第49話 死者の群れ

『なんだこりゃ・・・・・』


モニターでスタジアムの様子を見ていたジャッカルが興味を持った。

『我々が開発できなかった寄生細菌の死滅・・・・なのか??

なんだ・・・何をした・・・・歌?・・・・声?。。。。。

馬鹿な・・・あー!あれか!あれだな!

人間が死滅させる周波数のなんとか。

・・・・・まて・・・・・

それを声で出せると言うのか?

・・・・まずいな・・・・・・・・・』

感染者を吹き飛ばしたのが声ではないかと考えたジャッカル。

ウロウロとモニターの前を歩き回り、ふと足を止めた。


『こいつらは邪魔だな・・・・』


そう呟くとゆっくりと歩きだした。


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Fly me to the moon

Let me play among the stars

Let me see what spring is like

On a-Jupiter and Mars

In other words, hold my hand

In other words, baby, kiss me


何事もなかったように如月が改めて歌い出す。

地獄のような、しかし神がかった状況に困惑する神楽を他所に、

ライヴは続いた。


『神とか簡単に言うのは大嫌いですけど・・・

この状況には神を感じますわね・・・』


続々と入り込んでくるゾンキー。

一度目の演奏が利いているのだろうか、その数は凄まじい。

あっという間にその数は数百を超えた。


二回目の羽鐘のデスボイスが解き放たれる。


次々と吹き飛ぶゾンキーだが、まるで波のように、

第三波、第四波と、順番を待つが如くゾンキーは押し寄せてきた。

当然ながら一度のデスボイスで数百体すべてが吹き飛ぶ訳ではない。

予想に反して何度も何度もデスボイスはぶっ放すこととなった。


『はぁはぁはぁ・・・・』


『大丈夫か羽鐘』


『まだまだ大丈夫っすよ・・・へへ・・・』

羽鐘は心配してくれた虎徹に親指を立てて、グー!をやって見せた。


『スティールちゃん!次っ!』

パイロンが声をかける!羽鐘がマイクを握りしめ、

一気にデスボイスを解き放った。


『ウボオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!』


一体何千人、何万人がゾンキーになったのだろうか、

もしかしたら街の人全てがゾンキーになったのだろうか。

そう思わずにはいられない程の数が次々とスタジアムに集まっていた。

吹き飛ばしては集まり、吹き飛ばしては集まりを繰り返し、

もう夕方になっていた、数時間に及ぶ死のライヴ。

集まりすぎてステージにしがみついたゾンキーを

倒し続ける神楽と虎徹にも疲労の色が見えてきた。

とはいえ、休憩するわけにもいかない。

休憩したら押し寄せるゾンキーの波によってステージは破壊される。

始めたが最後、終わるまで続けるしかない死のライヴだった。

分かっていたとは言え、凄まじい体力が必要で、

思っていたよりも遥かにキツく激しかった。


『睦月、休んで、私のドラムソロにする』


『オゲ!よろしく』

パイロンの呼びかけに応え、如月は三味線と歌を止め、

スポーツドリンクを一気に飲み干した。


『プハー!!!!たのしいね!!!!』


驚いたのは他の4人だった、キツい、苦しい、しんどい、

そんな台詞が出ると、誰もが思っていたのに楽しいとは。

『楽しい?』

神楽が如月に聞いた。

『うん、超楽しいじゃん、最高の最高って感じ。』

とびっきりの笑顔で如月は笑って答えた。


この笑顔に4人は励まされた。

この状況を楽しんでいると言うのだから、

ポジティブにもほどがあると言うものだ。

しかし、このポジティブさが如月の良さであり、強さであり、

皆の原動力でもあった。


『おなかすいたー!

友姫(ともき)のチャーシューメン食べたいー!』


『あ、如月さん友姫知ってるんですか?老舗のラーメン屋だけど、

新しい店に負けない味っすよねー、確かお孫さんの名前が友姫で、

今、その友姫さんが店主なんですって!かっこいいっすよね!』


『え?マジ?カッケェー!』


『スティールちゃん!前!』


『ボォオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!

ウルァアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!』


もう一発羽鐘のデスボイスが炸裂するが、

デスボイスは普通に歌う数倍も喉に負担がかかる為、

羽鐘も必死の形相で、首には血管が浮き出ており、

こめかみにも左右に1本ずつ太い血管が浮き出ていた。


『スティールは?まだ行ける?』

如月が声をかけるが、大丈夫と笑って見せる羽鐘の顔は

酸欠気味で、目が充血していた。

いや、充血ではない、力が入りすぎて眼球の毛細血管が

切れたようだった、目には血が溜まり、

今にも血の涙を流しそうだった。


如月は『無理じゃないか』と感じ、

『スティールを休ませる!できるだけデスボイスまでの

間隔を長くしましょ、いい?いいよね?

だからステージでの戦闘が少しキツくなるけど、

デスボイス休む代わりに、スティールが参加して、いい?

ダメとは言わせないし言わないで。』


『少々辛くなるじゃろうが、ワシらで羽鐘の喉を休めよう』


『そうでございますわね、私もやれるだけやってみますわね』


作戦を変更しつつ、ライヴは続行された。

パイロンのソロの間、どんどん集まるゾンキー。

ステージ周辺にも押し寄せてくるので如月も三味線を置き、

手作りした槍で、パイプで組み上げた柵の隙間から、

ゾンキーの頭を突き刺して応戦した。

如月が応戦していたら休んだことにならないのだが、

もう、それほどゾンキーの勢いは凄まじかったのだ。

もしかしたらヤバいんじゃないか?と言う気持ちが各々に芽生えたが、

如月の明るさでその芽は摘み取られる。

芽生えては摘み取られての繰り返しだが、1つ言える事は、

誰一人諦めては居ないと言う事だった。


入り口が大混雑しているのが虎徹の目に映る。


『細い入り口に濁流が一気に流れ込むチカラは強大だ、

持たないやもしれぬな』

入り口を見て虎徹がそう神楽に伝えた。

神楽は『まさかこんなに集まるとは思いませんでしたし、

入り口で詰まるなんて思ってもみませんでしたわ』


『作戦ってのはどれだけ考えても、その状況状況で変化するものぞ、

この状況をどう切り抜けるかがカギとなろう。』


『虎徹さん、何か考えがあるのですね!さすがですわ』


『ないけど作って置いた弓で少し遠くのゾンキーも倒せるかの』


そう言うと、金属を折り曲げて作った弓を構え、

棒の先に金属の矢じりを結び付けた矢を引いた・・・・・

『セイッ!』

ビヨヨヨヨヨヨ・・・・・・・


『弓、曲がってんじゃん!!!!』


『な、作戦とはこういうことじゃ、必ずその通りになるとは限らん。

分かったらパンツを見せてくれんかね』


『じじぃ!ちゃんとしないと殺しますからね!』


2人の漫才のようなやり取りの中、ついに入口が崩壊する。


バキバキバキ!!!!ズズズゥウウウウウウ・・・ンン。

崩れ落ちた入口はスタジアムの壁も一部破壊したのだった。


轟音と共になだれ込むゾンキーはまるでダムの決壊だった。

その押し寄せるパワーによって、どんどん入口の崩壊が広がる。


そしてスタジアムが満員となる、いや超満員だ。

どんなに人気のアーティストでもこれは出来ないだろうし、

過去にも居ない、いわばこのオキシダイズが初の偉業。

客層が全部ゾンキーなのも歴史に刻まれそうな珍事とも言える。


そのうめき声も臭いも強烈だった。


ここで一気に羽鐘がデスボイスで応戦する。

次々と破壊されるゾンキーだったが、羽鐘の声も擦れてきている。

死体の山にまた死体の山で、どんどん山が積み上がってくる。

『もう一回行くよーーーーーーーーーー!』

如月が声をかけ、オキシダイズのライヴが熱を帯びる!


ズッズッターンツタツッターーーン!

Fly me to the moon

Let me play among the stars

Let me see what spring is like

On a-Jupiter and Mars

In other words, hold my hand

In other words, baby, kiss me


『フライビーーーーーートゥザブゥウウウウウウウウウウウウ!

レットビィイイイイブレイアロオオオオオオオオオオオオオ!

ベイビーベイビーベイビーベイビーベイビベイビベイビ

キッスミィイイイイイイイイイイイイイイイイイ!!!!』


Fill my heart with song

And let me sing for ever more

You are all I long for

All I worship and adore

In other words, please be true

In other words, I love you


『ウィズソーング!!フォエバモォオオオオオオオアアアア!

ユー!ユーユーユーユーアイラーーーーーービュゥウウウ!』


Fill my heart with song

Let me sing for ever more

You are all I long for

All I worship and adore

In other words, please be true

In other words, in other words

I love you


『フライビフライビフライビフライビフライビフライビ

フライビトゥザムゥウウウウウウウウウウウウウウウウ!!

アイラービュゥウウウウウウアイラービュゥウウウウウウ

アイラービュゥウウウウウウアイラービュゥウウウウウウ

・・・・・ゲッホゲホッ・・・・・』


喉が切れて血が出た羽鐘が咽てしまった。

目からも血の涙が流れ、酸欠状態で呼吸音がヒューヒューしている。


ドパーーーーン!ドパーーーン!

次々にゾンキーは吹き飛ぶものの、それを押しのけまた次が来る。

何も状況は変わっていない、むしろゾンキーが押してきている。

押し返せない状況に追い詰められた5人。


如月が鉄の槍を握りしめて、目前に迫るゾンキーを倒し始めた。

刺しては突き飛ばし、刺しては突き飛ばす。

それでもゾンキーの波は止まらない。押しては返す状況ではなく、

どんどん押してくる。

虎徹も神楽も戦い始めた、パイロンはスネアドラムを置き、

羽鐘に肩を貸して退いた。

柵を越えて迫りくるゾンキーの大群!館内に逃げ込むしかないと

考えた瞬間、ステージの土台がゾンキーの波に押されて破壊され、

片側が崩れ落ちて全員滑り落ちた。


ズズズズズ・・・ズガァン!


すぐさま如月は起き上がり、

迫るゾンキーを次々と吹き飛ばしていった。

槍を落とした如月は素手だったが、拳を壊さないよう、

掌底打ちでゾンキーの顎を砕き、白虎双掌打で突き飛ばす。

そうやって少しづつ自分の周囲の空間を開けていった。

そこへ虎徹が応戦に入り、如月が掌低でカチ上げたゾンキーの顔に、

眉間を狙ってひと刺し!コンビネーションで確実に倒してゆく。

神楽も応戦するものの、3人対数万では押すだけでゾンキー有利。

後ろは壁、絶体絶命の5人。

ここで羽鐘が声を振り絞ってデスボイスを放つ。

数体は吹き飛ばせるものの、羽鐘の体力的にもう限界だった。

抱きかかえるパイロン、攻撃をやめようとしない如月。

虎徹も神楽も必死だ、人はこんなに必死になれるものかと思うほど、

必死に戦った。

如月がしゃべりだす。

『必死ってさ、必ず死ぬって書くじゃない?

でも死にたくないから必死に頑張るじゃない?

あれってさ、必ず死ぬんじゃなくって、

必殺技で死を与えろって事じゃない?』

そう言うと如月が構えた。

拳の握りを変え、フッ!と短く息を吐き出すと、

凄まじいスピードで拳を連続で放って行った。

それは一体一体確実に眉間を打ち抜かれていた、まるで狙撃手が

撃ち抜いたかのように正確に。

『あの連打であの正確さ、そしてあの構えと握り・・・

打つ速度も速いが、それより引きがもっと早い。

如月流活殺術がこの目で見れるとはな・・・

なんちゅう女子高生じゃ・・・はっはっは』

この状況で笑ってしまうほどの如月の往生際の悪さに

感心しつつも、如月の作ったチャンスを確実に広げようと、

斬って斬って斬りまくる虎徹。


神楽も槍で参加、1体1体を確実に仕留めていく。


だが、まだまだ押し寄せるゾンキーの波は留まるどころか、

更に大きな波となってスタジアムに押し寄せてきた。


『睦月!!!!!!』


パイロンが思わず声を張り上て如月に声をかけた!


『パイロン!もう無理や!羽鐘連れて館内に逃げぇ!

傾いたステージ登ったら行けるやろ!はよ行け!』


『睦月!いやぁ!そんなのダメ!』


『アホんだらぁ!皆やられることはないやろが!

虎徹も神楽も退け!ワシがくいとめている間に逃げぇ!』


『睦月!!!おめぇが諦めんなで申し訳ございません!』


『諦めじゃねぇよ!チャンス作るんだよ!

はよ行けやボンクラどもがぁーーーーーーーーー!!!』


『睦月ダメェエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!!!』


神楽が下がりパイロンを引っ張った。

『ミントさん・・・いあ、女王様!しっかりね!』


横では虎徹が刀で応戦を続けていた。

『ワシぁ老い先短い、ここで役に立てるなら本望じゃ。』


『良い覚悟じゃん虎徹!行くよ!』


2人は醜悪と狂気の大波に立ちふさがるのだった。

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