第7ダンジョン編

第13話 朝はパン派です

 第7ダンジョン、地下50階層まであるその場所は、現在20階層まではマップが作成されている。

 それ以降は深層と呼ばれ、魔物の強さが異常に高くなっているのでマップを作る余裕がないそうだが、力試しと入ってゆく者は絶えないらしい。

 ダンジョン内は一面森の様になっており、天井には太陽の様に輝く魔石が埋まっていて、地下にいながら地上にいる気分になります。


「疲れたよ〜、アル〜おぶって」

「自分で歩いてください…私も疲れてるんです」


 そして今日も深層に挑戦した2人組がダンジョンからふらふらと出てきます。

 1人は夜闇のような黒い長髪に黄金の瞳、身長は160センチほどで弓を背負っており、腰にはナイフをぶら下げ、ショートパンツから見える白い足で周囲の目線を釘付けにしていました。

 もう1人は肩口で切りそろえられた青みがかった銀髪に青い瞳、首輪のような契約痕があり、ローブを着て腰に少し高価そうな剣を挿した少女、それは誰かと言うと私、アルミット・テラスティアです。


 黒髪の彼女はテュファネ・エルソラールといい、パーティを組んでかれこれ1年半、このダンジョン攻略を目指しています。

 ちなみに私の髪がなぜ短くなってしまったのか、それはこのダンジョンに原因があります。

 このダンジョン、30階層を超えるとまさかの精霊術無効化がおまけでついてくると言うなんとも厄介なダンジョンでした。

 1年前、30階層に突入し、剣での近接戦闘がメインとなり、油断していたところを後ろから攻撃され、避けきれず髪が持っていかれたと言うわけです。

 髪を切った魔物は切り刻み、燃やしてチリも残さず倒しましたが。

 なら魔法を使えって?ダンジョンで使えば必ず人の目につきます、勘違いして精霊術で行けると思い込んで人死が出るのは嫌ですからね。


「ねえアル、聞いてる?」

「はい、聞いてますよ、私朝はパン派です」

「うん、全然聞いてないね、だから43階層の話だよ!」

「その話ですか」

「新種の魔物、どう対処する?」


 私達は今回、43階層に突入しました。

 今のところ、私達がこのダンジョンの最深部を進んでいる為、魔物の情報が基本ありません。

 なので、弱点や特徴を探りながら進んでいるのでなかなか時間がかかります。


「アルの剣も一本折れたもんね」

「お気に入りの剣でしたのに…」


 この世界に来て2年間お世話になったおじさんシリーズの剣はまさかのご臨終してしまいました。

 魔獣は柔らかそうな見た目だったので、さっさと倒そうと切りかかったのですが、半ばからぽっきりと折れました。

 折れた瞬間のあの喪失感はすごい物で、「あ…」と一瞬頭が真っ白になりましたが、テュファネの放った矢が魔物の右目に突き刺さって我に帰り、変えの鮮血のような赤い剣を取り出し左目に突き刺し、脳を混ぜるように抉り、倒すことができました。

 死体を持ち帰ってどれくらいの硬さなのか調べたいのは山々ですが、ダンジョン内で倒した魔物は直ぐに地面に吸収されるので回収できません。


「いっそのこと大剣でぶった斬りしましょうか…」

「振れるの?」

「身体強化の魔法を使い続ければ出来ますよ、魔力量的に3時間、精霊術に切り替えて1時間の合計4時間が限界ですけどね」


 精霊術もほぼ完璧に使いこなせるようになりました、もうミスで混ざって暴発なんて事は起きません。

 

「4時間だけじゃ、43階層は超えられないね」

「そうですね…」


 どうしたものでしょうか、一匹ずつ目から脳を抉っていくなんて正直、精神的にもしんどい。


「とりあえず、ギルドに報告しますか」

「だね」


 ダンジョンは解明できていない所が多くあり、未到達層に突入後、その層にいる魔物の情報などを報告する義務が生まれます。

 その分報酬を貰えるのでなかなか良い稼ぎにはなりますが。

 ダンジョンの出入り口で帰還報告を行い、私達はギルドに向かいました。


ーーーーー


「やっと終わりましたね」

「じゃあ、パーっと飲もう!」


 ギルドに報告を終え、酒場に入りました。

 中ではいつものことながら大勢の人達がどんちゃん騒ぎをしています。


「お!深層組のご帰還だぞお前ら!」

「祝いだ!飲め飲め!」

「遅かったじゃねぇか!」


 私達は深層組と呼ばれています。

 今回は2週間ほどダンジョンに潜っていて、何時もより遅い帰還だったので無事をえらく喜ばれ、周りの冒険者に祝いのお酒や料理を渡されます。


「ほれ、奢りだ」

「ありがとうございます」

「みんなありがとー!」


 私とテュファネは乾杯し、宴会が始まります。

 それから新階層の話や魔物の情報、など話しながらお酒を次々飲みます。

 私達がダンジョンから帰ってくるたびに宴会が始まり、奢ってもらえるので申し訳ない気持ちもありますが、ダンジョン内での生存率が上がる情報より安いもの、と皆さん止める気配がありませんでした。


「でさー!その魔物のが固くてさー!アルの剣折れちゃってびっくりしたよ!」


 楽しそうに騒ぐ皆さんをみて、ここに来て直ぐの時はえらく馬鹿にされたな、と思い出しました。

 ダンジョン攻略を始めて少しずつ認められていき、今は仲良くできています。


「テュファネ、あまり飲み過ぎては後で後悔しますよ」

「らいじょうぶ、らいじょうぶ!さあアルももっとのんれ!」


 もうすでに酔っ払っていましたか…

 それから真夜中まで宴会は続き、全員べろんべろんに酔っています。

 私もだいぶ酔ってきていて、眠くなる前に帰らないといけないと思い、テュファネを背負います。

 彼女を背負って帰ることも、もう慣れました。


「みてみてアルぅ〜」

「まったく…」


 ずいぶんと楽しそうな夢を見ているのか、彼女はいい笑顔で眠っています。

 仕方ない人ですね、まったく。

 彼女を起こさないよう、静かに道を歩き私達は宿に帰りました。

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