第48話 黒い虫 その1

 穏やかな天気の日曜日。

 私は朝からシーツを洗い、布団と洗濯を干す。


(ふう、これでお終い!)

(後は、お姉ちゃんの掃除を手伝うか…)


 今日は私が洗濯で、お姉ちゃんが部屋の掃除。

 役割分担はに固定化されている訳でない。

『トントン♪』と階段を下りていき、掃除機を掛けているお姉ちゃんの方に向かう。


「お姉ちゃん。部屋の掃除の方はどう?」


「あっ、恵那!」

「後、少しで終わるよ。残りは風呂とトイレね!」


「そう!」

「なら私は、お風呂掃除してこようか?」


「そうね…。でも、先に少し休憩しようか?」


「休憩?」

「うん、良いよ! なら、お茶の用意をしてくるね!」


「恵那。お願いね!」


 私はお茶の用意をするために、台所に向かう。


(今日は少し暑いし、冷たい方が良いかな…?)


 お茶の事を考えながら……ふっと、台所の隣に有る、洗面台の方を何気なく見ると、床の隅に大きくて黒い物が有った。


(あれ…?)

(さっき、洗面台に行った時には、あんな物無かったのに……)


 お茶の用意の前に、それを確認するために“ゆっくり”近づくと、その大きな物体は、先から触覚が伸びており、その触覚がワサワサ動いていた!?


「うあ、ゴキだ!」

「それも、すごく大きい!!」


 私は思わず声を出してしまった。

 声を出してしまったため、逃げ出すかと思ったゴキブリは逃げ出さずに、そのまま其所に留まっている。


(これは、お姉ちゃんに退治して貰わなくちゃ!)


 ゆっくり洗面台の戸を閉め、私は逃げ出すようにお姉ちゃんの方に向かった。


「お姉ちゃん! お姉ちゃん!!」

「洗面台に大きいゴキが出た!」


「えっ!?」

「……ゴキブリ!!」


 ゴキブリと聞いた瞬間、掃除機のホースを持ったまま、身を引き出すお姉ちゃん!!

 お姉ちゃんもゴキブリは苦手の感じだ。


「うん。すごく大きいの。お姉ちゃん、退治して!!」


 するとお姉ちゃんは、少しはにかんだ表情をしながら……


「えっと、お姉ちゃん……ゴキブリさん駄目なんだわ///」

「……恵那は、虫好きでしょ…?」


 お姉ちゃんは遠回しに、私に退治しろと言う!


「私、全然、好きじゃない!」

「早く、退治してよ、お姉ちゃん! ゴキブリ逃げちゃうよ!」


「『逃げちゃうよ』と言われても、本当に駄目なんだよ。お姉ちゃん…」

「恵那、あなたが退治してくれない?」


「私だって、あんな大きいゴキブリ退治するのやだよ!」


「恵那……そんなに大きいの?」


「うん!」

「私が見た中では一番大きい!」


「げっ…!!」

「そんなのお姉ちゃんだって、ますます退治なんてしたくないやい!!」


 ゴキブリで押し問答する姉妹。

 その間にも、ゴキブリが逃げるかも知れないのに。


「恵那…。もう、逃げちゃったかも知れないよゴキブリ」

「あれから大分時間経っているでしょ?」


 ゴキブリは逃げ出した前提にし始めた、お姉ちゃん!!


「お姉ちゃん!」

「あんな大きいの逃げようが無いよ!」

「だって、私の親指より大きいんだよ!!」


 私は、親指を“ぐぃ”と見せる。

 すると、お姉ちゃんは観念したらしく。


「うぅ……。そんな大きいの、家の中で飼うのは恐すぎるわね…」

「……2人で退治しましょ!」


「えっ、2人。私も!?」


「そうよ。恵那もだよ。家族でしょ!」


「わっ、分かったよ…。じゃあ、早く退治しに行こう……」


「じゃあ、恵那は殺虫剤持ってきて!」

「お姉ちゃんは、何か叩ける物を探してくるから!!」


「うん……」


 私の家に突如現れたゴキブリは、お姉ちゃんだけでの退治で無く、私も強制参加させられた。

 この家をゴキブリハウスにはしたくないし、食べ物もかじられるから、どうしても退治はしなくては成らなかった……

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