第52話 如月流
アテナシティ大統領室
『なぜだ!なぜどこも手を出さんのだ!こんな放送垂れ流して!ゼウスの大統領は悪魔か!』
『大統領、ゼウス上空にはシールドがございます故、空からの侵入も出来なければ、シティを囲む壁で地上からも、ネズミの入り込む隙間すらありません。』
『く・・・・・まて・・・・・ネズミ・・・・?そうか!おい、地下から侵入できないか調べろ!女の子に全てを託して国が指を加えて見ている等ありえん!共に戦おう!他の国にもそう伝えろ!』
少しづつ動き始めた。
世界配信されている如月たちの姿が、国を動かし始めたのだ。
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双方ともに構えたまま睨み合う。
ドン!!!!
外で爆発が起きたとの瞬間、止まった時が動き出した。
ドスドスドスと足音を荒げて接近するジャッカル。
上段の構えで、パッと見は突っ立った状態の如月。
『アーマーの左腕が無いのに突っ込んでくるなんて、体当たりか右パンチでしょうよ・・・・』
予想通り右のパンチをど真ん中に打ち込んできたジャッカル。
いなすと思いきや一歩踏み込んで懐に入り込み刃を当て、そのまま左へ斬り抜いた。
流石に厚い装甲に利かないようだが、ジャッカルの攻撃をインに入っては攻撃を当てて抜けるを繰り返した。
『お嬢ちゃん!すばしっこいのは良いけど、傷もついていないよ、続けるのかな?』
『黙れおっさん』
『口の減らないガキが!』
右の蹴りを真っすぐに見舞うジャッカル。
その前蹴りを右に身体を数センチずらして自ら突進。
もうその手は喰わぬとばかりに右の拳でフックを打つジャッカル。
まだ戻らない右前蹴りの下を潜り、一突き入れる如月。
『入った!』
そう言うと半回転程切先を回転させると、パワーアーマーのボディのプレートが1枚弾け飛んだ。
パキィイイイイン!
『ほほう!やりおったな如月め!あの隙間に切先を入れ込むのは至難の業、この回数でよくやったわい』
喜ぶ虎徹の声を聞き、パイロンが理解した。
『そうか、つなぎ目を狙ってたからギリギリまで引き付けて、自分から飛び込んでいたんだ・・・凄いな睦月・・・』
『プレートが飛んだだけだ、もともと未完成ですから構いませんよ、装甲の1枚や2枚・・・ふふ』
『次、腹に刺すよ』
『そう言われて刺されるわけがありません・・・よ!』
右の回し蹴りを放つジャッカル。
再度間合いを詰める如月。
しかし!【バシュゥ!】ジャッカルの右脹脛からエアーが噴き出し、蹴りの速度が一気に加速した!
『な!』
ズドン!!!!
とっさだったが如月は上腕で身体ごと受け、数メートル飛ばされた。
地面に一度バウンドしてゾンキーの山に突っ込んだ。
ゾンキーがクッションになるとは思わなかった如月。
思わず『サンキュ』と言い、動かないゾンキーの頭を撫でた。
『あの衝撃でも刀を離さぬか、根性あるのう・・・』
虎徹の側で立ち上がり、背中越しに
『あなたの魂、簡単に手放すわけにはいかない』と言い放ち、ゆっくりと如月はジャッカルの前に歩んで行った。
『加速とか小細工・・・やっぱダッセェな』
如月がジャッカルを見上げて一言浴びせた。
しかし、卑怯を手段の一つとしか思わない男に効くはずもなく、どこ吹く風でニヤニヤしている。
如月は刃を逆にして上段で構えた。
『如月流抜刀術 逆刃!』
一気に如月が正面から突っ込む!ジャッカルが右腕を立てて防御!と思わせておいての肘からエアーを噴き出して、
一気に加速した高速の右フックを繰り出してくる。直線に対してフックとは、外されたらボディががら空きだ、如月はサイドステップで避け、頭を下げてフックを潜り、肘関節に刀の背、棟(むね「峰(みね)とも言う」)と呼ばれる場所を凄いスピードでスパーーーン!と叩き落した。
そのままジャッカルはバックハンド気味に右ひじを戻して裏拳をぶつけてくるが、それも軽く潜り込んで手首に棟を落とす。続けざまに肩関節にも一発落とし込んでバックステップした。
『場合によっては棟の方が破壊に適している事もあるのよ。』
『金属をいくら叩いても金属だ、凹んでも居ないぞ』
『さっきボディのプレート剥されたのによくそゆこと言えるよね、私が狙って打ち込んだのは関節よ、カ・ン・セ・ツ』
ミシミシミシミシ・・・・・
『ま・・・待て、なんだ?なんだと言うんだ』
ガラン!ガラン!ガコン!
パワーアーマーの右腕が外れて、バラバラと崩れるように落ちた。
『居合抜きじゃないのか・・・なんだこれは・・・くっそ!女子高生に壊されるだとぉ・・・この私が・・・女子高生なんかに!!!!』
『あー違う違う、最強の女子高生ね、で?どうする?まだ脱がないのそれ、ボロボロじゃん、意味あんの?』
『貴様・・・・・』
虎徹が身体を起こし、壁にもたれかかって如月に声をかけた。
『如月よ、そいつは赤足と呼ばれた男でな、闘った相手の返り血でその足は赤く染まると言われていたヤツじゃ、むしろスーツを脱いでからが本番じゃ、気を付けろ』
『足癖の悪いおっさんってところか、脱ぐのそれ・・・脱ぐなら私も刀置くわよ・・・・』
一か所に集まった仲間たちが見守る。
『羽鐘よ、あの子めちゃくちゃ強ぇな』
チャッキーが羽鐘に声をかける。
『あの人・・・如月さんの強さは肉体的なものだけじゃなく、精神的な強さなんだよ・・・なんていうかその・・・・』
言葉を選んでいるとパイロンが隣に座り、
『スーパーポジティブ』・・・・・だよね。
『うん、そうそうそれです。』
『そうか、なんかお前らすげぇな、俺感動したわ』
『雑巾みたいな顔して何言ってんのチャッキー』
羽鐘が笑顔で突っ込む。
『喉は大丈夫か?サンプル作ったとは言え、やっぱり殺傷能力が低い気がするんだよ、お前の声はゼウスを救う、だから・・・なんとしてもあの大統領はぶっ潰さなきゃなんねぇ、もし・・・もし如月に何かあったら。。。。』
『ないから・・・・で、申し訳ございません』
パイロンはチャッキーの顔も見ずに言い切った。
『そうだな、信用してんだな、すげぇ、やっぱすげぇよお前ら、よし!俺も信じて見届けるわ。』
チャッキーは腹をくくったかのように、思い切りドン!と座った。
『ほんと、良いチームですわね・・・・』
神楽もこの戦いを見届ける事を改めて決めるのだった。
『まぁよかろう、ここまで来るのに障害物がじゃまだったから、
これに乗ってきたに過ぎない、ご希望のようですから脱ぎましょう』
『ごちゃごちゃうるさいよおっさん・・・弱い奴ほどよく惚れるってね』
『吠えるじゃ如月!』
シューーーーーーーーーーーーーーーーーー!
大量のエアーと共にロックが外れ、ジャッカルが下りてきた。
首を3回ほど左右に振ると、ゴキゴキと音が鳴った。
スーツのジャケットを脱ぎ捨て、ネクタイを外し、腕まくりをする。
指の関節をボキボキと鳴らすと、軽くステップを踏んだ。
『はい』
虎徹に刀を手渡すと、ジャッカルの前に立った如月。
たるんだソックスを左右、スッと上げ、手首に巻いていたヘアゴムでポニーテールをした。
低い姿勢で右脚を前にし、左構えを取る。
『赤足のジャッカル・ラー・・・参ります』
『如月流活殺術正統伝承者 如月睦月・・・いざ・・・』
まずはジャッカルの蹴りが如月に見舞われる。
構えは無く突っ立っているのに
ノーモーションで左右の蹴りが飛んでくる。
如月は丁寧に手で一発づつ払い落とす。
『構えていないから腰も入っていない、あの姿勢からこんな蹴りが打てるのは凄いけど、パワーは無いわね・・・』
そう心の中で分析すると、反撃にでた。
『如月流活殺術 睦月式狙撃銃 巳陸(みろく)!!!』
如月の放つ拳が、まるでジャッカルの蹴りを這う蛇のようにすり抜け、大腿部の内側、膝の裏を次々と突いて行く。
ジャッカルの蹴りも早いが、如月の曲がる突きはもっと早い。そこに如月の足を狙って蹴りが来る。軽く一発入ったところで如月は睦月式狙撃銃 巳陸を止めて下がる。
『あなた・・・武術に結構詳しいようね・・・』
『如月流活殺術は存じておりますよ、その裏、睦月式もね。巳陸はそのスピードを殺さず回転を加えるが故、腰から下が固定となる、言わば固定砲台ですからね・・・』
『私のオリジナルも知ってるって・・・・これは面白くなってきたわね・・・・』
『では行きますよ、少し私も本気を出していきましょうかね』
ガードを上げてリズムを取り、重くて速い蹴りをコツコツと当ててくる。脛を上げたりバックステップしたりで如月はかわしながら動きを見る。時折来るミドルキックを蹴りで打ち返す等、見た目は地味だが、技としてはレベルの高い駆け引きが行われていった。身長、リーチ共にジャッカルが上回っているので、このような堅実な戦い方をされては如月も不意には飛び込めなかった。
上から振り下ろされる打撃もしかり、重力も味方してその威力はそんなはずはないだろうと言う思いを遥かに上回る威力なのだった。如月の戦闘力も常人を超えているが、対等に戦える相手であれば、対格差は大きなハンデとなるわけで、ジャッカルはそれを知っている。だからこそのこのムエタイの試合の様な戦い方をわざとしているのだ。入ってこれない如月をイライラさせ、突っ込ませるつもりなのだろう、当然ながら如月もジャッカルの作戦には気が付いている。だからこそ行くに行けないのだ、つまりこれが間合い地獄。ボクシングの試合などで、分からぬ人々は『何やってんだ行けよ!』と声を荒げるが、行けないのだ、互いに行きたいのだが行けないのだ。この駆け引きがヒリヒリするほど身を焦がす。なんと如月の本心はこの状況を最高に楽しんでいるのだった。
『ん?お前はなぜ笑っている』
構えの下から笑顔を覗かせる如月を不審に思い、ジャッカルが問う。
『楽しいからだよ』
『・・・・・・・』
返す言葉もなくジャッカルがミドルキックを一発放った瞬間、肘を下げてガード後、直ぐに間合いを詰めてきた如月。
『如月流活殺術 睦月回転式拳銃(リボルバー)錦蛇(パイソン)』
ドドドドドドドドン!!!!!!!!
両手で一気にジャッカルの身体に六箇所、円を描くように拳を叩き込んだ!至近距離での腰を落とした渾身の連打が直撃する。とととと・・・と5歩ほど下がったジャッカル。
『ぐわっ・・・・貴様・・・・』
『なんだ、無敵じゃないじゃん、下がったじゃん』
血の混じった唾を吐き出すと、ジャッカルは構え直す。
『あれ・・・今度は構えるんだ、本気の本気みたいな?でも・・・させない!錦蛇(パイソン)』
もう一度錦蛇(パイソン)を打つ為に間合いを詰めるがジャッカルの左の回し蹴りが見えたので止まる如月、しかし一発目はフェイクで左が戻ると同時に右がもう来ていた。しかしそれもフェイクで下した右足を軸に回転し、左の後ろ蹴りが突き刺してきた。身を反ってそれを回避し、その戻りに合わせて攻撃を仕掛ける。
『如月流活殺術 睦月式散弾銃(ショットガン)日光(ニッコー)』
凄まじいスピードでジャッカルの足に両手拳を打ち放つ。
あまりの早さに一度にたくさんの拳を放り投げたかのように。
ガオン!!!!
それはまさにショットガンを撃ち込まれたような音だった。
あんなに拳を打ち放ったのに音は1度だけ。
衝撃で身体を回転させて両足をついて、大きく息を吐いたジャッカル。
『なんだよ・・・やっぱり卑怯者じゃねぇかよ・・・・』
如月が一言漏らすと、ジャッカルは笑いながら体勢を整えた。
『卑怯とかね・・・私には何も感じないんですよ・・・』
如月の拳から血が流れていた。
虎徹が見抜く『あやつの足も機械か・・・しかも武器仕込んでおるか、たちが悪い。』
『金属の足なのは良いよ、それがあなたの脚ならそれで。でも私は刀置いたのに自分は武器使うのずるいよね。』
ジャッカルの脚もまた金属だったが、その脚には数々の武器が仕込まれており、今も棘を出して如月の拳の直撃を防いだのだった。
『勝てば正義なのだよ、女子高生さん』
『言っただろ・・・・』
『あ?』
『最強の女子高生だって』
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