天才と呼ばれる男

キザなRye

全編

真田捷さなだすぐる―学校の中では『天才』として名を轟かせている。

彼にどんな教科のテストをやらせても短時間で答えを出し、正解するという秀才なのだ。


彼は多くの人から尊敬され、そして愛されている。

勉強ができるのとは裏腹に見た目はとても愛らしくどこかの市のマスコットキャラクターにいてもおかしくないレベルだ。


彼の欠点は多くの人は知らないものの、運動が苦手で学校の体育ではどうにか面子メンツを保っているがビクビクした思いを抱えながら体育には臨んでいる。

『天才』と呼ばれる側は相当な苦労が強いられているのである。


何故彼はこんなにも問題が素早い時間で解けるのか、彼を知っている誰しもが思っていることだ。

その答えは明白だ。

『直観』だ。


つまり計算して、とかちゃんと覚えて、とか他の人がしているであろう普通の勉強など一度たりともせずにその場凌ぎの『直観』、言い換えるなら勘に頼っているのだ。


ここで一つの疑問が湧いてくる。

勉強はすべてを勘に頼り、運動は苦手な彼・真田は何ができるのか。

特技という特技を勉強に費やしているような人物にしか見えない彼から勉強を奪うと何が残るのか。


真田自身がそれを一番理解していると思う。

だからこそ一種の焦りがあると思う。

自分なりの、人から尊敬されるものを見いださなくてはならない、と。

事実と反することで尊敬されていることは彼の自尊心プライドに大きな傷を負わせているのは間違いない事実なのだ。


そんなある日、真田のクラスで一大事が起きてしまったのである。

移動教室から帰ってきた真田のクラスメイトが教室の窓ガラスが割れていることに気付いたのである。

しかも窓際には破損したガラスの欠片が点々と散らばっている。

次の授業さえできる状態ではない。

ここで先生が来てくれたらどうにかできたのかもしれないが先生が来る気配など全然なくて生徒だけで解決しなくてはならないような状況に陥ってしまっていた。


この状況をどうにかするために白羽の矢が立ったのが周りから尊敬されており学問にも長けている(とされている)真田だった。


彼はあくまでも勘だけでどうにかしてきたようなタイプの人間なので他のクラスメイトよりも思考力を含めて諸々が劣っているのでこういうときにどうこうできない。

でも時間は刻一刻と迫っている。


直観人間の真田は直観だけでガラスの欠片を一枚一枚拾い上げ始めた。

知識をちゃんと持ち合わせてもいないのでガラスの欠片で怪我することすらも知らない。

なので無造作にパッパッ、と拾い上げていく。


周りの人たちは“あの真田くんがこうやっているのだから大丈夫なのだろう”という思いで少し心配そうにしながらも彼の動きを見守っていた。


おおよそ全部を拾い上げた真田はそれらを邪魔にならないような教室の端に纏めて置いた。


真田がすべての作業を終えたときには拾ったガラスの欠片の一部が手に刺さってしまっていて大量とまでは言わないが、血を出していた。

拾っているときには夢中すぎてそんなことに気付いていなかったが、すべての作業を終えたときに真田が自分自身の手を見たときのショックというのは相当なものだっただろうと推測できる。


ちょうどそのタイミングに先生が入ってきて一連の窓ガラスの話を聞いて真田を心配した。

彼の手を見たときに案の定と言わんばかりの表情をして保健室に連れていった。

さすがに無茶しすぎだよ、という声が口々に聞こえてくる気がする。


この一件を境に真田捷が『天才』として扱われることはなくなった。

真田自身もより素が出せるようになっていて運動が苦手なことを意図的に隠そうとはしなくなっていた。

今頃、真田は仲良くなったクラスメイトたちと無邪気に遊んでいるだろう、本来彼がしたかったように。

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天才と呼ばれる男 キザなRye @yosukew1616

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