頭の中に聞こえるあの音の名前

新吉

第1話

「ひらめいた!これいいんじゃない?」


 世の中変わった。そりゃ今までにだってそんな場面はいくつもあった。今世紀最大の変化、人類の進化。音が聞こえるのだ。まるでマンガのように。耳は進化した。正しくは耳が進化したわけではないけれど。自分の音がうるさくなったのだ。声も心音も、お腹の音も頭の中のひとりごとも全部聞こえる。もっと聞こえる。


 とある人は病院へ行った。心臓の音が変なんです、リズムがおかしくて、彼は病気だった。


 とある人はミュージシャンになった。いろんな曲をかいた。音があふれておかしくなりそうで、楽譜にすると落ち着くそうだ。


 とある人はお腹がすいた。自分のお腹の音が大きすぎてしりもちをついた。


 とある人はひらめいた。ひらめいた音が鳴ったのだ。そのことを研究した。研究は困難を極めた。オセロや将棋、問題集などを持ってきて実験した。今までの経験上擬音として想像していたものが、進化の影響で聞こえた気がした、それが実験の結果だった。彼女は諦めなかった。


 時は2111年、人間は感覚を研ぎ澄ませることに成功する。研究や実験を積み重ね、新人類は誕生した。彼らはまだ耳がいいだけだが、今後目がいいもの嗅覚が優れたもの、それら全てを持つものも生まれる予定だそうだ。世の中の変化だ。


 とある日から新人類にピアスが配られた。自分の音を聞きすぎると悪影響だという結果がでた。彼らはピアスで自分の聴力を調整する。それによりたいして旧人類と差はなくなってしまった。



 自分の声に耳を傾けすぎると、おかしくなる。


 自分の直観を信じただけだ。何が悪い。


 自分すらも信じられないの?


 どうして自分は変わらないんだ?変われないんだ?


 自問自答の末に待っているものはなんだ?



 直観には音がある。いろんな表現方法で今までも描かれてきた。一番多いのが擬音だろう、マンガで文字として大きさや字体を工夫して表現される。アニメでは変わった楽器が使われたこともある。頭の中に聞こえるあの音は、きっとその人それぞれだろうから、あえてここに擬音はかかない。


 そして人はその音とともに、ひらめき「ハッ」と息を飲んだり、喜んだり悲しんだり顔をあげたり、頭の上に電球を光らせたりする。もちろんマンガの表現だが、あながち間違ってもいない。まるで頭の中にスイッチをつけ明かりが灯ったかのように、浮かぶ。


 みんな耳をすましてみて、あなたの耳はあなたのことを聞き取ろうとしている。今までになかった変化がある際はこちらへ知らせてください。



 良薬口に苦し、苦くてもちゃんといい薬だと知っている。だけど薬が実は毒だって知ってる?飲みすぎちゃいけないよ。お酒と一緒。毒キノコはおいしいらしい、ほら私もくわしく知らない。チョコレートは口に甘し、味覚が進化したらみんな特売の惣菜なんか食べなくなっちゃうのかな?好き嫌いが増えるのかな?苦いものや酸っぱいものは食べられなくなっちゃうのかな?抹茶チョコ好きなんだけど。



 勝手に色々聞こえるようになったじゃねえか。人に聞こえやしないかヒヤヒヤしてるぜ。俺がこうして自分の音に怯えるのも、今までじゃ想像もつかなかった。俺は自分に自信があった。もう自信がない。どうしてだ?頭の中の俺がうるさいからだ。



 あなたもひらめいた音を聞いてみたくありませんか?擬音ではなく本当に頭の中に流れます。まるで電気のスイッチを押すように、明かりがつくように、ひらめきはあなたを変えるでしょう。発明家になった気分です。いいアイデアが浮かんだその時、その音はあなたは頭の中に聞こえます。

 そしてその音の正体に気がつきます。



 僕は気づいてしまった。この進化のほんとうに気がついた異端児。ひらめいてしまった。感受性が強すぎる人が増えたところでそれは進化ではない。僕はピアスを開発した。自分の耳にもつけた。これでもう安心だ。何でも過ぎてしまえばただの毒。人はバランスの上に成り立っている。むりやり立たされている。新人類と呼ばれた僕たちはこれからどうなるんだろう。



 世の中は変わった、いったいこれは何度目の変化なんだろう。変わると感じるのは前を知っているからだ。以前の姿を知っているからだ。前と違う、何かおかしい。違和感がある、はっきりと言えないがなんとなくおかしいのだ。

 そんな感覚にとらわれている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

頭の中に聞こえるあの音の名前 新吉 @bottiti

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説