第25話 勉強

「さ〜て、やるか」

 僕は自宅の自分の部屋で英語の単語カードを開いてつぶやいた。今は夜の9時。あのあと、みんなと別れて自宅に戻り、風呂に入って、出たあと、一人で孤独の洞に少ししかないたいまつを灯し入っていった。

 まず、英文を書き写した単語カードを読もう。この英文をかき込むのが大変だとすりゃありゃしない。マジで血がにじむような努力で書き写していくんだ。一つ一つの単語を書くというのがどれだけ大変か。しかも僕の勉強法は一文をそのまま書き写していくんだが、英語で使われる一文がどれだけ長いことか!本当にやっている最中であくびがするほどめんどくさいんだ、これは。

 まあ、仕方ないな、覚えよう。まず一文。

she makes up and he obeys.

これはなんだっけ、まず、これはobeysがわからない単語だな。彼女は彼を作り上げた、何を?

 なんだっけ、obey,obeyだろ?obeyだからboyと似たような意味か?しかし、それは意味がわからんし、う〜む、めくるか。

 obey.他動詞、〜に従う。

 なるほど、従うか。と言うことはこれの意味は彼女は彼を従わせた、と言う意味だな。

 あ、思い出したぞ、この英文は少女が犬を飼うシーンがあって、その時犬をしつける一面か。しかし、obey何て覚えてられねえ、次行こう。

 If she slides two raisin cookies across the flat ledge one for the Karen and one for Clow.

う〜む、これはなんだっけ。もし、スライドさせたら、ライズンクッキーをカレンにあとクローに…………………なんだ?与える、と言うことが妥当だけど、動詞の部分にgiveがない。これはどう考えれば良いんだ?

 ライズンなんだ?昇るか?昇るクッキー、意味が不明だflat.はなんだろう?フラットはフラットだ、明るいって言う意味で使ってた気がする。明るい、クッキーをスライドさせると明るい、いやわけわからん。

 ledge.に至っては意味がわからんし、めくるか。意味は

 raisin 名詞 レーズン

 flat (物の表面が)平たい

 ledge (建物の壁から突き出た)棚。

 なるほど、raisinはライズンではなくてレーズンだったか、flatは明るいではなくて平たい。Ledgeは棚か。しかもまだ知らなかった単語がある。まさかあの単語がこういう意味だったとは。

 If  〜するといつも(因果関係)

 なるほど、こういう意味だったか、とすると僕は最初っから間違えてたという事になるな。もし、レーズン崛起をスライドさせ横断させると、と言うことではなくて、棚に二つのレーズンクッキーを横断させるといつも、になるな。

 全く英語は難しい。英単語を覚えること自体が苦痛だ。このこつこつ覚えることの苦しみと言ったら全く人がいない街で、家に火事が起きて、それを警告してまわるみたいな徒労感だけが残る。

 ちなみに意味はこうなるな。

 彼女は二つのレーズンクッキーを棚から横断させると、一つはグローニア、もう一つはカーローの口に入る。

 なるほど、ちゃんと意味が通ってる。

 僕はそうやってどんどん蟻(あり)の足で川を渡っていった。その川には不慣れだったので不器用に渡った。

 よし、次で打ち止めとするか。

 Mother`s whereabouts are not so easy to predict.

これはなんだ?whwreaboutsはwhereとaboutだよな?どこで、そのあたりになるし、つまりどういうことだ?どこで、そのあたりになるから、つまり、なんだ?どこら辺という意味か?

 それにpredictってなんだ?なんだっけ?意味がわからん。母はどこら辺簡単ではない。Predictが簡単ではない。なんだっけ、これは?

 僕は一つため息をしてめくることにした。

 これから覚えていけばいいよな。ただ、predictって基本な単語だったような気がするが、まあ、それは無視しよう。

Whereabout 副詞 どの辺に、どの辺で(正確な答えが期待できないときに用いる)

 Predict 他動詞 〜を予言する

 こんな事になるな。つまり、母がどこにいるのか予測するのが簡単ではない、と言う意味だな。

 全くわからんかった。しかもpredict.は基本的な単語だし、覚えないとな。

 そう、僕は思ってカードを机においた。

 そろそろねるか。今日も勉強づくめだったし、ねてから明日のことを考えよう。筆記道具をしまって、布団に入って、それじゃあお休み。

 闇の世界が広大に僕の前に横たわる。その暗黒の世界で考えることがツクシのようにぽつぽつと黒の芽がでてくる。今日はさんざんだったな。普通にとりわけなにもなかったけど、こんな勉強を毎日続けることなんて苦痛でしかない。こんなのを続けるなんて、それだけで暗鬱(あんうつ)だ。

 僕はそうやって暗闇のなかで一人自分の言葉の輪っかに回り続けた。

 回り続けていたが、次第に意識が遠のいていった。夜の闇がぽっかり僕を飲み込み、闇の扉が閉じた。




 かきかきかきかき。

 たったったった。

 黒い原初の無地色の布に白い剣を打ち立てて、余計な式を書き込んでいく。

 今は世界史の授業。教師がほとんど言わずにただ黒板に歴史の出来事を描いていく。僕達はただ、それを移す。なにも考えずに。

 そして、だいたいの所を書き終えた所で、その教師はくるりと振り向いた。

「これは第二次世界大戦後のことだ。世界大戦中にルーズベルト大統領とチャーチル首相が極秘に会談をした会議で、ここで国際連合の構想が打ち上がった。まだ、この時はアメリカとソ連が共同してドイツと日本と戦っていたころの話しだ。ここで、日本の北方領土が決まり、ドイツの分割統治も話題になった。そして、この会談が終わって、連合国川が勝利に傾けたときに行われた会談がマルタ会談だ。これは主にドイツの処分をどうするかを重点的に話された会談だ。これも覚えておくように。そのあとで日本の無条件降伏を勧告したのがポツダム会談だな。これはそれで有名だが、しかし、これはアメリカと、ソ連の相互不信がいっそう強まった会談としても有名だ。段々、これが決裂し始めて、第二次世界大戦が終わったあと、ベルリンの壁を建設して、チャーチルが西側と東側に鉄のカーテンがあるといった直後あたりから冷戦が始まった。これを覚えておくように。次行くぞ」

 また目が見えないモグラが地中に潜っていく。そして、それに遅れれまいとするミミズがうねうねとモグラの後を追って地中深くに潜り込んだ。

 ………………………………。




 かきかきかきかきかき。

 暖色の明かりが灯す、4畳ぐらいの部屋に僕はいる。それはピンク色のカーペットに、西側にかわいらしいピンク色のベッドとその上にかわいらしい熊のぬいぐるみがあり、東側に4脚のちゃぶ台が置かれていている持ち主の性格に合わずかわいらしい部屋だ。そこで僕達は機械の針になっていた。

 芳醇の色が胸を見たし、むせかえるようなマリーゴールドの香りが自分の胸に奥深くに届き、また再び上昇した。その部屋の中で僕達は勉強をしているのだが、この部屋というのはつまり、キャサリンの部屋なのだが、4畳一間しかない窮屈(きゅうくつ)な所にちゃぶ台を二つ広げてその中に4人が座っているのだから窮屈(きゅうくつ)で仕方ない。

 しかし、僕達は別にそんな窮屈(きゅうくつ)さを今はことさら言わなかった。僕達は集中して一つの事柄に向かっていたのだから。

 かきかきかきかきかきかき。

 さて、次の問題を解こうか。軽い英文だな。

 Kazuko pulls herselh little by little until she is kneeling on matress and peer through the zigzag tear in the blind.

和子は彼女自身膝を少しずつ曲げてそのマットレスの上に置いた。それでブラインドのジグザグに裂かれた外から明かりが漏れ(もれ)ていた。

 Peerがよくわからなかった。だが、なんかよくわからないが、throughが後ろに置かれていると言うことは、何かが通っているんだろう。多分、明かりが。さて、正解を行ってみよう。

 彼女はマットレスの上に少しずつ膝まついてそこから避けたブラインドをじっと見た。

 う〜ん、peerは自動詞で、〜をじっと見つめる、だったか。たった一語わからないだけで英文の意味がわからないとは。やはり英語は難しい。

 ちなみに little by little がすこしずつで、

 kneel が自動詞でひざまづく、

 tear が他動詞で裂く、

 blind は名詞でブラインド

 になるな。次行ってみよう。

 But because he is so sure that she is lost, he turns away and goes back inside his office.

 これはある所を注目したら簡単だな。

 けれど、彼は彼女を見失ったと言うことを非常に確信したので自分のオフィスに引っ込んだ。

 うむ、そうだな、これで合っているはず。正解は。

 けれど、彼は彼女を失ったことを非常に確信していたのでオフィスに引っ込んでしまった。

 これはso thatがわかればたやすい。So A that は非常にAなので、がわかればたやすい。

 まあ、正解してよかった。

 ちなみに lost が loseの過去分詞で、他動詞で(人を)見失う。

 Go back が戻る、さかのぼる。家などに帰る、と言うときに使われる。

 Turn away が離れる、いなくなる。もしくは顔を背けるという意味でも使われる。ここではgo backとともに使われていて、彼女が見失ったことを、探すことを自然にしなくなり、離れて家に戻ると言う意味になるな。

 くいくい。

 僕は首を動かして肩をリラックスさせた。

 さ〜て、次行くか。

 そして、また僕は山に向かって一歩ずつ登山をしていった。山は険しく、どこまでも先が見えないように見えた。

 ………………………。



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