テクロ・ミーツ・ガール

梶野カメムシ

Work 1




 小学四年生から、学校に行けなくなった。

 原因は中学生の不良たちに狙われたこと。毎日つきまとわれて、蹴られたり、おこづかいを取られた。恐くてランドセルを持てなくなった。きっかけはそれ。

 それから三年。

 ぼくは一歩も部屋から出ることなく、毎日アニメやゲームをして過ごしてる。トイレだけは行くけど。

 楽しいけど、本当には楽しくない。終わった後、画面に映る自分を見るとげんなりする。現実のおまえはこうだぞって、画面の中の自分に笑われたみたいで。

 父さんも母さんも引きこもるぼくにうるさく言わない。でもずっと心配してる。それくらいぼくにだってわかる。

 けど、扉を開けるのはこわい。もう不良とか関係ない。

 外に出ると考えただけで足がすくんで動けなくなる。

 まるで呪われたみたいに。


 ある日、ぼくの部屋に大きなダンボールが届いた。

 通販にしては大きすぎる。ぼくが丸ごと入りそうなサイズだ。

 不思議に思いながらとりあえず開けてみると、出てきたのはロボットだった。

 大きさはぼくくらい。人間そっくりでけっこうイケメンだ。なんでロボットかわかったかというと、背中にコンセントがあったから。多分充電用のやつだろう。

 当たり前だけど、こんなの買った覚えはない。

 箱には他にVRゲームみたいなゴーグルとコントローラー、それにゲーム機みたいな本体が入ってた。

 それに手紙が一枚。ぼくの名前の後に、まずセットアップして欲しいって書いてある。説明はそこでするって。

 怪しい気もしたけど、好奇心をくすぐられた。

 とりあえずゲーム機を立ち上げ、ゴーグルを被ってみる。

 3Dの視界の中に文字が浮かび上がる。こういうの、ARっていうんだっけ。

 文字は、ゲームのタイトルでもチュートリアルでもない。

 知らない誰かから届いたメッセージだった。


???:『初めまして。私はサトウです』

ぼく:『はじめまして』


 ネットゲームはしてるけど、誰かとやりとりしたことなんてない。 

 おそるおそる文字を打つぼくに、謎のサトウさんはすらすらと話しかけてくる。

 サトウさんは、ロボの送り主だった。

 長くて難しい名前の会社の新商品。人型テレワークロボ、通称『テクロ』のモニターをしてほしいらしい。

 部屋からロボを操縦だけだから、ぼくにもできる。バイト代もくれるそうだ。

 少し考えたけど、ぼくは引き受けることにした。

 ゲームには慣れてるし、ロボを動かすなんて面白そうだ。外に出るのは恐いけど、出るのはテクロでぼくじゃない。それにお金を稼げたら、きっと母さんも安心する。

 テストプレイは明日から。

 その日はARの説明書を読んだり、部屋でテクロを動かしたりして過ごした。

 明日が待ち遠しいと思うのは、久しぶりだった。

 


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