直観力が抜群な俺が直感チートな彼女に出会ったら。

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俺の直観は間違いない

 自分でも言うのもなんだが、俺は『直観』が鋭い。

 ここでポイントなのが『直感』ではなく、『直観』だということだ。


 つまり勘やシックスセンスといった非科学的なものではなく、自身の経験と知識からくるヒラメキ力が高いのだ。

 俺はこの才能を生かすため、探偵事務所に弟子入りする形で働き始めた。



「……レイコ先生、起きてくださいよ。せ~ん~せ~い~!!」

「むにゃ……もう終電かにゃあ……?」


 3階建てのビルの中にある東郷探偵事務所。

 その主であり、俺の師匠である東郷玲子先生はタイトスーツを着たまま事務所のソファーに寝転がっていた。

 メガネとストッキングなんてビール缶と一緒に床に落ちているし、胸元を広げたシャツからは紫色の下着がチラチラと見えてしまっていて、男の俺としては非常に目のやり場に困る。



 まったく、この人はいつもいつもこうなのだ。

 午後の暇な時間になるとソワソワし始め、目線が冷蔵庫と書類を行ったり来たり。

 3時のおやつの時間になればお客様用のお菓子をバリボリ食べながら「飲みたい~」と騒ぎだす。

 6時の就業時間も待ちきれず、結局5時から酒を飲みだす典型的なダメダメ人間が俺の師匠なのである。


「本当になんで俺はこの人に弟子入りしてしまったのだろう……?」


 俺は1年前までは警察官になろうと勉強していた。

 この能力を活かすには警察官になって難事件を解決し、凶悪犯を検挙し被害者を救うんだ!

 そう意気込んていたはずなのに……。


 俺がこのレイコ先生と出会ったのは、とある嵐の日の夕方だった。

 ある日俺がコンビニで週刊誌を立ち読みをしていたら、壁のガラス越しにスーツ姿の女性が目に入った。

 彼女は隣りでアルバイト情報誌を穴が開くほど真剣に眺めていて、普通の人なら「なんで会社員がアルバイト雑誌を?」と思ったところだろう。

 だけどまぁ俺ほどの直観力があればスグに分かったね。


「あぁ、残念な人過ぎて会社をクビになったんだな」って。


 ――今、俺の事を馬鹿にしただろう? でもコレ、マジだったんだぜ。


 どうやら彼女、『直感』が鋭すぎて会社の不正に気付いてしまい、それを告発しようとしたところを逆にハメられてクビになってしまったらしい。

 そしてこの直後、俺は彼女の『直感』の凄さを味わったんだ……。




「――貴方、そのポケットの中のナイフ。それは出さない方が賢明よ?」

「……えっ?」


 俺の隣に居た彼女は、俺たちの後ろを通ってレジに向かおうとしていた男性に唐突にそう話し掛けた。

 当然、そんなことを言われた男性は戸惑う。

 だが彼女はそんなことを気にも掛けず言葉を続けた。


「このコンビニ、いつもこの時間帯に私服警官が巡回に来るの。ホラ、あの角から歩いてくる2人組……見えるでしょ? それにここのレジの店員さん、彼女可愛い顔してるけど絶対に武道の経験者よ。だから止めておきなさ……って、行っちゃった」


 彼女が最後まで言い終わる前に、その男性は持っていた買い物かごを置いて傘も差さずにコンビニの外へ走って行ってしまった。

 どうやら本当に彼はナイフを持っていて、強盗でもするつもりだったらしい。


「ふぅ……まったく。こんなことをしてもお金になんてならないんだけどね……ん? どうかした?」

「えっ、あのっ……い、今のって……?」


 その後俺は彼女に興味が湧き、ファミレスでご飯を奢ることを条件に彼女からいろんな話を聞いたのだ。



 そして俺はこの素晴らしい自分の直観で閃いてしまったのだ。

 この能力を活かすのは起きてしまった事件を解決するのではなく、未然に防ぐことの方が人々の為になるんじゃないかって。


 そうして俺はレイコさんを先生とし、彼女を代表とした探偵事務所を開くことにした。


 ……まぁ、滅多にそんな大きな事件なんて起こらないし、せいぜい探し人や浮気調査がメインなんだけど。


「はぁ……もう、しっかりしてくださいよレイコ先生ぇ……」

「分かった、分かったから身体を揺するなって……ん?」


 無理やり起こしたレイコ先生が、何かに気付いたようだ。

 ニンマリとした表情になった先生は俺の顔に頭を寄せ、そっと耳元で囁いた。


「お前……服の乱れた私に欲情していたな?」

「……ッッ!!??」


 俺は思わずバッと先生から離れたが、彼女はずっとニヤついたままだ。


「お前も知っているだろうが、私の直感は外れたことが無いんだ。いい加減私のことが好きだと認める気にはならんのか?」



 妖艶な笑みで俺を挑発してくるレイコ先生。

 ――どうやら俺は、彼女の直感に対する言い訳をすることはそろそろ無理なようだ。俺の直観もそう言っているのだから間違いない。


「先生、俺は――」




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