第18話 雨の高速
それでも、飛ばして飛ばして。雨の中を。
CR-XはFFなので、そんなに怖いこともなかったりする。
当時、流行りのCDチェンジャーは、ソニー。
ソニーって、なんとなくホンダに似合いそうなデザインで。
大きなアンプを、助手席の下にマジックテープで止めて。
それでも音を追求すると言う・・・ソニーらしいな、と思う感じで
気に入っていた。
そのCDに、デイブ・ブルーベックを入れてあった。
4ビートっぽいものを多く入れたのは、安田さんの年代なら、と思って
そうしたのだけれども。
当のご本人は今井美樹の方がお気に入りで。
「歌い方がいいね」とか。
そのCDは、ELFIN,と言う・・・一番売れたものかな?
野生の風、とか・・・入っているCDで
なんとなく夜の都会、高速・・・と言う雰囲気だ。
それを思うと、ちら、と靖子のことを思い浮かべるが
靖子はこの社員旅行には来ないと言う・・・まあ、この会社は
優しいので、そんなことで仕事に差し障ることはないのだけれど
みんな優しい、そういう会社なので
別に、行かない理由もなかったりする。
気位が高いわけでもなく、沈んでるわけでもないのだけど
なーんとなく、女の子だけでわいわい・・・と言う感じでもなかった。
有美子と二人でいたりするけれど、そんなに仲良し、と言うでもなく・・・。
どっちかと言うと、愛嬌のあるマサエちゃんの方が好ましいなぁと
思ってたりして。
・・・そんなことを思いながらCR-Xのハンドル、パーソナルの革巻きに
変えてあったそれを軽く、サイドスポークに指を掛けて
雨の東名を西に。
安田さんはかなりエライひとなんだけど、そういう人らしく・・・
穏やかで、威張ったりしない。親しみのある人。
だから、僕のクルマで一緒に・・・と言っても、全然嫌ではなかった。
自分の父よりぜんぜん、「お父さん」と言う感じ・・・なので
マサエちゃんは仲が良かった。
でも、それだけに靖子が参加しないのは、なんとなく不思議に思った。
こないだの土曜日研修にも来なかったし。もしかして
会社が嫌いなのかな?
なんて思ったりして(^^)。
好きはそれぞれ、嫌いもそれぞれ。
ちょっとしたきっかけだと思う。
そのきっかけが、無かった。
マサエちゃんとも、靖子とも、である。
無くて良かったな、と思うことも、ある(笑)。
もし、そうなれば・・・今も、サラリーマンで
おそらく、この90年代のように
平安無事な人生は送れて居なかったに、他ならないだろうから。
ハンドルを握っているCR-Xは、2台目。後期EF-7である。
SiRではなく、意図的にSiを選んだのは安かったのもあるし、軽かった。
それだけだ。後期はボディが重くなったので、それもある。
それで、キレ、コーナーリングがマイルドになってしまって
危険な感じが薄れた。
SiRは、と言うと・・前が重くなったし、前が割りと流れるように作られた。
試乗してみたけれど、あまり好ましくなかった。
VTECのたちあがりにあわせたのだろう。
また、そこに至るには聊かの経緯もあり・・・
1台目のCR-Xは、単に趣味で買ったのだけれども
2台目は、友人の趣味で買ってみたスカイラインR30
GTターボESと、アルトSS40V。
その、チューニングの事で意見が分かれたため。
・・・と言うか、友人は「共同所有」を主張したのだけれど
払うのは自賠責保険くらい(^^;と言う
ケチなハナシで。
僕は、別にチューニングをするつもりはなかったし・・・
彼の持っているエンジンを乗せる為にクルマを買った訳でもない。
ふつうにツアラーでいい、と思っていたが
そのうち、FRで操縦性も悪く、重く。
箱根でスピンして側溝に落ちてしまって。
でも頑丈なのは良かった。どこも問題は無かったのだが・・・。
やはり、でもCR-Xの、あの切れ味の鋭いコーナーリングが
懐かしくなり・・・・。
丁度、その頃自動車の物品税が廃止になり、消費税に統一された事で
それまで130万円だったCR-X Siが
本体のみで100万円で買えたので・・・。それを買った、と言うワケ。
1台目のCR-Xは真紅で、ミラノレッド、と言う
イタリアンのような色。
アルファ・ロメオかフェラーリ。そんなイメージで
可愛らしく、カッコよかった。
職場でもモテた(笑)。出勤するとき、若い女の子がにこにこ。挨拶したり。
16バルブ・サウンドも良かったのだろう。
案外にトルク型のエンジンであるのだが。
時々、他の課の女の子が「CR-X,乗ってるんでしょ?今朝、見ました」とか
にこにこ、話しかけてきたり。
割りと、クルマが女を口説く・・・ではないが(^^)
向こうからよって来る、そんな感じだった。
2台目は、割りと地味な赤のせいか(トリノレッドパール、と言うワインに近い赤)。
そういうことも無かった。
色って大事らしい。
そんなことを思いつつ・・・東名高速を100+くらいで走り
三ケ日インターで降りて。
道を間違えて。戻って。
でも、なんとかパーティーには間に合う時間。まだ、7時少し過ぎである。
ホテルは豪華で(後々、オリンピックの選手が泊まるくらいの部屋である)。
そこを貸切で、きょうはウチの会社の慰安旅行。である。
ゴールデンウィーク、の次の週・・・くらいだったろうか。
ふかふかの絨毯敷きの廊下をふわふわ。僕はスニーカーで歩いて。
もちろん、男女別だからマサエちゃんには会えない(^^;
本社の中山部長、森田課長にご挨拶。
部長は浴衣姿で、お風呂のあと、みたいな感じで
天皇陛下みたい。
課長はジャージの上下だったので僕は「マラソンの選手みたい」と言ったら
課長は金歯だして笑った。
タバコが好きなので、歯が茶色くなっている。
短く借り上げた髪、頭にはリキッド。
痩せていて。でも実直そうな感じの事務職、と言うか・・・。
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