第4話 不服な結果……

 俺は『少し時間を下さい』と申し出たが、斉藤所長と本社の人達に拒否をされて、その場で決めなければ成らなかった……

他の事業所への転勤と言っても、家からの通勤圏内に有る事業所は、今の事業所しか無い……


 当然、転勤と成ると引っ越しが必須だが、今住んでいる家は賃貸アパートで、最近契約を更新したばかりだ……。折角更新した、更新料が無駄に成ってしまう。

 たとえ、転勤出来ても俺の行った行為が、会社全体に広まっていたら、俺は落ち着いて居られないだろう……


 結局、退職を迫られる事に成るが、見知らぬ土地で無職に成る位なら、まだ、知っている土地で無職に成った方がマシかも知れない。


 数分間悩んだが、俺は自己都合退職を選択した。

 自己都合退職を選択すると所長が『本当に良いのか?』と言われ、俺は『はい』と言うと……総務の人は、待っていましたばかりに、退職に必要な書類が入ったクリアファイルを『ポン!』と俺の所に出してくる。


(はぁ!?)

(何で、準備して有るの!?)

(俺を辞めさせる気満々!?)


 俺は一気に表情が青ざめる……

 少しでも説得してくれる者だと思っていたからだ。


 総務の人は『書き方の見本が、その中に入っているからそれを見て書いて…』と事務的に言う。

 所長は『やれやれ…、終わった。終わった』の顔をしており、俺はめられたんだと気付いたが、後の祭りだった……


 ご丁寧にクリアファイルの中には、本社宛の封筒まで入っており、書類を本社の総務部に送れば退職の手続きは完了らしい。

 そのため、会社の身辺整理も今から行わなくては成らなかった……


 まさか……ここで、退職と成ってしまうとは夢にも思ってもいなかった。

 上司の西岡の心が狭すぎるのか、俺が無知だったのかは解らなかった。

 まだ、業務中の時間のため、ロッカールームには人はおらず、誰の目にも触れる事無く身辺整理は終わったが、本当に夜逃げしている状態だ。


 最後に事務所に顔を出して、斉藤所長と事務員の人に別れの挨拶をする。西岡は現場に出ていて事務所には居なかった。

 事務員も状況を把握しているので塩対応で終わり、所長も『手を出したのは不味かったな……』と言うだけだった。


 身辺整理と言っても、作業着や安全靴は会社側で処分して貰うので、私物は殆ど無い。

 ズッシリとしたクリアファイルを持って俺は車に乗り込む。

 己の行った行為の後悔で急に悲しくなって、しばらく車内でむせび泣いた……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る