第41話 すき焼き大戦争 その1

 すっかり、木枯らしが吹く季節になった。

 まだ、初雪までとは行かないが、鍋物が美味しい季節になった。

 冬は暖かい食べ物が恋しい!


 ある日の夜。


 晩ご飯も食べ終わり、後片付けも済んだ夜の時間。

 私はリビングでテレビを見ていると、お姉ちゃんが慌てふためながらリビングに入ってきた!? 何が起きたのだ?


「恵那、恵那。大変よ!!」


「お姉ちゃん、一体、どうしたの?」

「そんなに慌てて……」


「当たったのよ! 懸賞が!!」


「懸賞…?」


 お姉ちゃんが慌てていた理由は、懸賞が当たったからか。

 私もお姉ちゃんも“くじ”運は良い方では無い。


「あっ、恵那には言ってなかったか!」

「ネットで応募できる懸賞が有って、それに応募したら当選メールが来たのよ!」

「凄いでしょ! 恵那!!」


「うん! 凄いね!!」

「それで、何が当たったの? 何かの家電製品?」


「残念。家電製品では無いわ!」

「何と、お肉が当たったのよ!」

「それも、国産黒毛和牛、すき焼き用のお肉よ!!」


「おぉ! すき焼きのお肉!!」

「家電製品より、お肉の方が良いね♪」


「でしょ、恵那!」

「高級すき焼きが食べられるよ!♪」


 私は驚きながら、嬉しそうに言う。

 お姉ちゃんも、懸賞が当たった事とお肉の事で喜んでいた。

 そろそろ鍋物が食べたいなと思った時に、すき焼きの話が来ると、思わず口元が緩んでしまう。


「ねぇ、ねぇ、お姉ちゃん何時来るの?」

「すき焼き用お肉!!」


 私は木華ちゃん見たいに、はしゃぎ声でたずねる。


「お肉自体は1週間位で来るのだけど、少し問題が有るのよね…」


 お姉ちゃんは少し顔を“しかめながら”言う。


「どんな問題…?」

「もしかして、何か商品を買えとか…!」


「それは問題無いわ。何時も使っているWebサイトの懸賞だし」

「お肉は変な条件無しで来るわ。只、ちょっとお肉の量が多いのよね……」


 お姉ちゃんによると当選した、すき焼き用牛肉は500㌘有るらしく、2人で食べきるのはどう考えても無理だ。

 私は『小分けして保存したら!』と、お姉ちゃんに言ってみたのだけど『高級お肉を家庭用冷凍庫で劣化させるのも、気が引けるのよね…』と言って却下された。

 そして、お姉ちゃんの取った行動は……


 ☆


 無事にお肉が届いた、その週の週末……


 私は何時もの時間より早く、夕食の準備に取り掛かっている。

 今日の晩ご飯は、待ちに待ったすき焼き!

 国産黒毛和牛さんで有る。

 すき焼きは食べる直前に調理するので、白菜等の野菜を切ったり、お椀の用意をする位だが……


 回想……


「えっ、音羽ちゃん達を招待する!?」

「……本気で言っているの、お姉ちゃん」


「そうよ、恵那!」

「みんなで食べれば、お肉はその日で全部食べきれるでしょ!」


「でっ、でも、お肉が当たったのはお姉ちゃんだから、お姉ちゃんの友達を呼べば良いんじゃないの?」


 お肉が当選したのはお姉ちゃんだから、私の友達を呼ぶのでは無く、お姉ちゃんの友達を呼ぶのが普通だと思ったからだ。


「う~ん、恵那」

「そうしたいのは山々だけど、私の友達みんな家から遠いのよね」

「それに、この前の動物園の時、みんなで持ち寄って食べましょうの話覚えている?」


「うん、覚えているよ。お姉ちゃん!」


「ちょっと、変わるけど、恵那の友達と鍋を突くのも悪くないかな~と、思ってみたの」

「どうだろ、恵那…?」


「……ありがとう、お姉ちゃん…。私と私の友達を大切に思っていてくれて…」


「恵那…」


「……」


 私は何か急に、お姉ちゃんに抱きつきたいなと感じた。


「ねえ、お姉ちゃん。抱きついても良いかな?///」


「えっ!?」

「……うん、良いわよ。おいで!」


 お姉ちゃんは、手招きをしてくれる。

 私はゆっくり近づき、お姉ちゃんの体に顔をうずめる。


 お姉ちゃんの匂い……お母さんの匂いに少し似ていた。

 すごく、暖かく良い匂い。お母さんの温もりを久しぶりに受け取った感じがした。


「じゃあ、それで決まりね。恵那!」


「うん。ありがとう……お姉ちゃん」


 ……


 今思えば良く、あんな恥ずかしい事したなと思う。

 お姉ちゃんがお母さん(保護者)代わりで有る事は変わりないけど、あの時は少しどうかしていたと思う。

 良く、あんな恥ずかしい事をしたもんだ!!


 台所で、すき焼きの準備をしていると玄関のチャイムが鳴る。

 時間的に音羽ちゃん達が来たのであろう。

 私は元気よく、玄関に向かって行った。

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