赦し
ホタルは、正直気があまり進まなかったが、ヒカルの母親にアドバイスされた通り、母親と話してみることにした。
「お母さん、体調はどう?」
ホタルは、他にどう母親に話しかけたら良いのか、わからなかった。
ホタルが声をかけられ、母親は驚いたようで、少し間を置いてから、
「…なんとか。」
とあまり手応えのない答え方をした。
ホタルが次の言葉を探していると、母親が突然言った。
「あなたは、私を酷いと思っているでしょう?」
ホタルは、どう答えたら良いのか分からずに、気まずそうに黙り込んだ。
すると、母親が続けた。
「私は、ずっと、自分は、浮気なんかしないと思っていた。浮気をする人が嫌いだった。でもね…ひとりぼっちの夜は、とてつもなく寂しいものなのよ。」
「え?」とホタルが訊くと、母親は、話し続けた。
「人の温もりというものを知る前は、別によかったけどね。人の温もりを一度知ると、味をしめて、求めるようになる。
寂しいと思っても、すぐに浮気に踏み切ったわけではないよ。英介とは、何度も歩みかけて、話し合おうとしたし、友人と出掛けてみたり趣味に没頭してみたりもしたが、英介は私の気持ちに寄り添って理解するどころか、面倒くさい女と思ったのか鼻であしらわれた。何週間も、私を放ったらかしにして家に帰らない時もあったのよ!
だから、浮気をした。もちろん、一回だけのつもりだった。その一回だけのつもりで会った時にあなたを授かって、英介にバレた。英介は、激怒したが、もう2度としないと泣いて謝ったらすぐに赦してくれた。
でも、自分の子供ではない子供がいる家に帰るのは気が進まなかったのか、ますます帰って来なくなった。あなたが小さい時は、あなたと遊ぶことに夢中で、ほとんど寂しさを感じなくなったが、あなたはどんどん成長して、私を必要としなくなって行った。浮気をした時に、英介との間に出来てしまった確執も深刻なままで、向き合って話し合う時間も取れなければ、夫婦の問題を解決することもできなかった。
耐えようとしたけど、誰にでも限界はあるの。人間は、孤立して生きるものじゃないから、しょうがないの…裏切ったのは、悪いだろうけど、私も歩みかけようとする度に、鼻であしらわれ、裏切られて来たから…私だけが悪い訳じゃないの。私だって、夫婦で仲睦まじく過ごしたかった…それが出来なかったのは、きっと、私だけの責任じゃない…。」
母親が涙目でホタルに訴えるように自分の境遇を打ち明けた。
ホタルは、母親の話を聞いていると、なぜか、母親に対して抱いていた怒りや恨みの気持ちが鎮まっていくのを感じた。理解出来るとまでは行かなくても、赦せるような気がして来た。
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