第14話 なにが目的ですか…!

「うぅ…気分悪い…」

「だから後悔すると言ったのに…」


 予想通り、というよりいつも通りテュファネは二日酔いで寝込むことになりました。

 

「宴会が楽しいのは分かりますが、程々にしないといけないといつも言っているでしょう?」

「頭痛い…説教やめてぇ…」


 テュファネは布団を顔まで被り、再び眠りに着きます。

 まあ今日は予定もありませんから、別に構わないのですが。


「仕方ないですね…」


 水でも買いに行って、あとはおかゆも作っておきましょうか。

 苦しそうに唸っているテュファネの頭を撫で、回復魔法を使います。

 二日酔いに対しては頭痛を和らげるぐらいの効果しかありませんが多少はマシになるでしょう。


「大人しくしていてくださいね」


 私は外着に着替え、部屋を出て、宿屋の主人に挨拶をし、露店に向かいます。

 露店は多くの人で賑わい、早くしないと品物が売り切れてしまいそうです。


「あ、アルちゃん!こっちこっち」


 露店の裏手から店のおばちゃんが手招きをしてきました。

 あの人はこの店の店主の奥さんでいつもお世話になっています。


「テューちゃんどうせ二日酔いでしょ?これ取っといたから持ってきな!」


 テュファネがダンジョンから帰ってきて宴会が始まると確実に二日酔いになっているので、私が買いに来ると思い取っていてくれたようです。


「いいんですか?ありがとうございます!」

「お得意様にはサービスしないとね」

「いつも助かります」


 「いいのよ!」と元気よく笑う露店のおばちゃんからおかゆに必要な材料を貰います。

 次来る時はたくさん買って帰りましょう。

 私は露店を後にし、その他の買い物を進めました。

 この街はダンジョンを中心とした街で、さまざまな国から人や物資が集まります。

 中には珍しいものもあり、ついつい買い過ぎてしまうことも。


「これで、あらかた買いましたね…」


 やはり魔法鞄があると楽ですね、大量の買い物も鞄一つで解決です。

 この鞄を複製して売ったら儲かるだろうと一度作成しましたが、劣化品しか作れませんでした。


「さて、帰りま…っ!」


 ふと、人混みの中から視線を感じました。

 私はとりあえず、何かあったとき人を巻き込まず応戦できるよう、人気のない路地裏に入ります。

 しばらく進み、振り向きます。


「何かご用ですか?」


 私が問いかけると、影から男が女が分からない、黒いフードをかぶった人が現れました。


「私と共に来てもらおう…」

「お断りです」

 

 こんな怪しい人についていくわけがありません。


「そうか、なら仕方ない…」


 黒フードは懐から短剣を取り出しました、やはり武力行使に出ますか…

 私も剣を抜き、構えます。

 黒フードが地面を蹴り、一瞬で距離を詰められ、振り下ろされる短剣を私は半身で躱し、剣を黒フードに向けて振ります。


「なっ…!」


 完全に仕留めるつもりで振った剣は空を切り、黒フードの姿は目の前から忽然と消えます。

 次の瞬間、背後から気配を感じ、振り向きざまに剣で短剣を防ぎ、火花が散ります。


「なにが目的ですか…!」


 短剣を弾いて、一旦距離を取ります。


「果実を食べただろ、なら分かるはずだ…」


 果実…?もしかして2年前に食べた精霊の果実のことを言っているのでしょうか?


「果実に選ばれたのなら、我々の元に来る資格がある…」


 黒フードは腕を捲り、腕に刻まれた鷹の紋章を見せてきます。

 この紋章、見覚えがあります、確か…


「最重要手配組織『影』ですか」

「そうだ」

「残念ながら私は、犯罪組織に入るつもりなど毛頭ありませんよ」


 果実と彼らの組織に何の関係があるのかは知りませんが、わざわざ犯罪組織などに入るわけありません。

 ん?何か黒フードがプルプルと震えています。


「我々は犯罪組織などではない!世界の為に戦っている!」


 ビリビリと空気が揺れ、黒フードの影から見える、怒気を孕んだ瞳に気圧されます。

 

「貴様には、無理矢理にでも来てもらう」


 気づくと、黒フードの顔が真横に現れます。

 いつのまに!?警戒していたはずなのに私が反応も出来ずに真横を取られるなんて!

 これはいったい!?


「風よ!」


 私は周囲に強烈な風を発生させ、黒フードを吹き飛ばし、そのまま地面を蹴り、バックステップで距離を開きます。

 黒フードは精霊術を使用し、巨大な炎を放ちます。

 恐らく上級の精霊術、これを打ち消すには私の精霊術では間に合いません。

 魔法で防御を…!


「ちょっと待ったー!」


 突然、空から黒い影が勢いよく舞い降りました。

 その影はよく見ると、襲撃者と同じ黒フードを着ていて、私に向かってきていた炎を触ります。

 次の瞬間、元からそこには無かったかのように、炎は消えました。


「手荒なことしちゃダメでしょ!」

「む、すまん…」


 恐らく女性であろう乱入者は、黒フードに説教を始めました。

 何がどうなっているのか分からず少し混乱します。


「すいませんアルミットさん!出直します!」

「え…えぇ」


 「ばいばーい!」と手を振って彼女と黒フードは路地裏へと歩いて行きます。

 って、いけません!一応犯罪組織なのですから、逃すわけには!

 私は彼女達が入っていった路地裏に急いで向かいますが、先は行き止まりになっていて誰も居ませんでした。


「何だったんでしょうか…」


 疑問が多く残りますが、とりあえずギルドに目撃報告をせねばなりませんね。

 そういえば何か忘れているような…あっ


「テュファネのこと忘れてました」


 私は路地裏から出て宿に向かいます、精霊の果実と『影』の関係など色々考えて無ければならない事が増えて困りますね。

 ギルドへの報告は明日にして、早く帰りますか。

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