この恋は今から始まる……のかもしれない話
あゆう
いつもと同じパターンで終わる恋だと思っていたのに
「あぁ〜〜うぅ〜〜っ!」
私は台所でやかんを火にかけたままで唸る。
どうしよう……。
助けてくれたのに逃げて来ちゃった。
「何も音沙汰ないし……きっと怒ってるよねぇ」
私、【瀬野 かなめ】は、つい先程までSNSで仲良くなった同じ趣味の仲間達とのオフ会に参加してきた。その帰りに、そのオフ会に参加していた【神威くん】っていう男の子に告白(って言うには強引過ぎてイヤだった!)と一緒に腕を掴まれてこわくて動けなくなった時に、主催者であり、私がちょっと……ほんのちょっとだけ気になってる通称ロリさんが助けてくれたの。
だけど、そのロリさんは私なんかより仲良くしてる他の女の子メンバーがいるのよ。それなのにわざわざ私を助けに来てくれたことがなんか無性にイヤで逃げてきちゃったってわけ。
いや、ほんとにね? 普通だったら喜ぶ所なのはわかってるのよ? 自分でもめんどくさい性格なのはわかってるんだけどね? こればっかりはどうしようもないっていうか……。みんなに優しいのはいいんだけど特別扱いされたい。けど、だからって他の人に冷たいっていうのも嫌で……って別に特別な関係でもないんだけど。いや、ほんとに私ってやっかいだわ。
ピーー!!
あ、お湯沸いた。
今日は夕飯を作るのも億劫で、田舎にいる親から届いたカップ麺にお湯を注ぎ、温めるだけのご飯をチンして皿に移すと、チャーハンふりかけをかけてテーブルに並べる。野菜もきらしていたから、変わりに紙パックの野菜ジュースも置いて五分待つ。だけど待ちきれなくて三分半くらいで蓋を開け、後入れスープを入れてから箸で混ぜると口に運んだ。
「……ちょっとかたいや。はぁ、まぁいっか。噛めば噛むほど満腹中枢が刺激されるって言うし」
ラーメンを食べてチャーハンを口に入れて野菜ジュースを飲む。最後に残ったラーメンのスープに白米を入れて残さず食べてご馳走様。外ではやらないけどね。
その後は使った食器を水の入ったボウルに入れて明日の私にお願いすると、部屋のテレビは付けないでスマホで適当な動画を流しながら買うだけ買って読んでなかった本を手に取る。
パラパラっとめくっては見るけど、イマイチ内容が頭に入ってこないから読むのをやめて今度はファッション誌に手を伸ばす。
その時、スマホの通知ランプが光ったのが見えた。
なんだろうかと思って、一度動画を止めてメールを開くと、ロリさんからのDMだった。
『サーバーを変更してみた! 今日はこっちに集合! 二次会といこうじゃないか!』
って。
私は少しビクビクしながら添付されていたURLをタップすると、それはいつも使ってるアプリの招待コード。確かにサーバー名は別の物になっていた。
二次会か……。ちょっと気まずいけど参加しないのもアレだよね……。さっきの事はあの子とロリさん以外は知らないんだもの。
私の直観が導き出した答え。これまでの経験則と会社の同僚が話してるのを聞いたりして出た答えは──
”これに参加しないと、さっきのオフ会で見切りをつけられた”
って思われる事。実際にはそうじゃなくて、例え別の理由があったとしても、何も知らない人はそう思う人が大半なのよ。少なくとも私の周りの人達は多いわね。「会った次の日から連絡が減った」とか、「知らない内に自分以外のメンバーだけで遊んでた」とか聞いた事あるもの。そんなの怖いじゃない! 私はビビりなのよっ!
という訳で招待を受けて新しいサーバーに入っていく。メンバーを見てみると、今はまだ私とロリさんしかいないみたいだった。ちょうど良かった。今のうちにさっきの事謝らないと。
「こんばんわ〜」
『お、カナちゃん入ってきたな』
「ひ、暇だったしね! 後……ロリさん、さっきはごめんなさい。助けてくれたのに逃げちゃって」
『いや、大丈夫大丈夫。ちなみに神威くんには俺からちゃんと言っておいたんだけど、ちゃんと反省してたみたいだ。で、後でちゃんと謝るって言ってたから聞いて上げてくれ。それにしても……初対面であんなにグイグイくるって事は、それだけカナちゃんに惹かれたんだろうな』
「うん。ありがと……って何言ってるの!? 違うって!」
『ん? そうか? ……いや、あまり話を蒸し返すのもあれだな。で、今日のオフ会はどうだったかね?』
……くぅ。優しい。くそぅ……。
それにしても今日の感想かぁ。ちょっとくらい探りを入れてもバレないよね?
「思ったより楽しかったよ! あんまり話せないかも? って思ってたけどそんな事なかったし。まぁ、ロリさんはピチピチの若い子に夢中だったみたいだけど〜? ……なーんて」
いやいやいや私っ! 「なーんて」って何よ!?
はぐらかす常套句じゃないの! バレてないよね? 大丈夫だよね!?
『確かにあの二人は可愛かったな!』
バレてはいないけどイラッとする。『は』って何よ。『二人は』って。別に自分のことをそんな可愛いとは言わないけどさ? それでももうちょっとこう……何かあってもいいんじゃないの?
『ただ……』
ん? ただ?
『あの子達の歳だと、自分の子供が可愛いって感覚に近いな。だからつい甘やかしてしまいそうになる。その点、カナちゃんは綺麗だったなぁ』
「なっ!? はぁ!? 何言ってんの? でもありがとね。まったく……お世辞だけは上手いんだから」
『お世辞じゃないんだがなぁ~』
頭の中ではため息をつきながらやれやれ、って言ってるようなイメージ。けど実際は髪を掴んでくしゃくしゃにしたり、目の前の雑誌を無駄にペラペラめくったりしてなんだか落ち着かない。
お酒を飲んでる訳でもないのに顔が少し熱い。
やばい。まさか自分でもこんなに照れるとは思わなかったんだけど!?
顔合わせてなくて良かった。ほんとに。こんなの見られたら意識してるのバレバレじゃん!
と、とりあえず話題変更しないと……。
「あ、そう言えば他のメンバーは? 全然入ってこないね?」
私はいかにもさっきの話題はもうおしまいとばかりに、声のトーンを戻していつも通りに話しかける。それなのに、帰ってきた答えのせいでもう平静を保つのは無理になってしまった。
『あぁ、あれは嘘だ。この招待URL送ったのもカナちゃんだけだしな』
「へっ?」
『さっきの事があったからな。心配になって他のメンバー抜きで愚痴か話だけでも聞けたらと思ったんだけど、大丈夫そうでよかった』
「んあっ! あっ……えと……」
ぜ、全然大丈夫じゃないんだけどっ!? ほとんど貴方のせいで!
あーもう好……きじゃないっ! 落ち着け私。今まで直感で衝動的に動いて良いことあった? ダメよ。ダメダメよ。少しは学びなさい。
ここはちゃんと自分の経験に基づいた直観で動かなきゃだめ。冷静に冷静に。ちゃんと今までの会話を思い出して対応するのよ……って、あれ? そう言えば……。
「ねぇ……。さっきさ? 今日来た女の子達の事を自分の子供みたいだって言ってたよね? 子供みたい、なら分かるけど、自分の子供みたいって?」
嫌な予感がする。今までの恋で何度か経験したことのある不安が頭に浮かぶ。
『あぁ言ってなかったか? 実は俺、子供がいるんだ。あっはっは!』
「あ、あはは。そうなんだ〜。まさかのパパさんだったのね〜」
笑ってるような声を出すのは簡単。
だけど……笑えない。笑えないよ……。
なんで私がいいなぁって思う人にはいつも他の人が……。
『まぁ、ホントはバツイチだけどな!』
…………へっ!?
この恋は今から始まる……のかもしれない話 あゆう @kujiayuu
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