第1話「aWakenING」
目が覚めると、シグマになっている。
換気扇をつけたまま寝た時の振動音で目覚めたと思ったが、それは自分の周りを取り囲んでいる無数の機械の動作音だった。
周囲を確認するために首を動かすと、白い布切れが目に入って、
「アテンション・プリーズ!!!」
という爆音が鼓膜を破裂させた。
と書いたが破裂していなかった。当然だ。
「あ」
気づいたときにはいい時間だった。刻限を疾うに過ぎている。
(監督にどやされる! 急がないと!)
担架のような寝台から上半身だけを使って跳ね起きた。
そしてあらぬ方向を見やり、跪いて両腕を厳かに差し出して贈呈する。
「――それではためになる格言をどうぞ」
――人よ。死を恐るるなかれ。侮るなかれ。忘るなかれ。by 舞上戸
メメント・モリのパクリかな? それにしてもありきたりだし、意外性もないから面白くない。Pとだけ言っておこう。
――お前の人生が戯れにすぎなかったのなら、死はお前にとって真剣事であろう。だが、お前が真剣に生きたのなら、死はお前にとって一つの戯れであろう。by クレッチマン
深いね。いやそうでもないか。俺にはよくわかんないや。でも気になるのは、「真剣な戯れ」だった場合、どうなるのかってことだよね。
――眠い人が眠るように、瀕死の人は死を必要としているのです。抵抗が間違いで無駄だというときが、いずれきますよ。by サルバドール・ダリ
死にたい奴は死なせておけばいい。ただ重要なのは、死ぬ前にまず手を差し伸べることだ。
――あらゆる生あるものの目指すところは死である。by フロイト
何言ってんだこの人。当たり前だよね、そんなこと。……パンピーじゃ、偉人や天才の思考なんてわからないってことだね。
――死のうと思っていた。今年の正月、よそから着物一反もらった。お年玉としてである。着物の布地は麻であった。鼠色の細かい縞目が織り込まれていた。これは夏に着る着物であろう。夏まで生きていようと思った。by 太宰治
なんてネガティブなポジティブなんだ……! 自分でも何言ってるかわからなくなってきたよ……! 誰かに優しくされる……それでも、あなたの絶望は拭えなかったということですか? 先生。
――生きることは病であり、眠りはその緩和剤、死は根本治療。by ウェーバー
ならすぐに根治しよう。オペを開始する。……メス。………………。「先生……そこは心臓じゃなくて脳です…………今回は開頭の予定はなかったはずです……。それに先生は脳外科医ではなく心臓外科医のはずです……」「何を言っているのかね君は。心は心臓ではなく脳にあるのだぞ? そんなことも知らなかったのかね?」「……いえ、知ってますが……これは先生の手違いでは……」「――私は間違いを犯さない人間なのだよ! 君とは違ってね!」「…………」
――生きるべきか、死すべきか。それが問題だ。by シェイクスピア
生きるべきか、死すべきか? という問題なのか、それともその考え自体に疑問を呈しているのか。問題の意図がわからねえ。
――若いうちに自殺しなさい。そうすれば死を利用することができるでしょう。by ピエール・デプロージュ
あの人はいい人だったのに……ってそんな感じですか? それとも英雄になる的なアレですかね? ……そんなに生き急がなくてもいいんじゃないですか? →現代の病=ワールド・クインティプル・アクセル。
――ハンカチ――顔に関してさまざまの汚ならしい役割を果たすのに使われる絹またはリネンの小さな四角い布。特に葬儀の際に泣いていないことを隠すのに役立つ。by アンブローズ・ビアス
なんて頭のいい人なんだ……! 俺も今度の葬式の時にそれやろう!
――このお盆に生きている全部の人間は、単に今年度の生き残り分にすぎない。by 吉川英治
三国志の先生はバラッドの死神だったのか……。だからあんなに大勢の人間が死ぬ戦争モノが書けたんだ……。三国志の登場人物や、それを著した人の魂と会話して出来上がったからあんなに素晴らしいものになったんだな……。……目から逆鱗。
「このまま巻末までこれ続けてもいいんじゃない? でもそれじゃ別のジャンルになっちゃうか。いろいろ終わった後か、派生作品としてやってみるのがいいかな。それかなろうとかカクヨムで」
――未だ生を知らず、焉〈いず〉くんぞ死を知らん。by 孔子「論語」
かの大道徳家もわからないことはあったと。俺も人としての生き方はわかんないね。でも死のことならほんのちょっと知ってるかも~。……はいネタバレネタバレー。
――天国はすごくいいところらしい。だって、行った人が誰一人帰ってこないのだから。by 作者不明
……なん……だと……!? 天国でハーレムが作り放題だと!? そんなの俺も今すぐ行くっきゃねえ! 待ってろよケモミミロリに男の娘に、人外娘に擬人化娘!!!
……でも冷静に考えたら、それ、ただ帰って来れないだけじゃね?
――十年後にはきっと、せめて十年でいいからもどってやり直したいと思っているのだろう。今やり直せよ。未来を。十年後か、二十年後か、五十年後からもどってきたんだよ今。by 名無しなのに合格さん・生存戦略。(2ちゃんねるの掲示板より)
君たちはやり直さないように。未来を。……ん?
――死は人生の終末ではない。生涯の完成である。by ルター
続けて書くなら、「ただしその生涯が誇れるものか否かはオラ知らね」だな。
――命とは、セックスで感染した病気である。by ガイ・べラミイ
そうだね。人類みな病気だよね。どうしてこんな病気が蔓延してるんだろうね。でも事実は違ってね。女だけで永遠の生を享受していた星に、男という記憶を消された宇宙人がやって来て侵略したというのが事実なんだ。女はそのせいで男と同じ記憶喪失と定命になってしまったし、エイリアンである男の子供を産まなくてはいけなくなった。そういう意味では、命がセックスで感染した病気と言うのも強ち間違っていないかもしれないね。
――人は死ぬ瞬間までも、もしかしたら助かるかもしれないと空想し得る力を与えられている。by 武者小路実篤
ただし空想する力だけで、助かることはまずない。希望を与えておいて絶望に叩き落す……それが神様の常套手段です。たまに奇跡とか起こしたりするからなおさら質が悪い。
――人間は、みんなに愛されているうちに消えるのが一番だ。by 川端康成
消えると死ぬを混同してはいけない。小説家で例えるなら、売れている間に引退する方がいい、ということ。下手な作品を出して非難囂囂、家計も火の車で避難ゴウゴウ、となるより、見極めをして身を引くことが大切だという教え。
――死と太陽は直視することは不可能である。by ラ・ロシュフーコー
死(死人とか)も太陽も直視可能。
――虎は死して皮を残し、人は死して名を残す。保険に入っていれば金を残す。by 吉行淳之介
最後の現実主義なところがギャップがあって面白い。虎と人……動物と人間という見方だったのに、いきなり生命保険の話になっちゃうのがかわいい。
――幕を降ろせ、喜劇は終わった。by ラブレー
はーい、降ろしますよー! ということでこの本はこれでお仕舞。作者が腱鞘炎になったのでお休みします。ちなみにこの物語は喜劇でも悲劇でもなく悲喜劇でもない。言うなれば忌避劇、かもしれない。
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――生きることは、努力することである。
by Fuck'n author! ↑なに当たり前のこと言ってんだこいつ?
以上。Bye!
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