FLY Me to the MOON

第53話 阿修羅

如月の拳から血が滴り落ちる。

アニメ風に言えば・・・

『ピチョン・・・ピチョン・・・』と言ったところか。

軽くステップを踏んで足の棘を見せつけるように、３回ほどシャン！シャン！シャン！とズボンを突き破って鈍く光る棘の存在をアピールした。

『ふん・・・何が赤足じゃ・・・・』

『そうかね？試してみますか？』

ドン！

如月が地面を蹴り飛ばすようにダッシュするが、ジャッカルの目の前で止まり、左足を1/4の円を描くように、スッと左へ回し、直ぐに右も同じように1/4の円を描くように、つま先をやや外側に向けて置いた。

『睦月回転式拳銃（リボルバー）錦蛇（パイソン）』

『それは先ほど見たので当たりませんよ！』

そう言うとバックステップして身をひるがえした。

『甘いわね、睦月式【裏】』

『なにぃ！！！！裏が睦月式で、その裏とは！！！！』

リボルバー・パイソンの構えから拳の流れが一気に変わり、凄まじく低い姿勢で蛇のようにスルリと近寄った如月。

『睦月式・童捺（ドーナツ）の壱！螺子式打撃（クルーラー）』

地を這うような低い姿勢から身体を捻りながら伸びあがり、その拳もまた、ネジ釘の如く鋭く、そして捻りが加えられていた。とっさに身を反らせたジャッカルに対し、如月はその回転の余力から次の技へと繋ぐ。

『睦月式・童捺（ドーナツ）の弐！漆黒乃王（チョコレート）』

右肘に左手を添え、その衝撃を和らげつつ、右の拳に全体重を乗せて打ち込む突きを放つ!!!!!!ジャッカルは身を屈めつつ両手を前に突き出して受ける！しかし即座に如月の第弐波が来る！

『睦月式・童捺（ドーナツ）の参！漆黒乃雪姫（ココナツチョコレート）!!!!!!!』

打ち込んだ拳を開き、ジャッカルの手首を掴んで下にスッと下げた瞬間、右のハイキックを打ち、掴んだままのその手首をぐるりと捻ると、左ハイキック、舞い散る雪に喜ぶ子供の様にジャッカルはコントロールされ、体勢を崩されたまま数発の蹴りを頭に受けた。

『やめろうっとぉしい!!!!!!!!!!!』

手首を振り払った時、隙が出来たのを如月は見逃さなかった。

いや、むしろ漆黒乃雪姫によってその隙を生み出したのだった。

『睦月式・童捺（ドーナツ）の志！漆黒乃忍（ダブルチョコレート）』

構えは同じだが全体重の乗った右打撃が入った瞬間、右の肘を叩き込むと言う二段式の打撃だった。一段目はガードされたが二段目は一発目を受けた腕に、更にダメージを与える破壊の技。当然当たれば大きいが、むしろこの技はガードを破壊するための攻撃だった。ビリビリとした衝撃がジャッカルの身体を走る。

『女子高生のパワーとは思えない！腕が持たぬ！』

『おしゃべりなんかしてらんないわよ！睦月式・童捺（ドーナツ）の護！黄金乃仁王（ゴールデンチョコレート）』

タン!と跳んだ如月はジャッカルの膝を蹴り上がり、平手でジャッカルの頬を押し込むように凄まじい掌打を入れた。空中から体重を乗せた掌打はジャッカルを地面にねじ伏せた。その場に立つ如月の姿はまさに仁王。

チョコレート系三段攻撃を見事に当てた如月と、横たわるジャッカル。

『まだやる？』

ゆっくり立ち上がって、口から流れた血を吹くと、

『ドーナツ・・・笑わせる・・・が、喰らってみて全部覚えましたよ、知識がまた増えました。』

『懲りないおっさん』

それを見ていた虎徹が気づいた・・・・

『あやつ・・・わざと喰らって技を覚えたのかもしれぬ・・・』

ポツリと如月の頬にしずくが落ちた。

いつの間にか薄暗くなり、黒い雲に覆われていた空が泣き出した。

一気にすべてを洗い流すかのような激しい雨に変わる。

『行きますよ、最強の女子高生さん・・・』

ジャッ!!!!!!!

水しぶきを上げてジャッカルが飛び出す。

如月は腰を低く落として構える。

強烈なジャッカルの右回し蹴りを左腕で受け止め、瞬発力により刃物と化した肘打ちを打つ！紙一重で身をよじり、避けるジャッカルだったが、その動きのままあらぬ方向から蹴りが飛んできた。

かろうじて受けたが肩にダメージを負う如月。

『八極拳を使う女性は初めてですよ！』

右に蹴りを打ったはずのジャッカルの脚が、縦回転してまたもや如月の肩を狙う。如月の攻撃がことごとく避けられ、一撃を貰う。

『こいつ・・・八極拳を熟知してる・・・』

一気に踏み込んで両手で突くも、それを紙一重で避けながら、前に出て次の一撃を止めてくる・・・しかも死角から。

『死角？？？？？？？』

構えを変え、如月が試すように前蹴りからのブラジリアンキックを打つ・・・潜り込んだジャッカルが、低い姿勢なのに顔面を狙った蹴りが来た。サッを身をひるがえして如月が避けた。

『お前・・・脚が変!!!!!!!』

『なるほど！膝から下がアイツは360°回転可能なのじゃな!』

『おもちゃみたいっすねアイツの脚・・・くるくるって・・・』

『セオリーが通用しないじゃない、心配で申し訳ございません。』

『面白かったですよ、あなたの武術！私の引き出しが増えた事、心から感謝し・ま・す・・・・ヨォッ！』

ズドン!!!!!!!!!!!!!!!!

ジャッカルの正拳突き！しかし如月も応戦し、掌で受け止め左手を添えて右手で押し返す。パッと握った拳を離し、即間合いを詰めて打ち放つ！

『睦月回転式拳銃（リボルバー）錦蛇（パイソン）』

ドドドドドン！

同時に打ってくる6つの拳をジャッカルは地べたに這いつくばって潜り込む！『甘い！』如月が螺子式打撃（クルーラー）へと変化させ、這いつくばるジャッカルへと拳の流れを変える！その時ジャッカルはサソリの毒針が如く、左足を反り上げて如月の右肩を蹴った・・・いや・・・刺した。

ジャッカルのつま先から剣が出ていたのだった。

右肩を突き抜けた刃がスッと抜けた時、ジャッカルはニヤリと笑った。

よろめきながら後ずさりする如月から目を逸らさずに、ゆっくりと立ち上がるジャッカルはまだ笑っていた。

『卑怯な真似して、そんなに笑える？ほんまなんなんお前クッソやな』

『いやいや、申し訳ない、切り刻むか刺すか考えたら楽しくてね。』

『るせぇえええ変態オヤジがぁ！！！！睦月回転式拳銃（リボルバー）無法刑事（44オートマグナム）！』

如月の伸びる左ストレートが弾丸の様に発射される。恐ろしく速い突きだが、インパクトの瞬間に回転が加えられていので、その衝撃は身体を突き抜けると言う。ガオン！と音をあげてジャッカルの胸にぶち当たる！一歩下がるジャカルに続けざまに無法刑事が連続で打ち込まれる！

ガオン！ガオン！ガオン！

壁を背にしたジャッカルに如月は一気に勝負に出た！

『睦月速射砲 多銃身機関砲（アヴェンジャー）』

無数の拳がジャッカルを襲う！口では表現できないスピードで左右の拳が連続で繰り出され、しかも急所を的確に突いている。この速度でこれだけ正確に急所だけを連続で打ち抜くなど、到底考えられない事だった。

『驚いたな・・・百裂なんとかなんてよく見てきたが、これだけ恐ろしさを感じる連撃は見たことがない・・・』

虎徹も思わず目を見張った。

ジャッカルの身体が浮き上がって来るほどの拳の連打。

『睦月式・童捺（ドーナツ）の睦！獅子乃鬣（ポン・デ・リング）』

両手同時に突き出し、両の拳を時計回りに5回打ち抜いた。

その衝撃でスタジアムの壁にヒビが入る。

『もう一撃!!!!!睦月式・童捺（ドーナツ）の睦！獅子乃鬣（ポン・デ・リング）』

その時ジャッカルが笑った・・・打ち込まれる拳の隙間から右脚を打ち込み、如月の体制を崩す！

『一度見れば覚えると言ったでしょうがぁ！』

即体制を立て直す如月に蹴りを見舞う。

蹴り上げを止めた如月だったが、足が回転して上から打ってくる！

『くっ！』

またもや身体を斬られる如月。

雨で血が流れ落ち、如月の足元は血の水たまりができていた。

『いいですね!血の雨って感じですね！』

高速で蹴りを何発も放ってくるジャッカル。

その弾道は変幻自在、膝から下が回転するのだから予測すらできない。

止めようが弾こうが、直ぐに回転して斬りかかって来る。

全ての攻撃を受けつつも、徐々に切り傷が増えていく如月。

セーラー服はもう真っ赤に染まっていた。

『卑怯すぎるっす！えっと・・・総理大臣!!!』

『あの野郎・・・かと言ってデスボイスで何とかなる奴じゃねぇし、俺が行ったって役に立たねぇし・・・・』

苛立つチャッキーに対し、パイロンが声をかけた。

『睦月は・・・あの子は途中で手を出されるのを嫌うと思う。彼女がそれを許す時は・・・倒れた後だと思ってしまい・・・申し訳・・・・ございません・・・』

歯を食いしばり、涙を我慢して震えるパイロンを見て、チャッキーは、こいつらも我慢してんだなと悟った。助けに出る事は彼女のプライドを傷つける・・・いやそうじゃない。助けに出ることで皆殺しになる、だから自分が何とかする・・・そう考えてるんだな、あの白髪は・・・と理解した。そう理解したらやれることは１つだった。

『おい白髪ー！頑張れ！お前に託すわけじゃねーけどよ、なんかよ、勝ってほしいんだ！頑張れ！頑張ってくれ！』

そう叫んで見せた。その叫びが届いたかのように、息のある商店街の人たちも、必死で立ち上がり、声を張り上げた。

『睦月ちゃん！しっかり！』『がんばれ！』『やっちまえ！』

周囲の熱が高まり、如月にも気合がみなぎって来る。

『雑魚どもが・・・勝手に盛り上がってますね』

『ばーか・・・・大体雑魚雑魚簡単に口にするけどさ、雑魚ってさ、最高のダシが出るんだよ、高い魚も雑魚が居ないと美味しくなんねーっつーの！お前が言ってる雑魚が居てこそのゼウスだろ、雑魚を馬鹿にすんなやゴミが・・・・』

『調子に乗るんじゃありませんよ！』

またもや近距離での打ち合いになる２人。だが、如月の素手に対してジャッカルの脚は金属。その差は歴然だった、更に如月は身体のあちこちを斬られ、刺されている、出血による疲労は明らか。構えを取るが、心なしかフラついているように見える。それでもジャッカルの猛攻を凌ぎ、捌く。速くて重い蹴りが容赦なく打ち込まれる。如月が受ければ棘を出して傷つけ、避ければ回転して、つま先から出た切先で傷つける。これが本当の意味の『赤足』だった。組み合う度に傷が増え、出血が増す。どの技も一度出すとその対応策を瞬時に見出し、二度と喰らわなくなる。

『一撃で仕留めないと・・・・』

血まみれのその身体で如月が両足を広げ、構えを取った。

ジャッカルの蹴りを蹴りで弾き一瞬の隙を作った！

『如月流活殺術睦月式・童捺（ドーナツ）の七！熊手（ベアクロー）』

ガォオオオオン！！！！！！

両の手を合わせて渾身の力で打ち込んだ掌打がモロに

ジャッカルの腹部にめり込んだ・・・・。

『こ・・・・これって・・・・』

『やっと金属部分に達しましたか・・・・お見せしましょう』

そう言うとジャッカルは上着を脱ぎ捨てた。

そこには透けた体の奥底に機械が見えるボディがあった。

『このクリアボディは肌の質感とそっくりでね、よほどの衝撃じゃない限り、骨格である金属には届かない、だから気づかれないのですがね、よく届いたものです。』その説明の最中、透明のボディは肌色に変わって行った。

『もう、いいでしょう、最強の女子高生さん・・・』

折りたたんで収納してあったらしい新たな腕が肋骨の位置から２本ゆっくりと出てきた。続いて背中に収納されていたらしい新たな腕がゆっくりと…

『ラーの逆十字が崇拝するは神!!!!!阿修羅!!!!!!見ろこの姿を!!!!私こそが神!!!私こそが阿修羅なのだ!!!!』

『神に背く証が逆十字じゃねーの？なのに自らを神って、やっぱおっさん馬鹿だわ、あっはっは、こいつ馬鹿だわ！』羽鐘から野次が飛び、笑いが起こる。

『ならば私は神を超える神となろう!!!!!貴様らの反乱を捻り潰し、恐怖が支配する国を作るのだ！力こそ全てだ！わかったか小娘！』

『はぁ・・・・はぁ・・・だっさ・・・・だったら・・・・・だったら私は・・・・・・・神を超える神を超えるわ!!!!!!!!』