第17話 おいで、おいで
ふと、目を覚まし、周りを見渡すと隣ではテュファネが寝ています。
あの黒いモノが再び戻ってこないか警戒していましたが、いつの間にか眠ってしまっていたようです。
何事もなくて安心しましたが、次から気をつけないといけませんね。
「テュファネ、起きてください」
私がテュファネの肩を揺らすと彼女は眠そうに唸り、目を擦りながら起きました。
「ふぁ〜、おはよう」
「はい、おはようございます」
私達は食事を取りながら今後の予定を考えることにしました。
私達が今いるのは43と44階層の中間、あの黒いモノに警戒しつつあと6階層を突破しなければなりません。
「あと6階層とはいえ、なかなか難易度が高いですね…」
「何日あれば攻略できるんだろうね?」
食料や武器は問題ありませんが、何日も警戒し続けなければならないとなれば精神的に辛いところではあります。
「地道に進んでいくしか無いんだけどねぇ…」
「今回確実に攻略しなければならないというわけではないので最悪の場合、一時撤退も視野に入れましょうか」
無理に進んで命を落とす、なんて冗談でも聞きたくありませんからね。
それにあの黒いモノにだけは絶対に遭遇したくありません、正直怖いので。
だってあんなに真っ黒なんですよ、しかもあの気配は普通じゃありません、確実に良く無いモノです。
「じゃあ、一階層づつゆっくり攻略しますか」
「了解!じゃあやって行こうか!」
ーーーーー
44階層へ降りた私たちが見た光景は、なんとも不気味なものでした。
木々は43階層とは比べものにならないぐらい形が歪み、色も黒っぽい感じです。
まさに魔女が住んでいそうな森と言いましょうか。
「いや〜、気味悪いなこりゃ」
ほんとに幽霊とか出てきそうな雰囲気しかしていません。
別に幽霊が怖いわけでは無いですよ、ほんとですよ、物理的に攻撃できない相手が苦手なだけです。
「怖かったら頼ってくれてもいいんだよ〜」
テュファネが両手を広げニヤニヤしています。
なんとなく腹が立ったのでテュファネのおでこにデコピンを喰らわせます。
「あたっ!」
「ふざけてないで、ほら何か来ますよ」
「分かってますよっと」
私達が油断していると思ったのでしょうか、遠巻きにこちらの様子を伺っていた気配が近づいてきていました。
テュファネはいつの間にか取り出した弓を気配のする方へ放ちます。
「キャウン!」
見事にテュファネの放った矢は飛び出した狼のような魔物の脳天を穿ちました。
倒れた狼に近づき、弓を回収すると狼に首輪がつけられていました。
「こりゃ飼われてるね、っていうことは…」
「そういうことですね」
どうやらこの階層には知能のあるタイプの魔物があるようです。
と言う事は、非常に厄介な事になりますね…
知能のあるタイプ、しかも猟犬持ちとなるとこちらの休む暇を与えず、継続的に攻撃を行い、疲れたところを…という事になりかねません。
それに加えて召喚系の精霊術をしてこようものならキリがありません。
どうするかと考えていると、どこからか鈴の音が近づいてきます。
「へへへ…殺したね…ワタシの可愛い子を…」
声のする方を見ると顔色が悪く、鈴のついた杖を持った老婆が笑いながらこちらを見ていました。
狼に囲まれて歩いていることや発言からして敵の親玉で間違いありません。
自ら前に出てくれるとはありがたい、この隙に…
「ふっ!」
私は鞄から3本のナイフを取り出し、即座に老婆へ向けて投げました。
老婆はナイフが命中する直前、老婆は初めからそこにいなかったかのように消え、代わりに周りにいた狼に命中しました。
「ちっ、逃げられましたね、倒せたら楽だったのですが」
「まあ、早々に倒せる相手じゃなさそうだったし、仕方ないね、次頑張ろう」
逃げられてしまった以上、どこに隠れても狼に探知されるでしょうし、長期戦は覚悟せねばなりません。
面倒この上ないですが…
「索敵、任せてもいいですか?私あまり得意ではないので」
「分かった!じゃあちょっと見てくるね!」
「あ、これも持っていってください」
私はテュファネにある物を渡します。
それを受け取ったテュファネはなるほど、とニヤリと笑って軽やかに木の上に飛び乗り、そのまま木を伝って調査へ出かけて行きました。
相変わらずの速度ですね、少し羨ましいです。
「さて、その間に私は雑魚の相手でもしますかね」
私は剣を抜いて周囲に群がって来ていた狼の掃討作業を開始します。
「それではワンちゃんたち、遊んであげます、おいでおいで〜」
ちょいちょいと笑顔で手を招くと周りを取り囲んでいたうちの一匹が馬鹿にされたと感じるたのか、怒りながらこちらに飛びついてきます。
狼の攻撃を避け、すれ違いざまに剣を振り狼を真っ二つに切り裂きます。
対して強い感じはしませんね、強さ的には30階層ぐらいの魔物ですかね。
これならいくら相手にしようとも問題はありません。
「さあ次、来なさい」
テュファネがあの老婆を見つけるまでどれくらいかかりますかね。
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