第4話 ホワイトデーの苦労話を聞いてくれ

  母親たちは、お互いの子どもたちの事を良く話題にする。報告し合う。チクる。

 だから、隠し事は無理なんだよ、茂生しげお君……。


 「お姉ちゃん、茂生がチョコレートを貰ったの、知らなかったの? 」

 「知らないわ!今初めて聞いたわよ! 」

 「ええ? だって、葵が『僕も欲しいな』って言ったから、お姉ちゃんはチョコレートケーキを買ってあげたんでしょう? あの子がそう言ってたわよ? 」

 「葵が……ああ、そうねえ。そうだったわ。あの子がTVを見ながらそう言ってたのよ。CMでも見たのかと思って、じゃあ、みんなで食べましょ、って……まさかあれは茂生の事だったって言うの? 」

 「あらあ……もしかしたら、茂生は知られたくなかったのかしら……私ってば、余計な事言っちゃったの? 」


 松乃おばさんとママは、道理で俺たち四人がコソコソ話し合っていた様に見えたわけだ、と結論を出したそうだ。


 その頃は何回か、葵んちに行って相談していたからな……。四人そろって遊ぶのは久しぶりだったし。


 茂生君はあれからどうしたかな。葵は何にも言わないから、もしかしたら松乃おばさんが黙っていてくれた確率が高そうだ。

 本人に聞きたくても聞けないな。





 ママが三人の家を突きとめてくれた。ブツもだいたい決まった。後は放課後に配達するだけ。

 それでいい、それで終わり。と思っていた。



……甘かった。小四にしては、考えたほうだと思っていたのに!





 ホワイトデー当日は、学校から急いで帰ると用意しておいた荷物を持って、ママの車に飛び乗った。兄貴は自分ひとりで返しに行くらしい。

 近場だけど、始めて行くところは近いと思えない。不思議だな。


 辺りを見回して、本人や家族に出くわさないか、通りに人がいないか。

 なんだか、俺、悪い事をしようとしてないか? 気のせいか? そうだよな。お礼のプレゼントをポストに入れようとしているだけだよな……だけど、このむなしさは何だろ。


 お礼の品をクッキーに決めたのがまずかったかな……結構入れづらい。ポストに入れにくい。ああ、面倒くさい!早く見つからないうちに帰りたい……!


 「終わった……。たった三件の配達なのにな。」

 「良かったわね。喜んで下さると良いわね、その子たち」

 「うん……そうだね。有難う、ママ」

 俺は、その子たちがどう思おうと、どうでも良かった。その時は、その子たちがあまり好きではないから興味も関心もなかったのだ、と思っていた。


 まさか、全ての女の子に対して無関心だったとは……全く思いもしなかった。


 翌日、俺は晴れ晴れとした心で登校出来た。バレンタインデーからこっち一ヶ月は重かったんだな、と、過ぎてからわかる。バレンタインデーやホワイトデーが楽しい人の気が知れないよ。来年はもらえなくてもいいや。


 葵が待っているから早く帰ろう、と、カバンを持って教室を出た所で三人の女の子が廊下に並んで立っていた。


 見たことがある。ていうか、つい先日、集合写真で見た覚えが……。



 「杉崎君」

 その中の一人が俺を呼んだ。

 何だろう。もしかしなくても、この三人は三人だよな。 

 なんだなんだ? あれでは不満か? 文句でも言いに来たのか? と、ちょっと思ってしまった。

 

 「せぇーの……」

 「昨日はどうもありがとう! ごちそうさまでした!」

 三人がそろってお礼を言って、頭を下げた。

 う。目立つんだけど……。

 「……こっちこそ、有難う。チョコ、うまかった」

 俺もお礼を言いに行かなくちゃいけなかったのかな。


 いや、アレが精一杯だ。無理無理。

もういいかな、と、通り過ぎようとして、俺は三人にまた呼び止められた。


 「あのっ、あのね、杉崎君……」

 「え? 何? 」



 信じられない。ここは廊下だ。

まだ生徒がチラホラ見える廊下だぞ?


 それなのに、そこで、俺は、俺は……三人の中で、誰が一番好きか? を聞かれたんだ。


 え? え? 好きか? 好き、って誰が誰を? まさか俺が……?


 困った。

 三人とも、バレンタインデーが来るまでは顔も思い出せなかったって言うのに。名前だって見たことあるな、くらいで。


 それを……三人の中で誰が一番好きか、だって? 

 どうしよう。なんて答えればいい?

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