女の勘

徳野壮一

第1話

 女の勘はよく当たる。

 そんなことを言う奴が私は嫌いだ。

 何故なら、女の勘が当たるなんて、そんなの真っ赤な嘘だからだ。

 女の私が言うのだから間違いない。

 もし女の勘がよく当たるのなら、私の勘が当たらない事をどう説明するつもりか。

 私は運命とか、運とか信じない。科学に基づいたものだけを信じている。

 きっと100人の女性の中に、1人勘が良い人が居るだけで、それをことさら世間が大騒ぎしているだけにちがいないか。女性全員が勘が鋭い訳ではないのだと、私は貧相な胸を張ってでも意気揚々と宣言する!


 私のクラスでは何故かジャンケンブームが到来中だ。クラスの至る所で、意味もなくジャンケンをしている。

 全く子供じゃあるまいし、何でそんなに盛り上がれるのだろうか。理解できない。

「紫桃さんもジャンケンやらない?」

 本を読んでいる私にもお構いなにし、佐藤さんが誘ってきた。

 佐藤さんはいつも私の気持ちを考えずに、グイグイ来るから苦手だ。

 私の答えは決まっている。

「やらない」

 と佐藤さんに一瞥もくれず私は言った。

「ええ、いいじゃんやろうよ。1番、勝った人にはUFOグミ一袋贈呈だよ!」

 UFOグミだと!?私の大好物だ。あの化学調味料の権化なのが最高なのだ。

 だがしかし、私は食べ物に釣られるほど子供ではない。

「べ、べべ、別にぃ!そんなのいらないし!勝手にやってれば!」

「あっ、わかった!紫桃さん、負けるのが怖いんだ」

 食べ物に釣られるほど私は子供ではない。しかし、挑発されて笑っていられるほど私は大人ではない。

「いいわ。そこまでいうのならジャンケンでも何でもやってあげる。ただし、負けても泣かないでね!」

 科学という人間の叡智結晶の力で目に物を見せてくれる!!



 佐藤さん、空井さん、斎さん、私の4人で総当たりを行うらしい。もちろん1番勝った人がUFOグミを手に入れることができる。

「紫桃さんよろしくね」

 私はまず空井さんとの対決だ。

「こちらこそ」

 空井さんは、おっとりとしていて、とても優しい雰囲気を纏っている女の子だ。勝負事には縁がない感じがする。

 ジャンケンにおいて初心者はグーを出しやすい傾向があることから考えると空井さんはグーを出す。というのは素人の考えだ。

「じゃあいくよ!最初はグー」

 佐藤さんがジャンケンのコールをし始めた。

 空井さんが、実は学年トップクラスの学力の持ち主だという情報を私は知っている。グーという手は何も考えない馬鹿が出しやすいのに比べ、チョキはグーとパーに比べ手が複雑で脳を使うのだ。空井さん程の知能の持ち主はチョキをだす。そしてチョキに負けないためには、勝ちのグーか引き分けのチョキをかの2択。そしてあいこの場合の戦略を私は持っている。ここは確実に行くためにチョキだ。

「ジャンケン」

 と、空井さんは、私が考えてくることも見越してくるに違いない。つまり裏をかいた空井さんはあえてグーを出す。私は裏の裏をかいて

 パーだ!

「ポン!」

 空井さんはの手はチョキだった。

「空井の勝利!」

「やった〜」

 斎さんは総当たりの組み合わせが書かれた紙に、記録する。

「…………」

まぁ、こんな事もある。純粋にジャンケンの勝率は三分の一だ。負けることもあるのが当然だ。今回の勝負で空井さんが、私が思っているより頭が悪いことがわかった。次の時はそれを考慮すれば勝利は間違いないだろう。

 それにまだ勝敗はわからない。後の2勝を手に入れれば何の問題もない。UFOグミはすぐそこだ。



 私の次の相手は斎さんだ。

 斎さんは長身で短髪、ボーイッシュな感じの人だ。2年生ながら強豪の女子バスケ部のスタメンに選ばれるほど運動が得意だ。

 先程は少し相手を過大評価かし過ぎて、深読みしてしまった。その反省を活かさなければいけない。科学の道を志す者として、一度の失敗で曲げてはいけない。試行錯誤だ。

「最初はグー!」

 運動が得意ということは、裏を返せば脳筋ということだ。彼女の見た目からも猪突猛進感が出ている。

「ジャンケン!」

 握り拳に勝利のイメージを持っている人は多い。恐らく彼女はストレートにグーでくる。ここは貪欲に勝利を狙いにいかなければいけない勝負どころ。つまり私が出す手は

 パーだ!

「ポン!」

 斎さんはチョキを出した。

「斎の勝利!」

「よっし。勘が当たった」

 無情にも空井さんは勝敗の結果を対戦表が書かれたノートに書く。


 まぁ、こういう事もある。

 UFOグミが手に入らないのは些か、僅かに、少し、残念ではあるが、もともと食べ物目当てでの参加ではないから全然問題ない。ノープロブレム。

 終わりよければ全て良し、だ。佐藤さんには勝って最後を勝利で飾ってみせる。

「ふふ。紫桃さん、あいこにすらならずに惨敗してるね。私にも負けて全敗になるんじゃない」

「は?何言ってんの。その髪のパーマみたいに頭の中もクルクルパーなんじゃないの?」

「紫桃さんが負けてくれたらUFOグミあげてもいいよ」

「寝言は寝てから言って」

 ジャンケンで1回目で負ける確率は3分の1。単純に考えれば3回連続1回目で負ける確率は27分の1だ。

「それじゃあいくよ!」

 準備はいいかと目で問う斎さんに、私と佐藤さんは頷いく。

 大丈夫。何回もその事象を繰り返したら確率に収束していくという、大数の法則が私にはついている。

「最初はグー!」

 それに佐藤さんは気づいてないだろうが、さっきの挑発合戦で私は『パー』という言葉を2回も含ませ、刷り込みをしている。卑怯とは言わせない。これも立派な戦略だ。しかも前2人の勝負でもパーを出した。何回もパーを出した私に対して佐藤さんはこう思っているはずだ。連続でパーは出さないだろうと。

故にパーを出すことによって相手の意表を突く!

「ジャンケン!」

 そう、全てはこの一勝をもぎ取るための布石。私の勘もパーで勝てると囁いている!

「ポン!」

 この勝負貰った!



 戦績。佐藤さん2勝1敗。

    空井さん2勝1敗。

    斎さん2勝1敗。

    紫桃さん0勝3敗。



「紫桃さんは1回目絶対パーだすよね」

 佐藤さんがチョキを出した後のセリフだ。


「えっ!?紫桃さん泣いてるの?」

「う、うるさい。泣いてなんかない!」

「紫桃さん、このハンカチ使って涙を拭いて」

「涙なんてでてない!これは……グス、汗だ!」

「やっぱり紫桃さんって可愛いよね」

「うっさい!どっか行けこのヘンテコパーマ!」

「ほらUFOグミあげるから、機嫌直して」


 女の勘はよく当たるというのはやっぱり嘘っぱちだ。

 私は勘なんて信じない。

 そしてジャンケンは公平だって言ってる奴も大嫌いだ。

 ジャンケンは公平なものではないと、私は胸を窄めて意気消沈と呟いた。


 最後に、UFOグミはやっぱり美味しかったです。

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