行く。


 結局、カーテン以外の物だけ買って、車のトランクに入れた。

 

 車に乗り込んで発信させようとしたところで、京香がもう一度聞いてきた。


「ねえ、やっぱり花柄のピンクじゃだめ?」


 俺はまだ言っているのかと思ったけれど、きっと快適な新居を、京香なりに作りたいと思っているんだろうなと思い直した。

 ふーっと軽く息を吐いてから、


「いいよ。京香が好きなら花柄のピンクのカーテンで」

 と、笑顔を添えて言った。


 その途端、京香の瞳からポロポロポロポロ涙が零れ落ちた。


「ごめんね。りょう君。わがまま言って。私、なんか不安になっちゃって。りょう君がこれからも私の事、ずっと一番大切に思ってくれるのか」


 そっか、マリッジブルーって奴だったんだな。


 俺はにっこりとして、もう一度言った。

 

「京香が一番大切だから、京香の好きでいいよ」

「ありがとう! やっぱりりょう君。もう一度選びに行こう! 今度は一緒に選ぼう!」


 京香の目に、もう涙は無かった。


 譲り合いって大切だな。

 俺はその時つくづく思ったのだった。


 さてさて、京香はあの時の事を覚えているのかな。

 綾香へどんなアドバイスをするのだろう。


 俺はもう一度新聞に目を戻すと、二人の会話に耳を澄ませたのだった。



☆他の『花金』参加作者様の作品はこちらからお楽しみください

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