第7話 借り
「それは心強い申し出だが、国には何て報告する?」
朱伎は静かに尋ねた。
その気持ちはありがたいが、国への報告をどうするのかが重要だ。今回のことは彼らの国への報告次第では大問題に発展しかねない。疑う気はないが微妙な問題も絡んでくる可能性があるのだ。
そんな想いがあるが本来なら彼らを疑うような心配をしたくないと朱伎は心の中で苦笑した。
「下手に報告すれば問題になる。」
棗が真剣な表情で言った。
若くても四聖人だ。里に不利になる可能性があることを見逃すことはできない。
「俺たちが狙われたことにすればいい。俺たちも狙われる理由ならいくらでもあるし、それなら残る理由にもなる。俺らもあんたたちと揉める気はない。」
テンはまっすぐに朱伎を見つめた。
彼らが疑う気持ちはよく分かる。自分が彼らの立場なら間違いなく疑うだろう。
だが、この里と揉めることは望んでいない。それは自分たちの立場を悪くするだけだと知っている。
この里とはうまくやっていかなければならない。森羅の里は自分たちにとって重要な里だ。
「それはお前たちに不利だろう。」
朱伎は不思議そうに尋ねた。
それが彼らにとって不利となることは目に見えていて、その提案をする理由が分からなかった。
「裏はないから安心しろよ。」
「そんなことは構いませんよ。私は古いモノに造詣が深く多くの知識を持っています。何か親君いたてることがあると思いますよ。」
テンと須磨は笑った。
「それはありがたいが。崋山。どう思う?」
朱伎は隣の崋山に問いかけた。
彼らの言動を疑ってはいないが国としての意見は違ってくるかもしれない。残念なことに色々な権力が入ってくれば話は変わってくるのだ。自分の意見だけではなく四聖人の長としての意見を求めた。
「お二人の力を借りるべきかと。多くの知識が必要になるかもしれません。」
崋山は少し考えながら答えた。
この時、崋山の頭の中には朱伎は考えもしないだろう策が出来上がっていた。その必要があるかどうかは分からないが、いざというときには迷わず行動に出るだろうと考えていた。
「分かった。では、須磨。テン。2人の力を私に貸してほしい。」
朱伎は静かに言った。
頭首として頭を下げることはないが2人をまっすぐに見つめた。命令でもなく協力を求めた。
「御意。」
須磨とテンはその場に片膝をついて深く頭を下げた。
2人にとっての主ではないが、自分たちが尊敬を示し、忠誠を示すための礼だ。
ここにいる誰もが大きな不安を心に抱えていた。何か良くないことが起こり始めていることは確かだ。誰も口にはしないが、何かが起きると分かった。
これkら森羅の里は大きな波に飲まれていくことになる。
この時は誰も想像しないほど大きな波だった。
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