直観と直感による戦いの行方

猫松 カツオ

第1話 お題 直観 難し

 直観とは、論理的に思考すること。

 相反するは直感。

 これは本能、または経験に基づき判断することである。

 

 時は昔、この大陸デスピアでは二つの勢力が拮抗し争い血と悲しみ、絶望、恐怖、憎しみを振りまいていた。

 

 一方は魔族陣営。

 魔族とは頭に角を生やした一族の事でこれまでバラバラであった竜族、鬼、魔族、獣角族を魔王と呼ばれる強者が全魔種族を纏め人類に敵対した。

 

 そして人族陣営。

 彼らはそんな魔族の進撃を止めるため対抗し4王国、人、エルフ、獣人、ドワーフが手を組みこの混沌とした暗黒の時代に立ち向かった。

 

 二つの陣営はそれぞれバラバラだった種族の人達に共通意識を持たせる為。

 名を与えた。

 

 魔族陣営は太陽の様にこの大地を照らすデスピアの光になろうと願いヘリオスと名付け。

 

 人族陣営は月の様に気高く美しく潔白に、この大地に君臨し続けようとセレーネの名を付けた。

 

 ヘリオスを率い、指揮を下すはベスティアと呼ばれる名の智将だ。

 彼女は魔族の女性。

 知略、では無く直感で動く人物であった。

 そのあり得ぬほど研ぎ澄まされた直感と指示はまるで狼の群れのごとく連携をこなし相手の動きを読み取り反撃、攻めいり食い破る。

 

 セレーネの指揮官は人族から選ばれた人物はユシュ。

 彼は男の指揮官だ。

 特徴は、論理的に物事を考え行動し指示を出す事。

 その情報網と情報伝達システムは寸分違わぬ的確な指示を出し勝つべくして勝つ戦法。

 直観型の指揮官だ。

 

 …

 

 戦争で一番人を殺すのは誰か…。

 何も考えず思いつくのは前線で戦っている兵士だ。

 だがそれは否。

 味方や敵を殺すも生かすも全ては指揮官。

 つまりは戦略を練り指示を出す彼らこそが戦争の中心であり決め手。

 魔王や勇者と呼ばれる英雄は飾りでしかない。

 

 我らが戦争を決めその先に来たる歴史を決める。

 

 直感と直観の戦い。

 その攻防は双方一歩も引かず。

 この世界最大の戦いは泥沼と化していた。

 

 「なるほどー、やっぱりそうきたかー」

 

 ベスティアは魔法による状況把握で戦況を確認し目の前にある地図を眺めていた。

 

 「こうだな、そんな気がする」


 地図の上でチェスの駒が動いた。

 彼女の獣じみた直感で相手の嫌がる場所へと兵士を向け戦況を進めていく。

 

 …

 

 「はい、はい、そうですか…。

 で、あればこうですね」

 

 ユシュは通信機器により戦況を把握。

 そこから考え3Dモニターに映し出された地図をもとに指示を出し兵を配置する。

 

 ヘリオス、魔族陣営は魔物を使い。

 セレーネ、人族陣営は魔導兵器を使った。

 

 …


 魔道銃を持ち、荒い息を整える。

 ここは戦場にある塹壕。

 塹壕の外、辺り一体は炎と煙、敵、味方の死体が散漫としている。

 

 「伏せろ!!

 竜がくるぞーーー!!」

 

 隊長に言われるがまま私は頭を低くする。

 

 ゴオオオオオオオ!!

 

 「いやああああああ!!」

 「熱い!! 誰か火を消してくれ!」

 

 灼熱が通り過ぎると人々の阿鼻叫喚がこだます。

 

 「いいか、俺から離れず付いてこい!!

 我らD小隊はこれより、今奴等の陣を敷いている場所を奪取する」

 

 この指示を出しているのはこの隊の隊長であるガイストだ。

 

 「おい!

 聞いているのかシャル!?」

 「はっはい!」

 

 急に自分の名と肩を叩かれ猫耳と尻尾がビクリと立ち上がる。

 

 「ボーッとするな!!

 ここではそれが命取りになるんだ!

 これは演習じゃない、ましてや遊びでもだ!

 一人の行動が隊の全滅を招く。

 しっかりしろ!!」

 

 炎による暑さと、煙、血の匂い。

 頭がおかしくならない方がおかしい環境だ。

 そんな中でも私は前線に立ち戦っている。

 

 「よし行くぞ!

 俺をカバーしろ!!」

 『はい!』

 「突撃!!」

 

 魔導銃を構え魔族を射殺していく。

 敵である魔族はそれに対し魔法による迎撃や魔物を使った強力な攻撃で応戦してくる。

 

 終わらぬ戦いだ。

 いつまでも続く大砲や爆裂魔術による爆発音に怯える日々。

 今日友になったはずの人が明日には息絶え死んでいるなんて事はここでは当たり前の話。

 

 弾が無くなれば魔導銃に銃剣を取り付け突撃する。

 敵をもう何人殺したかなんて分からない。

 自分の大切な故郷を守る為だと、格好いい兵士になると息巻いて兵士に志願した自分をぶん殴りたい衝動に駆られる。

 

 ここに正義なんてものは無い。

 生きるか死ぬか…ただそれだけだ。

 

 …

 

 魔族陣営側でもその絶望は同じだった。

 故郷に残した子供達を想いながらこの戦場に立ち指揮をしているシャバルもまた同じ戦士だ。

 

 鬼族の戦士長。

 この戦争が始まる前まではそのお金で孤児院を作り子供達の世話をしていた経歴を持つ。

 

 この戦争には子供達の為にと魔王の意思に同調し参戦した。

 差別されている魔族や他の部族達の地位向上の為の戦い。

 人間からの開放を望む戦い。

 魔族奴隷、魔族差別、それらの苦しみを子供達へと引き継がぬ為に行われた戦争。

 

 和解では駄目なのだ。

 弱者は強者に従う以外にすべが無い。

 力が、奴らに目に物を見せ誇示できる力、実績が必要不可欠。

 

 「よく聞け!!

 これは、我ら魔族が受けてきた苦しみを断ち切る戦いだ!

 命を捨てても戦え!!

 我らの子達に普通の暮らしを…。

 例えただ歩いているだけで人族に怯え続け無ければならない日々からの開放を。

 奴ら人族を絶対に許すな!」

 

 ウオオオオオ!!

 

 「総員、俺に続け!

 ヘリオスに太陽の如き輝きを灯せーーー!」

 

 剣を持ち魔物である狼に跨りシャバルは剣を敵陣に向けて走り出す。

 

 全ては各々が想う正義の為に殺し合う。

 

 …

 

 セレーネ側の人族陣営では吉報が入り戦場にいる人々は歓喜し指揮が上がっていた。

 

 理由は勇者の参戦である。

 勇者とは人が作り出した最強の兵士の事だ。

 勇者と本来呼ばれる異世界人を膨大な魔力を消費して召喚し。

 魔術改造、人体改造、を施し感情を消し去り戦闘技術、魔導技術をインプットさせた。

 ただただ効率よく殺戮を繰り返す魔導アーマーを着た殺戮兵器の通称である。

 

 「勇者が来た!」

 「これでやっとこの戦場も楽になる」

 

 なぜ異世界人をコアにするか。

 それは魔力の保有量、または生成がこの地に生きる生命体よりも桁違いに多い為だ。

 

 勇者を運ぶ飛空艇が頭上を飛んでいく。

 

 魔導銃を撃ちながらシャルはその存在に感謝すらしていた。

 勇者という強力な兵器は一般兵、いや…それだけでは無いセレーネの人々からすればこの暗黒の時代を切り開く希望だ。

 

 そして勇者の活躍により見事、戦線を押し上げていく事にセレーネは成功していく。

 

 …

 

 「ここで勇者を投入してきたかー。

 なら、こっちも切り札をぶつけるしかないなー」

 

 直感がそうしろと告げて来る。

 そして相手がされたら嫌がるだろうなという場所も。

 ベスティアはニヤリと笑いチェスのキングを地図上に配置した。

 

 …

 

 勇者がヘリオスの軍勢の中へと単身で乗り込み殺戮をしている所に…では無く人族が住む王国に魔王が黒竜に乗り空を埋め尽くす程の竜を率いて表れた。

 

 当然王都の守りは硬く作られてはいるが魔王の襲来を想定し設計されてはいない。

 

 …

 

 その数日前、指揮官であるルシュは魔王の襲来をこれまでの相手の行動を分析し更には竜の動向を観測隊の情報をもとにこの可能性を導き出していた。

 

 これまで数年と戦い、思考を読み合っていた相手だ。

 それなりのデータはある。

 こちらの罠を直感でよみ回避。

 逆に、こちらの手薄となった場所へ奇襲してくる戦法。

 

 ルシュは対局に座る相手を想像し対戦していた。

 相手の性格、狡猾さ思考、感。

 想像し何度も空想上でシュミレーションを重ねた。

 

 「やはり…決めに来たか…」

 

 ルシュは盤上を見て笑う。

 その目線の先には今までにない規模の飛空隊の船が敵の都市めがけ進んでいる所だった。

 

 …

 

 人族の王都は万全な態勢をしき魔王の軍勢と戦っていた。

 竜の鉄を溶かす業火に対するは対空魔導兵器。

 ルシュは自らの判断を指示を見届ける為、空に舞う竜を見上げる。

 

 空には幾弾もの対空砲が飛び交いそれに負けじと対空防衛している人の乗った対空兵器へと恐れる事も無く襲いかかり燃やし噛み砕いていく。

 

 この戦いは悪いが人類が勝つ。

 例え自らが悪魔と言われようとも…。

 

 魔族の国は血に濡れていた。

 虐殺…。

 私は何処でミスを犯したのか…。

 自らに問う。

 ここ最近こちらの手の内が読まれ始めた。

 直感と直観は言葉は同じだが大きく違いがある。

 直感は己の経験の中から感じる物であり限界がある。

 だが直観は違う、今までに見たことの無い物を経験したことの無い物を読み解き見通す力。

 無限の力 人類が手にした力。

 

 「そうか負けか…」


燃えて行く王都を見てべスティアは人を呪い不甲斐ない己を心の底から呪った

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