第6話「accIDENT」

 俺がなんでこんなことになっているか話そう。

 大丈夫。そんなに長くない話さ。

 よくある話だろ? 運悪く飛行機事故に巻き込まれて、瀕死の重傷を負った人が奇跡の生還を果たすなんてのはさ。

 ただ俺もそうだっただけ。それだけの話さ。

 生存者ゼロの大惨事として報道された事件だけど、死にかけの俺を、そこに駆け付けた人が助けたってだけのことなんだ。


 でも、それを命の恩人に説明されて、自分以外の同学年生や先生がみんな亡くなったなんて、にわかには信じられない。

 だから見せてもらった。その事件を。飛行機が墜落して、爆発して、そこに彼が駆けつけて、残骸の中から俺を助け出すところをその場で見てきたんだ。もちろん俺が手術を受けるところもね。彼には「それ」ができたから。

 だから俺は彼を信じることにした。

 彼のおかげで俺がまだこの世界にいられているのなら、俺はまずその恩返しをしなければならない。

 人間、大抵の人は命を助けられるとこういうことを思うんだなあって初めて実感したよ。

 とにかく、それが、俺がこうなっている理由だ。


 ただ、わからないことがあるとすれば……。

 俺の横に座っていた女の子が……その子の表情が、姿が、声が、名前が、どんな子だったかが…………それらがどうしても思い出せない。

 思い出せないんだ。


 だから、いつか俺が戻れたら、その時は……。


 夢の中で君に逢おう。



 僕が君を悪い夢から覚まさせてあげるから。





 ――なんて、ね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る