第8話友達としてなら
鳩がページを閉じる。閉じたとたんに小さな蟻(あり)達がまばらに角へと散らばっていく。
そしてここにもせわしなく動く蟻(あり)が一匹とびだしてきた。
「終わったー!ついについに終わったじぇー!これで遊ばなきゃ損だぜ!さあ!遊びに行こう!夜まで帰らないよ!」
高速で帰り支度をした美春が音速の速さで僕の席にやってきて、いきなり下卑た言葉をまき散らした。
いきなりやってきてこれか?
喧ましい(かまびすましい)ヌーの泥しぶきに僕自身は呆れ(あきれ)ていた。
それに僕の横の席にいたキャサリンも重たそうに振り返った。
「遊ぶって、どこでよ?瀬野なんかに遊ぶ場所なんてないし、岡山までは遠いし、赤磐に行くというの?」
それに美春は犬がお湯で洗われたあとのように活発に、しかしかなり図太いかわいさでに肯いた。
「うんうん!そうだよ!その通りだよ!なんか遊ばないと気が済まないの!なんか、遊ぼうよう!マルナカの中にある太鼓の達人でも良いし、カラオケでも良いから、とにかくあそぼ!」
美春は手を振りながら、待てができない子犬のようにわがままを図太さで爆発した。
うむ、そうだな。
「そう、美春は言ってるけど、光はどうする?」
いつの間にか僕達の方へ来た、光に話を振る。光はガラスの白のように素っ気なく立ち、クオーツ時計のように表情を変えずに、感情の色を表に出さずに言った。
「ああ、そうだな。俺も遊びたいな。せっかく授業も終わったし、どこかで遊んでもいいと思う」
その光の言葉にキャサリンもしぶしぶ納得のマリーゴールドを花開かせていた。まあ、それも悪くない。悪くないが。
「じゃあ、ちょっと、赤磐で太鼓の達人をして帰ろうか。もう受験の年だし、遊ぶ時間は短めにしよう」
僕がそういったら、みんなも少量の驚き(おどろき)のスパイスの風味が漂った。
「そうだな、もう受験のことを考えないとな。う〜ん、受験があるとはわかっているけど、しかし、まだ実感がわかん」
そう光が目を泳がせていると、キャサリンもその言葉に心の一部が同調するように肯いた。
「全く光の言うとおり。一樹の話もわかるけど、何となく、皮膚感覚でつかめないというか、そのことがわからないわ」
その岩の言葉に美春も肯いた。
「そうだね。受験のことも大切だよね。でも!今は遊ぼう!目一杯遊ぶぜ!」
美春は手を空に突き出して、目の中の星が瞬きだしていた。
その美春に僕はバカなんじゃないかと思った。そんないちいちささいなことで感情をあらわにする美春にたいして、ちょっと疑問を思っていた。
いちいちそんなことで盛り上がるなんて、どうかしてる。こう言う所で全くついていけれない。
そう僕は心の中で独りごちて、それでも黙っていた。
何となく友人の話に合わせられないときがある。その時々の話題や、自他のテンションで合わせるのがいやなときがある。
美春達と友人になって、これを初めて発見したときに僕自身は驚いた。これまでライトノベルや漫画の世界では友人との会話ははちゃめちゃな楽しい日々として書かれていて、こういう現実のしみれた側面を知らず、実際に遭遇したときにはほんとに驚いたが、しかし、現実はこんなもの。
親しい友人がいるからと言って毎日が明るくなるわけではなく、日常の緩慢(かんまん)な、しみれた汁がにじむだけ。
そういうテンションを上げまくってる美春が先頭で歩きながら僕達は固まって校舎を出た。そのあいだひたすらしゃべりまくっている、美春がうざかった。
「それでね!それでね!さっき発売された花梨(かりん)のアルバムを聴いていてさ、私すごく感動をしたんだよね!もう棒泣きだよ!もう失恋のある箇所(かしょ)で超泣いてしまったよ!ほんとよかったからリンちゃんも聞いてよ!それでさ、最近岡山駅に出たクレープ店スウィートドリーム、食べた!?あそこのチーズケーキパフェ、超美味しいよね?リンちゃん!もう私、3回も食べたよ!そのうちに一回目なんて、昼食の代わりに食べたんだから、もうめっちゃうまくて、感動のあまり生まれたことを感謝したんだから!是非とも食べてみて。あとさ、最近treeのガーディガンてさ、どう思う?私、あれ………………」
いつの間にかアーティストの話になってるし。そういうことをべらべらと特に美春が話しながら学校を出た。
美春はなんでも話す。そりゃあ、なんでも。キャサリンとファッションのことなんかでも話すけど、食べ物とか、季節の祭りとかそういう雑談を言葉の奔流(ほんりゅう)のごとき止めどなく話す。
美春とは政治のことなで話すけど、それはついていけれる。美春もまだおとなしいから。しかし、このおばはんモードになると僕自身ついていけれない。こんなバカみたいに話す人は自分には無理。そうしても良いけど、よそでやってくれ、僕は付き合いきれない、って感じだ。
赤磐のゲーム店についたら早速僕達は遊びを始めた。だが、ここはスーパーの中にゲームセンターがあって、ある物はギターフリーや、クレーンゲームと太鼓の達人ぐらいしかないのだ。全く品揃えが悪い。
そんな品揃えの悪い場所で、僕達は太鼓やギターを往復しつつ何とか遊びを発散させていた。個人的にはこう言うのは楽しめないが、美春の太鼓捌きはリアクションも動きもすごく、それを見ていて飽きないのがよかった。
いつもながらこいつの遊びに対する才能はすごいな。学力も相当だけど、遊びに関しては天才的ではないのか?実際に神がかっているし。
本気で遊び人としての未来が自然に想像できるからそれが怖いところなんだが。
そして、それに引き替え僕とキャサリンは太鼓のゲームは不得意で、こう言うのは全くだめだった。
だが、それも美春が明るく笑って、場を和ませた。まあこう言うのも良い。こう言うことなら友達としてならこれほど頼もしい人はいないな。
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