これは直感? それとも直観?

タマゴあたま

これは直感? それとも直観?

(問)直感と直観のうち、「  」に当てはまるものを書きなさい。

(一)道に迷ったので「  」で進むことにした。

(二)息子の慌てる様子を見て、何か隠し事をしていると「  」した。

(三)エンジン音の違和感から故障していると「  」した。

(四)このプリンを食べると怒られると「  」でわかったが、食べてしまった。


 ――――――――――


「だー! もう! 意味わかんない! どっちでもいいじゃん! だいたいなんだよ、『プリン食べちゃった』って! 小学生かよ!」


 そう叫びながら髪の毛をぐしゃぐしゃとかき乱すユミ。わたしの親友だ。


「それ四つとも先生の最近の実話らしいよ。『奥さんに怒られた―』って。あーあ、髪がぼさぼさじゃん」

「先生の実話なの!? 先生何やってんの!」


 エキサイトしているユミをなだめつつ、わたしはユミの髪に櫛を通す。


「ユミの髪はさらさらで綺麗なんだからもっと丁寧に扱わなきゃ」

「だってイライラしてるんだもん。今度のテストでも赤点取ったらどうしよ。もう補習なんかしたくないっての」

「その赤点を回避するために勉強会してるんでしょ。もうひと頑張りだよ」

「アキはもう答えわかってるんでしょー。教えてよー」

「すぐに教えたら勉強会の意味がないでしょ。まずは辞書を引いてみて」

「アキのけちー」


 ぷにぷにしてる頬を膨らませながらもユミは素直に辞書を開く。


「えーと……。ちょっかん、ちょっかん……。あった。感じるほうのは『推理・考察などによるのでなく、感覚によって物事をとらえること』。観るほうのは『哲学で、推理を用いず、直接に対象をとらえること。また、その認識能力。直覚ちょっかく』。え? 哲学? 内容ほとんど一緒じゃん。何が違うの?」


 ユミが顔をしかめる。ユミの頭の上で『意味不明』の四文字がぐるぐると回ってそう。


「うーん。やっぱりそうなっちゃうか。じゃあ、私の答えを教えるから。それを見て違いを考えてみて」

「マジ? 答え教えてくれるの? やっぱり持つべきものは親友だねー!」

「調子いいんだから」


 さっきの表情とは打って変わって笑顔を見せるユミ。この笑顔がとても可愛いからずるい。


「で? 答えは? 早く早く」

「わかったから。(一)と(四)が感じるほうの。(二)と(三)が観るほうの。なんでそうなるか考えてみて」

「うん」


 ユミとプリントのにらめっこが始まった。首を右に左にひねったり、プリントと辞書を往復したり。


「わかった!」


 ユミが大きな声を出す。


「違いが分かった?」

「ふっふっふ。私は天才的な発見をしてしまったよ」

「ほうほう」

「かっこの後ろに『した』がついてれば観るほうの! ついてなかったら感じるほうの!」


 どうだと言わんばかりに胸をそらせるユミ。

 そんなユミを見て私はこめかみに手を当てる。


「何? その『呆れて何も言えない』みたいなしぐさは?」

「いや、ちょっとびっくりして」

「そうでしょ。すごい発見でしょ」

「確かにそういうパターンが多いけどね。うーん。じゃあ、これならどう? 『この男の人を良い人だと「ちょっかん」した。』」

「簡単だよ。直後に『した』がついてるから観るほうの!」

「残念。これは感じるほうの。感覚の話だから」

「えー! なんでー? 違いをはっきり説明してよー!」

「そう言われてもなあ……。うーん……」


 今度はわたしが首を右に左にひねる。

 ふと、あるアイデアが浮かんだ。これならユミを納得させられるかもしれない。

 でも、これ大丈夫かな? 一抹の不安がよぎるけど気にしない。たぶん大丈夫。


 わたしは深呼吸をして口を開く。


「ユミのおっぱいは大きいはず」



「へ? いきなり何言ってんの?」


 当然、ユミの頭の上に『意味不明』の四文字が再登場する。


「ごめんね。ユミ」

「何言ってるかさっぱりなん――」


 わたしはユミの言葉を聞かずにまっすぐ手を伸ばす。

 そしてユミのおっぱいをしっかりと掴む。あ、ほんとにおっきい。もしかして、わたしよりも大きい?


「何すんだよ!」


 その言葉と共にわたしの頭にユミの手刀が振り下ろされる。


「いくら友達だからって、やっていいことと悪いことくらいわかるだろ! も、もしかして私のことそういうふうに見てたのか!?」

「ごめんごめん。こうしたほうが理解しやすいかなって」

「何をだよ!」

よ。

「へ?」


 こほんと私は咳払いをする。


「まず、わたしが『ユミのおっぱいは大きいはず』って言ったよね」

「うん。言った。アキの頭がおかしくなったのかなって思った」

「これが感じるほうの――」

「か、感じてなんかないよ! 絶対に!」

「うん。『ユミのおっぱいは大きいはず』って感じてるのはわたしだからね。これが感じるほうの。感覚の話」


 ユミが変なことを言う。顔もなんか赤いし。まあ、あんなことされたらそうなるか。ごめんね。


「それで、次は実際にユミのおっぱいを触ったのね」

「うん。びっくりした」

「実際、大きかったわけだけど。これが観るほうの。直接、対象をとらえてるわけ。ニュアンスはちょっと違うけど。どう? 違いがイメージできた?」

「うん。それこそ身体に染み込むくらい理解できた」

「それなら良かった。ごめんね。いきなりあんなことして」

「いいよ。気にしてないし」


 よかった。大丈夫だった。


「でも、アキもちゃんと理解しないとねー」


 ユミの手がじわじわと近づいてくる。


「いや、わたしはきちんと理解してるから……」


 わたしは後ずさる。ユミの目が本気だ。


「問答無用―!」

「え? ほんとにやるの? ちょ、ちょっと待っ、きゃー!」


 ――――――――――


 期末テストの返却時に「『ちょっかん』の問題の正答率がとても低かった」と先生は嘆いていたけど、私とユミは満点だった。


 結果オーライ……?

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