現代病床雨月物語 第四十七話 「平岡君と由紀夫は心中した(その五)」
秋山 雪舟
第47話 「平岡君と由紀夫は心中した(その五)」
二〇二一年は、明治維新(一八六七年=慶応三年)から一五〇年以上が経過しました。明治維新翌年の正月三日【慶応四年一月三日(旧暦)新暦では一八六八年一月二十七日】から戦がはじまりました。薩摩藩討伐を名目に大坂より京都に攻め上がろうとした旧幕府軍と薩摩藩・長州藩を中心とする新政府軍が鳥羽・伏見で衝突しました。この戦いは「錦の御旗」を掲げた新政府軍が一日で勝利を治め翌日には旧幕府軍が敗走しました。これは多くの犠牲を払いながら「勤皇の志士」達が始めた運動が発展して初めて公式に勝利した戦でした。「勤皇の志士」達は初め脱藩浪士たちが運動の先頭を担っていました。彼らは徳川幕府から脱藩浪人・過激派浪人・尊攘派と言われ徳川幕府・新撰組の弾圧・抹殺の対象でした。
「勤皇の志士」達が血を流して樹立した明治政府は、その後急速に近代化を成し遂げついには徳川幕府開国時の不平等条約を日露戦争の勝利により撤廃したのです。また今から約一〇〇年前の一九二〇年一月に創設された国際連盟の四常任理事国の一国になるのです。他の三国は、英国・フランス・イタリアです。
しかしその後アメリカとの経済摩擦や昭和恐慌・世界恐慌により軍部が台頭していきます。陸軍や海軍は机上の想定戦争では一度も勝利をしていないアメリカとの戦争に突入していきます。結果は、日本の有史以来の大敗北でした。現実は「ポツダム宣言の受諾」という机上の想定戦争よりも悲惨な大敗北でした。なぜこの様な無謀な戦争が現実的になったのか。これが由紀夫を憤らせたことであり、「二・二六事件」の青年達への共感・同調・共鳴であります。
一九三六年(昭和十一年)の「二・二六事件」の跡始末で皇道派を一掃した統制派が軍の実権を握り日本は加速度的に戦争にのめり込んでいくのです。「勤皇の志士」達が血を流し明治維新を成し遂げ、それに引き続いて不平等条約撤廃に努力した先人達の偉大なる遺産が水泡に帰したのです。それも「二・二六事件」の「君側の奸」を取り除こうとした皇道派の青年達ではなく、その皇道派の青年達を抹殺した統制派が多くの人間の犠牲と共に維新の遺産をも無くしてしまったのです。由紀夫が戦後一貫して憤ったのはこの事だと確信しています。もし維新の志士達がタイムスリップして由紀夫の時代に登場すれば由紀夫や全学連と同じ行動をしたと思います。
話は変わりますがもし二〇二一年に由紀夫が生きていれば何をするのかと考えてしまいます。コロナ禍で世界の秩序やルールが大きく変わろうとしています。欧米の影響力が弱まりアジアの発展が続いています。この世界秩序を自分達の有利な社会に作り直そうとしている国があります。それは中国共産党が実権を握る中国です。現在の彼らの代表は、建国の父である毛沢東(マオ・ゾートン)もなしえなかった「台湾併合」のため国際秩序に果敢にチャレンジしてあらゆる方面で活動を活発にしています。私は、信教や思想の自由なき大国のわがままは嫌いです。彼らは香港人の自由を抹殺し一度も統治したこともない尖閣諸島に領海侵犯を繰り返しているのです。その核心は「台湾併合」です。
中国が武力で「台湾併合」を考えた場合に、中国軍の犠牲者を少なくするには中国の国境線と台湾の周りで妨害国を黙らせることになります。決して過去の朝鮮戦争のような犠牲者数をだす作戦では成功しないからです。朝鮮半島は「血の同盟」である北朝鮮が抑えてくれます。北朝鮮の核ではなく中国製の核を秘密裏に供与すればよいのです。また「台湾併合」の時に中国国境線で最も注意しなければならないのが中国に何時も服従しないベトナムの存在です。ベトナムの動きの抑えとしてポルポト派に代わる役目をミャンマーの軍部に担わせようとしています。中国は過去にカンボジアのポルポト派の後ろ盾でもありました。【カンボジアのポルポト派による粛清や強制労働などでカンボジア人約百万人が虐殺されています。ポルポト派は対外的には親中国路線をとり、親ソ連派に傾倒していたベトナムと衝突、一九七八年十二月にベトナムの侵攻によって首都を追われ勢力が衰え一九九八年四月にポルポトが死亡します。】
ミャンマーの軍部は過去に「核兵器開発疑惑」がありました。二〇一〇年六月に反軍事政権の亡命ビルマ人放送局「ビルマ民主の声」がミャンマー軍事政権は北朝鮮の協力で核兵器開発に着手した疑いがあると発表。二〇一〇年七月にはアメリカ国務省の報告書がミャンマーの核開発疑惑を明記しました。
三世紀の中国の『魏志』東夷伝の倭人の条で、卑弥呼(ヒミコ・ヒメコ)は「鬼道に仕え、妖をもって衆を惑わし」と当時の日本をひなびた野蛮な国として書き記しています。鬼道とは幻術・妖術であり妖(ヨウ)とはあやしい・なまめかしことをいいます。日本は文明国ではないと言っているのです。しかし現代の中国こそ人々の人権を無視して弾圧する鬼の道(鬼道)を突き進んでいます。
なぜ中国は人権問題に対して執拗に内政干渉だと言うのか、国民の間で人権問題が議論になり始めたら中国共産党の瓦解がはじまるからです。彼らは人の命=人権よりも中国共産党の存在が何よりも大切だからです。国連の進む道とは真逆の道であり国連常任理事国としての中国の本質です。
中国の暴力的な野望を防ぎ戦争防止をするためには、ビスマルクやビスマルクの将軍であった大モルトケのような戦略的で政治的・軍事的観点をもった指導的人物の登場が必要な時代になりました。もしも平岡君と由紀夫が心中しなくて生きていれば天才的な筆の力を発揮しているでしょう。自衛隊の青年や学生たちに化学反応を起こさせていることでしょう。
現代病床雨月物語 第四十七話 「平岡君と由紀夫は心中した(その五)」 秋山 雪舟 @kaku2018
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