あいつは絶対俺を好き

くにすらのに

あいつは絶対俺を好き

 月見里やまなしさんは俺のことが好きだ。


 俺「が」月見里やまなしさん「を」好きなんじゃない。

 いや、ちょっと幼い顔つきに意外と主張の激しい胸元は嫌いじゃない。むしろ理想とも言えるけど。


 大事なのは、月見里やまなしさん「が」俺「を」好きということだ。


 なんでわかるかって?

 それは俺が年間100を超えるラブコメ作品を読む男だからだ。


 日村ひむら栄太えいた17歳。彼女いない歴17年。

告白をしたことも、されたこともない。恋愛経験は0でも俺の頭の中にはラブコメで培ったたくさんの疑似体験が存在する。


 だから俺はどんな些細なフラグも見落とさないし、相手の言葉が聞こえないフリもしない。


 それに今の俺は窓側の一番後ろという主人公席に座っている。

 対して月見里やまなしさんは教室の中央の席で多くのクラスメイトに囲まれていて、俺と月見里やまなしさんはまさに月とすっぽん。


 ラブコメってこういう格差から始まることが多い。

 ただ、スクールカーストに格差があるだけなら俺は何の期待もしない。


 月見里やまなしさんはあえて俺の方を向いて、その度に彼女と目が合うのだ。


 好意を抱いているけどどう伝えればいいかわからない。

 すごくモテそうなのに実は月見里やまなしさんも恋愛経験0なんだと思う。


 ラブコメで鍛えられた俺の直観がそう告げている。


***


 日村ひむらくんは絶対に私を好き。


 私「が」日村ひむらくん「を」ではない。

 彼「が」私「を」だ。


 後ろの席に座る由美に話しかけると必ずと言っていいほど教室の隅に座る日村ひむらくんと目が合う。

 なんとなく気まずくてサッと視線を逸らしてしまうけど、彼の反応は絶対に私に好意を抱いている。


 今までに付き合ってきた彼氏は気軽に私に声を掛けてきて、なんとなく流れで付き合ったけどすぐに別れてしまった。

 サッカー部のエースやら成績上位の秀才とか、別れる度に由美からはもったいないと言われる。


 学校生活で優秀だからと言って社会人になってからも優秀とは限らない。

 まあ大抵の場合は学生時代のカーストが社会に出てからも続くんだろうけど。


 だから私自身はそこまでもったいないとは思っていない。


 適当にいろんな人と付き合って、恋愛経験を積んだら直観で結婚相手を選ぶ。

 私の将来はきっとこんな感じになるんだと漠然と考えていた。


 日村ひむらくんは私に声を掛けるだろか。

 たぶんその可能性はない。

 よほど何か大きなきっかけでもない限りは。


***


「文化祭実行委員は月見里やまなしさんと日村ひむらくんになりました。この二人を筆頭に文化祭を楽しんでね」


 何がどうしてこうなったのか全然わからない。

 クラスの投票で文化祭実行委員に選ばれてしまった。


 人気者の月見里やまなしさんはまだわかる。だけど俺なんてクラスから忘れ去られていてもおかしくない。

 雑用を押し付ける時だけはしっかり存在を思い出しやがって。


 普段の俺ならこんな風に腐っていたと思う。

 でも、俺の相方は月見里やまなしさんだ。ラブコメなら絶対に二人の距離が縮まる絶好のチャンスである。


 月見里やまなしさんが俺のこと好き。

 もはやラブコメの神様が公認する事実だと言ってもいい。


「頑張ろうね日村ひむらくん」

「よ、よろしくね月見里やまなしさん(いつでも月見里やまなしさの気持ちを受け入れるよ)」


 文化祭が終わる頃には俺と月見里やまなしさんは恋人になっている。

 俺の直観がそう告げていた。


***


「頑張ろうね日村ひむらくん(文化祭がきっかけで……なんてことはないか)」

「よ、よろしくね月見里やまなしさん」


 初めてってことはたぶんないけど、あまりに接点がなさすぎてまるで初対面みたいだ。

 ほんの一言交わしただけで、たぶん日村ひむらくんと恋愛関係になることはないと私の直観が告げた。

 
















 結局、私の直観はあてにならなかった。

 あとから聞いた話だと、私が栄太えいたを好きだと思っていたらしい。


 今ならそれは正解なんだけどさ、全然話したこともないのになんで好きだなんて勘違いできたんだろう。


 まあ、それが直観ってやつなんだろな。

 ヴァージンロードを歩きながら、私は栄太えいたとの出会いを思い出していた。

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