朝が弱い男

誰にでも欠点がある。この男の欠点は、とっても朝が弱いことだった。

とにかく、少々のことでは起きられないのである。

目覚まし時計は、いつも3か月ぐらいで買い替えていた。慣れてしまうのだ。

これまで、あらゆる方法を試してきた。

最初はスマホのアラームを使って、いろいろな音や曲を使いながら起きていた。

しかし、そのうち初めての音や曲でも起きれなくなってしまった。

目覚まし時計もいろいろなものを試してきた。

音が大きい目覚まし時計。

音が鳴るとともに部屋の中を逃げ回る目覚まし時計。

パズルを解かないと音が鳴りやまない目覚まし時計。

でも、これらも長くは続かなかった。

眠りながら時計を追い回したり、眠りながらパズルを解いてしまうのだ。

男もこれには自分に苦笑した。

目覚まし時計を5台使っていたこともある。でも、これは大家から近所迷惑だと注意を受けてやめた。

枕を動かして起こしてくれる目覚まし時計もあった。

体に振動を伝える目覚まし時計も使った。

これらもすぐに慣れて寝続けるようになった。

思い切って、目覚まし時計をなしとすることも試した。

効果あったのは初日だけ。次の日は、思いっきり寝坊した。

 

では、睡眠の質を良くしようと、寝る前にリラックスする曲を聞いたり、アロマを使ったり、ヨガを試したりした。

いずれも、結局、起きるということには効果がなかった。

男は健康そのものであり、睡眠の質も元々良いのだ。

 いよいよとなると、すがる思いで怪しげなものにも手を出した。

眠気の魔を取り除くと言われるお札を買ったり、

脳波に直接、起床の命令を送ると言われる目覚まし時計を買ったりもした。

思い返せば、バカバカしい。もちろん、効果はゼロだった。


そんな男も、今は朝にちゃんと起きることが出来るようになっていた。

最強の目覚まし時計役が居てくれるからである。


「パパ!朝だよっ!お・き・て~!」

息子は父親の体の上に乗りながら叫んでいた。

「はい、はい。おきますよ~」


幼稚園に入ったばかりの息子が起こしに来てくれるのだ。

毎日違う方法で起こしてくれるから、男もちゃんと起きることが出来る。

男は、息子にとても感謝していた。

親孝行とは、案外、本人の見知らぬところで行われているのかもしれない。

 

おわり

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